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瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
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第1話 過激派の殺し方教えます Act.1 炎の剣 9



     9



食卓に並ぶのは鰺のヒラキ、納豆、生卵、マルトモのふりかけ、味噌汁は麦味噌を使用。

郁子は何も云わない。

だから「相手のコを今夜帰りには連れていくよ」と遼斗から云った。

今日は土曜、スーパーのバイトの日だ。

しかも夏休みシーズンでレギュラーの学生さんが有給を取ったということで、遼斗が残業してレジに入ることになっていた。

だから20時に終わり、それからくみ子を連れてこの家に戻ることにした。

だが郁子は「そう、わかった」とだけ云った。

―どういう子?外でごはんにしようか?うちで食べるのならば何がいい?その子苦手な食べ物なんてある?といろいろ聴きたいに違いない母。

そう、また言い合うことは二人とも察知して避けた。

あまり愉快な話ではないから、暗くなった後、他人に聴かれないよう、この部屋がいいことは二人とも判っていたのかもしれない。

勤務は8時から。

未だ眠っている可能性を考えて、遼斗は『昼に電話する』とだけLINEを入れて、休憩時間の12時にくみ子に電話した。

外で会いたいとくみ子が云うので、マクドナルドに20:30集合と遼斗は提案した。

「うん、わかった」と云うくみ子の声ははずんだものではなかった。

―姑になる女に会うのはそういうものだろう。

遼斗は男にありがちなひとりよがりの判断を下していた。


未だ高校生の遼斗は大きな重機を扱う免許は当然持っていない。

だが重機が桁やテトラポットを持ち上げ、移動する際、微調整が必要となる。

それはひとがワイヤーで引っ張り、目的の場まで誘導しなければならない。

その巨大なものたちを目の前で見て・触れて遼斗は圧倒される。

ショベルカーが土を掘り返しても、未だ取りはぐれた土砂は遼斗たち免許を持っていない人工たちが処理する。

―働いていると問題やイヤなことを忘れられるのは没頭しているからであろう。

そしてスーパーのレジ業務でも今没頭していた。

なんとくみ子に話すべきかを考えていたのだが、いつの間にかお客さんをさばくことしか考えてなかった。

肉体労働でも接客業でも、女たちのことを考えるよりは仕事の方が楽なのだ、といつか遼斗は思ったし、これからも思うのであろう。

ロッカー室で着替え、よく知るバイト仲間や店長と軽く雑談して、遼斗は自転車でマクドナルドを目指した。

遼斗やくみ子たちが高校に上がった年にできたマクドナルドにはドライブスルーもあった。

窓際にくみ子がいるのが判る。

この位置からは判らぬが、もうお腹はかなり目立つというのに、こんな目立つ店で大丈夫か。

―その姿を見られたくないから部屋で引きこもっていたんじゃあないか。

そう、疑問を持った遼斗は正しかった。

手を挙げて遼斗が合図すると、軽くくみ子を手を挙げた。

遼斗がスプライトを持って席に座ると、テーブルにはホットコーヒーとフライポテトが置いてある。

―飲み物だけだと店に迷惑がかかるなんて考えるんだよな、くみ子。

「おつかれさま」とくみ子が微笑して云う。

さて、話としては今から母親に会って欲しい、ということだがなんとなく、気おくれして、話のマクラに何か話したいという思いにかられた。

そこで、そういえば、口止めされたワケではないのに、どうして今まで誰にも話さなかったのかと思った話を披露した。

「刃として研がれていない大太刀を持っている大人にあってさ」とか爆発するダーツや手からかめはめ波を出せる人の話をしたが、くみ子の返事はどれも「そう」とか「そうなんだ」といなすだけだった。

切り出せないのをごまかしているにしか見えないし、しかもそんなけったいな連中と荒事が起ころうと、今の二人の切迫した状況になんら関係がないのは浜で「リラリラリラリラ」と鳴く〈炎の剣〉を見たのと同じで、その切迫した問題を改善する役には立たないのだ。

だから「今からうちに来て母さんに会ってくれないか」と遼斗はようやく切り出した。

くみ子が無言のままだったので、遼斗は母・郁子とどのように生活してきたかを秩父の時代から遡って解説した。

なるべく苦労話にならぬように。

くみ子は無言は変わらないので、なるべく楽しく話すように努めた、沈黙が怖かった。

それは遼斗が気づいたからだ。

―二人でお金を用意してこの町から出ようと決めたのに、結局はお母さん頼りのマザコン野郎かよ!と思われている!?

遼斗が怖かった無言がこの場を支配した。

家族客の小さい子どもが上げる奇声や笑い声がよけいに遼斗を苛んでいて。

だから「うん、貯金で二人で逃げるって話じゃなくなった。言い訳じゃあないけど、でもおふくろにバレていた。だからこの土地を離れるにしてもいっぺんおふくとに会ってもらいたい、そういうワケ。だから約束をたがえるとかじゃないんだ」と遼斗は云い切った。

またしても間。

「そっか、遼ちゃん、自分に非があるとか考えるもんね。相手や他人より自分の落ち度を探す」

とっくに笑顔が消えていたくみ子が云った。

「たぶん、夕飯用意していると思うんだ、おふくろ」

「遼ちゃん、いつの間にか母さんがおふくろになっている」とくみ子はぷっと少し吹き出したあとに云った。

それに気づいた遼斗も苦笑した。

「あのね、このお腹の子、遼ちゃんの子じゃない可能性があるんだ。それは松山でそういうことがあったんだよ」

その内容ではない、遼斗はずーっとくみ子の中にいがいがとしたものを感じていたその理由がようやく判ったことの方に驚愕していた。

「一つだけ、信じて。それは遼ちゃんと付き合う直前のこと。だから浮気じゃない」

「って、待てよ!だったら、その男も呼んでさ、三人で話し合おう!」

「ムリ!ムリなんだよ!だって、その男は客にしか過ぎないから!」

その瞬間、遼斗は全身が膠着した。

そのために隙がたっぷりできた。

逃げるくみ子を視覚で認識しても身体が動かなかった。

―後払いのマックにしたのはそういうワケ、か。

というような間抜けなことを思っていたが、そのおかげでくみ子を追わないといけない自分に気づいた。

追ったのだが、どこかで身重の女の子ならば直ぐに追いつけるという甘い考えがあったのだと思う。

昭和通りに止まった青のカローラにくみ子が乗り込むトコを遼斗は目撃した。

その手際に遼斗は棒立ちするしかなかった。

自動車を運転する四谷雛と遼斗は一瞬、目が合った。

四谷雛が微笑したのは遼斗をコケにする意味しか考えられない。


二村と五島の話し合いで、自分らのような〈海の旅団〉と違い、絶えず揺れる船舶に押し込めるのは若い女たちにはストレスと判断した。

だから、五島はもうリーダー船のクルーザーに移っていて、五反田川の7階建てマンションは四谷雛が仕切るようになった。

五島が現世では教師という立場なので、その生徒や他の生徒にバレるのはまずいと判断したのだ。

「かくまえるマンション案内するね」

雛の言葉にくみ子は無言。

「ねぇ、引き返してあげようか?あの男の子、泣いているかもよ」

四谷雛は心にもないことを云ってみた。

だが、くみ子は無言。

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