第1話 過激派の殺し方教えます Act.2 マリンドラゴン出撃 2
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「母さん、おれ、今からくみ子を探してくるよ」
これが母への返答になっているかは判らなかったが、遼斗はそれがいちばんの母への解答だと思った。
「うん、それがいいよ。必ず、連れ戻すんだ」
食後のお茶を飲みながら、母・郁子。
「でも、フラれちゃった立場だから、見つけてもどうすればいいか」
「今はそんなこと考えるヒマじゃない。死んでもあのコたちを守るんだ!」
郁子、息子を睨みながら。
「判った!」
「待って!夕飯食べていきなって!多分、これから長い夜になるよ」
味噌汁をガスコンロにかけ、料理を電子レンジに入れ、その間にめしをよそった。
―いや、これは母親のウザさと受け取らず、素直に食べておこう。何かがいろいろおかしかった。そのおかしさが束になっているような気がしてきた。
母子家庭の遼斗のカノジョ・くみ子が受胎したという非日常ではなく、次元の違う・異変とか怪異と云われるジャンルに突入するのが今夜。
四谷雛だけがマンションから女の子たち、約30人を連れていくのは難しく思われたので、クルーザーから男たちを5人ばかり派遣することにした。
その中にツーブロックや眼鏡は入っていない。彼らは目立ち過ぎたので、浜へが上がるのは別のスタッフと五島が判断した。
「五島、おまえが行けば、いいんじゃね?」と今はサングラスに変えている二村。
「二村さんが片目になったのは、女たちに近づき過ぎたからですよね」と薄ら笑いの五島。
「違う、バレたからだよ。バレなきゃ、いい」
と二村が云うとスタッフの一人の太った中年が彼に耳打ちした。
「おい、一条さん、漁船で来たってよ」と二村。
「へー、これでようやく2回めですよ、会うの」と五島。
二村は漁船を結集せよ、とその太った中年に指示を出す。
大型漁船が小型の漁船やモーターボートを引き連れて10隻くらいが五島と二村が乗り込むクルーザーに近づく。
そのクルーザーの周囲に大小の漁船が30隻。
「これで合流して約40隻」と双眼鏡を片手の二村。
「最終的には50隻越えますよ」とスマホの位置情報アプリを見ながら五島。
「みんな好きものなんだよなー」
「二村さんほどじゃないっスよー」
二村の指示で、30隻が船首を雁首並べる。
大型漁船の船首には杖を突いた翁が一人、足腰おぼつかないならば、止まってから移動すればいいものを。
「おい、アレが一条さんですよね!?」と五島。
「ああ、百歳は未だ行っていないハズだが、もう90歳は軽く超えている。最年少で石堂清倫のグループにいて、尾崎秀実とも付き合いがあったと聴く」と珍しく二村の表情から笑みが消える。
40隻がライトの点滅で仲間であることを確かめ合う。
内部の居住スペースにいた船員たちスタッフが一条の姿を見るために、船首近くに集合してくる。
一条が乗る立派な漁船からは若年スタッフが拡声器を持ってくる。
あらかじめ置かれたスピーカーにも繋げる。
「一条さんは、とてもお喜びだ!未だ我らのバトーは結集している最中!最終的には50隻以上となる!」
その若年スタッフが高らかに宣言する。彼が今、一条のスペシャルなお気に入りのだ。
その彼が一条に拡声器を渡す。ちなみにバトーは仏語で〈船〉だ。
一条、ハウリングを起こし、咳払いやエーとを繰り返す。
「マルクス!レーニン!トロツキー!」と一条が声を張って発言すると、船首に集まった40隻、約100人の男たちから大きな歓声が上がった!
