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瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
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11/17

第1話 過激派の殺し方教えます Act.2 マリンドラゴン出撃 1



     1



くみ子が通されたマンションの部屋には同じ年ごろ、もしくは少し年上の年齢であろう女の子たちが10人ほどいた。

「アンタ、ヘマうったねー、そんなボテ腹なら、おっさんたち逃げちゃうよ」

髪をオレンジに髪を染めたラフな姿のギャルがくみ子に話しかける。

「ちょっとー!タイヘンな時期なんだから、くみ子ちゃんには優しくしてあげてね!」と四谷雛はくみ子だけを奥の部屋へ連れていく。

「今のコたち、なんなんですか」とくみ子。

「うん?私たちの組織が面倒みている女の子たち。ちゃんとバイト料も出しているし、だんだん更生に向かっているよ」

雛のは快活に答えた。

「あのー、もう21時ですけど、例の組織の偉いひとと会ってもうら、というのは」

カローラの中で、深夜にうちの代表にあってもらいたいんだけどいい?と雛はくみ子に頼んでいた。

「うん、まだかかりそうだから、眠っていたよ」

とスチール製のベッドを雛は指さした。

「ちょっと私はまた団体さんを連れていかなきゃいけないから、出るね」と雛は姿を消す。

その団体さんの話になるのだが、これは少し時間を遡る。

そもそもは五島が数日前、若菜は「冬月、今度の土曜にアワビの養殖場で排卵後のメスのいる水槽にオスの精子を入れて、人工授精するところを見学させてもらえる。深夜じゃないとムリだそうだ。おまえがリーダーとなって先生の住んでいるマンションまで五島科学部のみんなを連れてきて欲しい」と云われたので、惚れた弱み、もう部員8人には話をしてある、ということで、学校で集まっている。

―みんなが、みんな先生となんかある?まさか。

でも、みんな今、五島先生といかに仲がいいかを云い合って・競い合っている。

―私は先生がPCを立ち上げる時のパスワードを何回か見て知っているもの!

若菜も嫉妬を駆り立てられている。

「みんな、家のひとには断って来たんだよね?」と若菜が気を取り直して聴く。

すると「当然じゃーん!」とか「先生が言いだしっぺなら安心だってー!」と口々に答える。

そろそろ移動という時に宇江貴美子がやって来る。

「アレ、宇江さん、どうしたの?五島先生?」

若菜が聴くと宇江貴美子は首を縦に振った。

「今ちょうど待ち合わせ場所に行くところ、一緒に行く?」と若菜が尋ねると貴美子はまた首を縦に振った。

その一団が雛が迎えにいく相手だった。


くみ子はこの生活感のない部屋を訝しく思った。

ちなみに同じマンションだが、ここは五島の住まいの部屋ではなく、もっと平米数も部屋数も多い別の部屋だ。

雛や五島の組織でこのビル一棟を借りているからできる芸当である。

そんなくみ子だが、遼斗すら捨ててしまっているもう四谷雛に頼るしかないのだ。

そう思うととても悲しくなった。

十数秒後、「どうした?アーシと夜風に当たり行こうよ」とさっきのオレンジ髪のギャルが部屋に入ってきた。

ギャルたちの前を通る時に皆がボロボロと泣くくみ子に「どうした?イヤなら帰ることだよ」とか「ムリにこんな汚いことやる必要ないよ」などと云ってくれた。

オレンジ髪が加熱式たばこを風下で取り出す。

「許してね。あすこの部屋。煙草全部NGでさ」

「すみません」

「みんなの言っている通りだと思うよ」

その発言のワケを聴こうと思っていた時に、ひとかげがマンションから出てくるのを二人は見た。

「くみ子!」

「若菜ちゃん!」

オレンジ髪がフィルターを抜き取り、地面に捨てる。

「アレ!?友だちか?じゃあ、アーシは戻っているよ。二人で話した方がいい」

マンションの中に若菜と交代のように消えていく。

くみ子と若菜、「なんで、同じ場所に誘われているの?」。

「わたしさ、なんかヘンだと思い始めていた」とくみ子。

「うん、もう言うけど、私、五島先生と付き合っているんだけど」と若菜。

「エッ!教師と!」

「そこはもう大した問題じゃない!今さ、五島先生の顧問の科学部をこのマンションに連れてきた!でもおかしいよ、なんで、こんなマンションに集合?だから、ヘンじゃないですかと五島先生に電話するために、外に出たんだ」

