第1話 過激派の殺し方教えます Act.1 炎の剣 10
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そう、くみ子は昨年、3人の成人男性に遭った。
3人ともわざわざ松山で会ったのは、松山で水商売をしていた母親に会えるかもしれないという淡い期待があったのかもしれない。
母親は2時間かけて松山に出かけた。
―もう、松山にいるワケないのにね。
そこから先がくみ子には判らない、想像もできない。
夕方から出かけ、始発で帰宅する母は、日中眠っていた。
休日に外食することはあっても、おいたちや自分の家族、くみ子の父親のことは話さなかった。
―聴きもしないから、そうとうつまらない娘に見られてことだろう。
読書とサブスクの動画を観ていればいくらでも時間はつぶれた。
小学生の頃には自分の家庭状況が異常だと気づいていたので、なるべき人と関わらず、でも無視することはないくらいの距離を取ったので「所瀬さんってクールだよね」というキャラ付けをいつの間にかされていた。
―あと1年だから貯金でこの愛想のない娘は暮らせるだろうとでも思われたか。
そして思ったより、自分が母親を愛していることに気づいた。
出勤前に用意してくれる夕飯、無防備な母の寝顔、松山で乗った大観覧車、等。
すると単純にひと恋しくなった。
独りの部屋、気づいたら、SNSや出会い系サイトで何かした閲覧し・何かしら入力した。
四十路のサラリーマンと出会うことになった。
改札で出会い、「お腹空いてない?」と云われたので駅前のレストラン北斗に入ることにした。
男はカツ丼を、くみ子は釜めしを食べた。
いや、いくらでも理由はつけられた。
―食べ方が気持ち悪かった、太っていたから、娘と同じ年かと言われたから。
レジを男が済ませている時には自然と走り出していた。
怖くて振り返ることもできなかったため、その四十路男の反応は判らなかったが、良いようには思われていまい。
次に会った男はいきなりラブホテルに連れていかれそうになったので、これも走って逃げた。
出会い系ではなく・長い日記が書けるSNSにコメントをくれた男性だった。
具体的なことは何も書いていなかったが、唯一の肉親に捨てられた悲しみと恨みが抽象的に書かれていた。
そうしていると松山に出張すると相手が云い出したので、会いたいとくみ子の方から入力した。
会うと高価そうな薄手のジャケットを着た線の細い男性が改札にいた。
三十路と聴いていたが、大学生にも見えなくはない若さがあった。
「お昼にはまだ早いから、ちょっと行きたいトコあるんだ、付き合ってくれる?」
そうジャケットと赴いた先はあの大観覧車だった。
お母さんとの思い出のあの観覧車だった。
くみ子の気持ちは上がった。
てっぺんに近づくと子供みたいなはしゃぎ声を出した。
「カヴァンちゃん、ちょっといい?」
今までくみ子の受け答えしかしなかったジャケットが率先して話しかけた。
その瞬間、くみ子は初対面の大人の男と密室にいることの恐怖をようやく感じた。
ちなみにカヴァンはくみ子のハンドルネーム。
何かを取り出して両手を高く上げ、おびえるくみ子の首にその何かをかける。
「ヴィヴィアンウエストウッドのポーチ、欲しいって云っていたよね」
と笑顔と共にプレゼント。
「いいじゃん、今日の藍色のワンピースにとても似合うよ」
2人は観覧車を降りるとジャケットが予約していた市内の懐石料理の店でコースを食べ、「少しくらいならばいいだろう?」とくみ子は地酒を飲まされた。
それから巨大商店街を歩きながら松山城を散策し、彼が泊っている駅前のラブホテルではないホテルに連れ込まれた。
くみ子はそこで初めてのキスをし、初めてのペッティングをした。
そしてシャワーを浴び、いざそういうことになると「これは身体を売ったのではない、相思相愛だ。このひとは私の初めての相手として適う善いひとだ」と云い聞かせた。
だんだんとオーラルセックスが激しくなる。
もう一線を越える時にこう思った。
―違う!善いひとが未成年の、初対面の女の子にこういうことはしない!
挿入された状態でくみ子は後方に両手両足を使って逃げた。
ブレザーの陰茎は硬化し、挿入して二三度は上下運動を繰り返した後だったので、てらてらと光っていた。
くみ子は薄いかけ布団で裸を隠した。
その時にはもうそのジャケットの男を睨んでいた。
男は能面のような無表情となり、ベッドの上に座り、靴下をはき・シャツを着始めた。
「オレさ、ふた月に一回くらいは高級焼き肉店の食べ放題いくんだよ。こんなヤツでも友達はそこそこいるから旧友たちと連れ立って半年に一度はUSJに行って・帰りに馴染みの居酒屋で騒ぐ。離婚してもう女と付き合う気はなくなった。だから、焼き肉食べ放題や友達たちとのバカ騒ぎを定期的にして、英気を安なうようにしている」
次に下半身は裸のまま、旅行鞄に片付けを始める。未だ男は話している。
「たまにさ、そういうことをしたくなる。それと同じで若い女とデートしたり、一緒にごはん食べたり、好き合っていると錯覚するようなこと。だから、あんたは遊園地や焼肉食べ放題と同じなんだよ。自分では今人生でいちばんキツい目に遭っていると思っているだろうけどさ」
くみ子は布団の中の全裸の全身が弛緩した。
「じゃあ、なんで、そんな歯牙にもかけない女にそんなことを言っているんだろう。簡単だ、ちゃんと魅力的だったから勃起がおさまらいから、って、おさまったー!これでようやくパンツとズボンがはける。最初の約束通りに3万円はあげる。アカウントも消す、オレはこれで帰る。シャワーでも浴びて・ゆっくり帰るといい。詩はちょっとよかったぜ」
こうしてジャケットをはおって男は部屋から消えた。
職業を聴くと「コンサルだよ」と云っていたのだ、そこそこ社会的地位があったのだから、拒否されても大人しく撤収することはできた男のようだ。
自尊心とクールなキャラで通した矜持をくみ子はこの時に失った。
この五日後に札幌ラーメンの店でくみ子は遼斗と出会うのだ。
そしてこの日、くみ子は手当のために遼斗を部屋に誘う。
―部屋に二人なのに紳士だな。
くみ子はそう思ったが部屋に来るのが常態化した一週間後にお互い初体験を済ませる。
くみ子にはあの時にコンサルの三十路との記憶を上書きする必要があったところはあった。
そんな関係の男の子ができたから友達も母親もいないくみ子、ネットで性知識を漁った。
最初は遼斗となし崩しでそういう行為に及んだので避妊をしなかったことも手伝った。
「エロいことばっか検索すんなよ」と履歴を見た遼斗は云う。
そして妊娠してしまい、そう、遼斗と結びつくためのエビデンスになることを嬉しく・同時に後ろめたく思ったものだが、妊娠や着床についてやはりネットで調べるとたどり着く。
―尿道球腺液、つまりカウパー氏液にも精子が混入されていることがあります。
そう、あのコンサルによって受精された可能性がでてきたのだ。
「まずはふた月後にせまった出産を済ます。その後は私たちの組織で全面的にバックアップする。大丈夫、そうするのが本来の政治。20年後にはどんな状況でも安全に赤ちゃんを産める国になる、いや、10年後、5年後かも!」
運転する四谷雛の台詞はくみ子の耳には届いても・読解されなかった。