五十路以上の者たちは泣いている者が多い。
だが二村は泣いていない。
四十路の五島は周囲を見渡す。
―そう、長く残ったロートルか、近年オルグられた10代、20代が多い。中が抜けている。それは離職率、食かよ!?ともかく離れる者が多いからだ。それは甘い汁を吸わせないからいけないんだ。ちゅうちゅうと今夜はようやく吸わせてやれる。
「なぁ、一条さんの親衛隊に後の段取りは任せて、蝶々ちゃんたちを見せてくれよ」
下卑た表情の二村がそうつぶやく。
そんな二村に同調を示したのは五島も取り分を早く確保したかったからに他ならない。
郁子は宇江貴美子の行方を探す班に合流することにした。
その話し合いをスマホでしている母のやり取りを聴いていると「五島先生と連絡が取れない」と「貴美子以外にもこんな遅くにいない女子生徒が複数人いるらしい」とこの2点だけは遼斗は記憶した。
母が自転車でとりあえずの集合先である宇江家に行くと遼斗も町の方を目指した。
自動車で走り去ったくみ子の行き先など、遼斗が追える範疇でもなく、どこに行ったのかなんて、検討すらつかなかった。
だから本来であるならば、もう遼斗にこの時点で打つ手などなかった。
では駅前や海岸線をなんの手がかりもなく、とぼとぼと歩くか?
この自動車のもバイクのも免許がなり非力な高校生の男が。
警察も考えたが、それは最後の手段だ。
今、母親からはっぱをかけられ、自分でくみ子とお腹の子をなんとかしようとしたこの数か月がムダになるから、自分が判断して・行動することを第一に考えようとした。
―この数日、この状況を打開する〈こと〉が僕には確かにあったのだ!
「ハクちゃん、丈さんと望太郎とで未だそこに居てくれ。うん、うん、ヤツら事前情報だと50隻くるハズだが、あと10隻未だ来ていないんだ。ああ、よし、判った。20海里の位置にいてくれ、ヤツらもボロいだろうが探知機くらいは持っているだろうから」
これは伴賀の声。指示を出しているのだ。
「伴賀さん、誰かいますよ」と西谷君の声。
「うん、気づいているよ」と返す伴賀。
千丈川が八幡浜港に降り注ぐ辺り。
ここに吉祥と烏賊偉はいない。
2人は漁港に行き、五島や二村たちの動向を肉眼で観察できる位置で監視している。
伴賀と西谷がここに残ったのは、ユニット2シーピッポーが停泊してあるからだ。
漁港でこのシーピッポーで乗り入れて五島たちの組織に見つかることを避けたのである。
「伴賀さん、西谷さん、未だここにいると思ったのは掛けです。最初にここに来て、居られなかったら、繫華街を探すつもりでした」
無地のシャツとユニクロで買ったジーパンをはいている遼斗。
護岸から下のシーピッポーの甲板に飛び移る。
「おいおい、乗っていいなんて、言ってないよ」と笑ながら伴賀。
「やっぱり来てくれんらじゃあないかと思っていたよ」ともっと笑顔の西谷。
物凄い勢いで遼斗は二人に深く頭を下げる。
「伴賀さん、西谷さん、お願いします。僕のカノジョ、くみ子を探して欲しい。お腹には赤ちゃんがいます!」
未だ遼斗は頭を下げ続けている。
「なんで、そんなことをオレたちに頼む?タダの有閑おじさんの旅行グループ、さっ!」と未だ笑顔の伴賀。
「あんな奇妙な武器とこんな奇抜な船にメチャクチャにチューンナップした水陸両用車を持っていてもですか?」
遼斗は頭を上げ、伴賀の目を見る。
「ふふーん、ちょいと厨多君には見せすぎちゃったかな。まずはワケを聴こう、か」と伴賀、遼斗の目をそらさず。
若菜と付き合っていたが、同情からか・似たものを感じたから、くみ子と付き合ったこと、そのくみ子を妊娠させたこと、責任を取ろうと貯金のためこの土地でできるあらゆるバイトをしたこと、そして母にも話さなかった、くみ子のお腹の子が自分ではない可能性があることを、なるべく、ゆっくり早口にならぬよう、遼斗は伴賀を目を見つめたまま話した。
「でも、僕にはもうやることがない。そこでどうも伴賀さんたちと合流すれば、突破口が開けると思った。伴賀さんたちの仕事の手伝い!そう!旅行じゃなくて、何か企んでいるんでしょう!?手伝います。だからくみ子を、くみ子を」
語尾が云い切れなかったのは、遼斗は泣き出してしまい、言葉にならなかったからだ。
―こんなふうに同性の前で泣くの恥ずかしい。
「うーん、このハンカチで涙をお拭きよ」