「うん、私がいた部屋、ギャルっぽいコが多くて、さっきのオレンジ髪のコにエレベーターで聴いたら、みんな新居浜や呉から集められたって」

「なんかが推進されているね」

「うん、どうする?」

このくみ子の質問で、二人は水泳部のチームだった時代の精神に戻った。

「そこの宇和線に出たら、まだこの時間、直ぐにタクシー来るよ。まずは学校に行く」

この時に若菜は警察と云うか一瞬迷っている。

だが警察ではどうしようもない。

「学校に行ってどうすんの?」

「私、五島先生の個室のPCのパスワードを知っている。よくこもっていたから、絶対になんかあるよ!」

そう、何か証拠がないといけないと若菜は判断したのだ。

それは五島への想い、まだ信じたいという気持ち。

この時にマンションには雛しか統括役がいなかったから、あっさり二人はタクシーで高校を目指すことができた。

タクシー車内。

「お腹触っていい?」

「いいよ」


確かに夕飯の用意はしてあったが、その夕餉を母・郁子は一人で採っていた。

「母さん、ごめんよ、所瀬さんに逃げられた」

開口一番、遼斗は母に告げた。

それでも食事を続ける母。

遼斗は怒られると思った。

今までのくみ子との付き合ったいきさつ、今夜云われたこと(でもお腹の子が自分の子でない可能性があることだけはボかした)、青のカローラの女が所属するNPO法の話、そういうことを母に遼斗は話した。

その間に郁子は食べ終わり、味噌汁と豚の角煮を温め直して。

「夕飯、その所瀬さんが来るのを待っていたけど、食べちゃったのは宇江さん知っている?」

「うん、ぼくも売り子やっている時に天気の話くらいはする」

「娘さんは?」

「ひきこもりの?」

「そう、その子が『好きな人とこの町を出ていきます』と書置きをして出ていったらしい。それは多分、五島先生が相手だと思われる」

「学校の教師が!」

「まずはひきこもりの見舞いに来る唯一の五島先生を貴美子ちゃんが慕っていたこと、息子にゴメンね、貴美子ちゃんが先生用に避妊具を用意していたのを店員が目撃したこと、そして、あの五島先生、って、三者面談の時に、私たちを見下していたこと」

「!」

「うん、遼斗と先生が仲悪くなってしまうから言いたくなかったけど、こっちはお弁当作って・売るだけしかしてないのに、『副業はいかがですか?』とか『息子さんには奨学金より確実なお金必要でタイヘンですね』と言葉の端々にカマかけてきた」

「どういうこと」

「水商売か、もっと悪く熟女売春していると思われている」

母は吐き捨てるように云った。

郁子の引退した師匠の頃から弁当屋は地域密着型で固定客も多く、安い印象を与える値段なのに原価はかからない工夫をしていた。

だからそんな副業の必要がない。

「考えすぎだよ。ひがみに思われる」

「高校の用務員さんにそんな話を私は逆にカマをかけて。そうしたら、見たんだって、うちの弁当を教師一同で買った時に、『うわぁ、落としちゃった!』ってわざとらしく、地面にぶちまけたらしい」

「まさか」

「その用務員さんが呼ばれて、その落とした弁当の始末をしたのに?」

母親のこんな側面を遼斗は初めて見た、恨みや復讐といった感情だ。

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