共通の趣味
いやぁ、遂に買っちゃった。三つ目のスリーブ。二重スリーブで十分だと思ってたけど、カードゲーマー仲間から三重だと良い音が鳴るって言われた。まぁ、音はどうでもいいけど、カード捌きがスムーズだったからな。サイズも少し余裕持たせたし、ギチギチにはならないだろ。
「それに、まさか一週間遅れで新弾が買えるとは。しかも箱で。ショッピングモールって、意外と候補から外されるもんだな」
家に帰ったら、早速パック開封とスリーブ取り付け作業だ。それが終わる頃は午後四時頃か。キリコにちょっと対戦付き合ってもらって、ついでに一緒に晩ご飯食べてもらおう。
「……あ」
隣の上る側のエスカレーターにキリコがいた。買い物だろうか。女子らしく、服とかアクセサリーとか。
僕が手を軽く振ると、キリコは笑みを浮かべて振り返した。
そうしてすれ違った後、僕の真後ろにキリコが飛び移ってきた。
「あ、マナー違反だ。危ないよ、そういう事するの」
「だって、君に誘われちゃったもの」
「誘った? いつ?」
「さっき手を振ってきたでしょ。あれは所謂【お誘い】って意味でしょ?」
「全然違うよ。知り合いと休日に合った時にするちょっとした挨拶だよ」
「知り合いなんて悲しい言い方しないで。私と君の仲は、知り合いなんていう遠い関係なの?」
「遠くはないでしょ。むしろ僕にとっては一番古くて一番近い人だよ、キリコは」
「……たまに、ストレートに言うよね」
エスカレーターから降りて、そのままショッピングモールを出た。何故かキリコも一緒に外に出てきたけど、気晴らしついでだったのかな。
「何買ったの? それ」
信号待ちの交差点前で、キリコは僕が持つ紙袋を指差した。紙袋を開け、キリコに中身を覗かせると、彼女は少し呆れた表情で顔を上げた。
「またカード?」
「いいじゃないか。人の趣味はその人の自由。他人にどうこう言われる筋合いは無し」
「でも、私に一度も勝ててないじゃない。勝てないなら集める必要無いよ」
「勝てないから集めるんだよ」
「そういうの無駄骨って言うんだよ」
「まぁ、そうかもしれないけどさ。でも、勝てないほど強い人と対戦するの、結構好きなんだよ。特にキリコとは」
「……今日の君は、攻め気味だね」
「あ、そうだ。この後、暇?」
「ッ!? え、あ、いや、暇、だけど……でも、その、いきなり過ぎるっていうか……! 今日はずっといきなりっていうか……!」
「良かった。ちょっとまた対戦してよ。ついでに晩ご飯も付き合って」
「……お家デート」
「デートじゃないよ。でも、カードゲームに限らず、自分と共通の趣味を持ってる人が恋人だったら、きっと楽しいんだろうな」
歩行者信号が青に変わり、交差点を渡り始めた。
渡り終えてから、キリコがまだ交差点前で立ち止まってる事に気付いた。どうしたのかと思っていると、メッセージで【先に帰ってて】と送られてきた。何処か寄る所があるのだろうか?
そうして家に着き、一階のリビングで準備を終えてキリコを待っていると、二階からキリコが降りてきた。また窓伝いに僕の部屋から入ってきたようだ。いい加減普通に玄関から来てほしいものだが。
すると、キリコの手にカードの束が握られているのを目にした。スリーブは着けていないが、束の厚さからしてデッキのようだ。
「やろう。本気で」
「もしかして、キリコも始めてたの!? なんだ、言ってくれれば色々と―――」
「私が勝ったら、私の言う事を一つしてもらうからね」
「―――いいね。キリコが負けたら?」
「何でもしてあげる。文字通り、何でも」
「……燃えるね、このバトル!」
結果、五先ストレート負け。全てワンターンキル。
凄いな。ネットで紹介されてる強いデッキより理不尽だった。使われたカードも新しいものから古いものまで混ざってて、それぞれの能力を上手く噛み合わせてた。負けて悔しいを通り越して尊敬の域だ。
「……負けたよ。プレイスキルだけじゃなく、構築面でも隙なしとは恐れ入った。凄いよ、本当に」
「耳かきさせて」
「……あ、そうだ。晩ご飯だけど、キリコは何が―――」
「耳かきさせて」
「……やだ」
「約束破るの?」
「耳かきだけはやだ。他人にされるとくすぐったいんだよ」
「え? 私以外の誰かに耳かきされたの? 誰? 誰に? ねぇ誰? 誰? 誰?」
「母さんだよ。昔ね」
「あぁ、お義母様ね。ノーカンノーカン」
「久しぶりにピザ食べよっかな。僕頼みに行ってくるから留守番よろし―――あ、手掴まないで」
「ご飯なら私が作るから。その前に、耳かき、しましょ。ほら、ソファ行こ」
「いや、本当に耳かきは嫌なんだって! ねぇ! ねぇって―――イヤァァァッ!」




