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瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
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第1話 過激派の殺し方教えます Act.1 炎の剣 6



     6



「もう、いいでしょう。遼斗、所瀬さんのこと、母さんに話して」

母・郁子は帰宅した遼斗に開口一番、今日の出来事も・ご飯どうする?も云わずに、こう告げた。

「な、なにを」の後に遼斗としては、ワケ判んない、とか、云っているんだ等を発音する予定だったが、続く言葉がお腹に力が入っていないから、発語できなかった。

郁子と若菜は面識があるし、自分の息子と仲良しで自然とお付き合いするだろうということを察していたから、お互い、カレシのママ、息子のカノジョのような関係であったのだが、ウソはつかないが・よけいなこのも言わない若菜は「仲悪くなったということではないですが、私と遼斗くんはもう付き合うことはないと思います」とだけ云った。

つまりくみ子のことは云わなかった。

だがそれを弁当店に来る客に独り言のようにこぼすと「所瀬くみ子ちゃんと付き合い出したらしい」とか「もう妊娠しているらしい」と幾人から情報が知れた。

狭い共同体らしい噂の広まり方と当人が知りたいと望むならばと、郁子は数日で複数人から話が聴けた。

そのようなことを息子に説明し終わった郁子。

相変わらず遼斗は靴も脱がずに玄関で立ちすくんだまま、突っ立っているだけ。

「ねぇ、そのくみ子ちゃんって母さんにも会わせて。怒るとか悲しくじゃなくてさ、二人の力になりたいんだよ」

ふと遼斗は全身の力が抜けた。

―苦労や迷惑をかけたくない・なにより単純に知られたくない、でも独り身の、血縁の協力も得られない女性とはいえ、大人だ。解決法をいくらでも知っている。

そう、役所やNPO法人に頼るのではなく、この母に相談すれば、直ぐに済むことなのだ。

元々、母一人子一人で生きてきた女、理解もあるだろう、母に捨てられたくみ子、このバイタリティある母ならば、上手くいく可能性は高い。

「ちょっと夜風にあたる」

母の返事を待たずに遼斗は外に飛び出した。

背後からはなんの声も聴こえない。

―逃げる?あなたもお父さんと同じ、とか思われていそうだな。

そんなことを遼斗は思った。


はたして、遼斗は飲み屋の多い、地域にいた。

点在するだけで飲み屋街とまではいかないが、それでもどこか喧騒を求めていたのだ。

―くみ子んち、行くか。

そう遼斗は思ったが、くみ子は「じゃあ、お母さんに相談してみようよ」と云うに違いない。

遼斗の出奔とくみ子の元に行かないワケ、それは〈自分でこの局面を打開する〉という目的でこの数か月がんばってきたのに、それが無になるイヤさからだと思われる。

―実際にめどは立っているんだ。

2人で別天地に行き、出産できるくらいの貯金はたまった。

だが、産後直ぐ・育児待っているくみ子と赤ちゃん、自分が養う、それが数年は続く。

―なんとかなるものなのか?

やってみなければ判らない、それはそうだが、と堂々巡り、だが遂に母親に知らされる事態。

―そうするのがいいのは判るが、それでは男としての矜持が立たない!

「あれぇ~、あん時のオスガキじゃんかよー!」

そう、札幌ラーメンの店で卑猥な話をして遼斗ともめたツーブロックだ。

あの時の他三人、唯一の〈眼鏡〉、遼斗にお冷の水をかけたから〈水かけ〉、固有名詞どころかあの時の状況でも何もしなかったから今名付ける〈空気〉も一緒ににいた。

「きみに助けられてけてから、あの後、この連れ三人からひどい目に遭ったんだよ、どう責任取るの?」

遼斗やくみ子、周囲の家族客はこの〈眼鏡〉がイジメられているから、イヤな雰囲気になったというのに、彼は今、遼斗を憎んでいた。

それが判るのはその〈眼鏡〉が遼斗の襟首をつかんで、路地に連れ込んだからだ。

遼斗には振りほどけることは可能な力だったが、〈水かけ〉が腰のベルトをがしっと掴み逃げられないようにしていた。

―オトナ三人、いや、四人、や、ヤバい。

千丈川にある材木置き場に連れ込まれる遼斗。

「どうします?このコ?」と水かけ。

「男の子も需要あるでしょう?」と眼鏡。

空気は遼斗を睨んでいる。

「めったなことを言うな!オレたちゃ末端は命令に従えばいい!」

と云うと同時にツーブロックが遼斗の右頬を殴る。

―ただのバカな観光客どもと思っていたが、躊躇なく殴れるとか、この会話の意味とか、やくざかなにかか?

過度な暴力に直面したというのに、遼斗は妙に冷静な分析をしていた。

「あの後よー!おれがどんだけ〈自己批判〉させらたか!おまえのようなガキに判るか!?」

眼鏡が蹴りを入れようと右足を上げた瞬間、直ぐに足をおろし、眼鏡は「痛ぇ!」と漏らした。

「なんだ!?なんか飛んできた!」と水かけ。

「ウッ」とツーブロックが、「イて!」と空気がそれぞれ漏らす。

見ると二人の右手の甲にダーツの矢が突き刺さっている。

唯一、未だ攻撃を受けていない水かけが辺りを見渡す。

闇夜、その水かけという身長は180は超えるであろう巨漢に、速足で忍び寄るカゲ!

そのカゲ、右手に長物を持っている。

―刀!?

遼斗は今更痛み出した右頬を抑えながらカゲの持つ得物が100は超えることを激突の前に認識した。

激突とはその刀、いや、太刀の柄を思いっきり水かけのアゴにぶつけること。

次にそのカゲは鞘から出さずにその得物で、ツーブロックの右頬、眼鏡の右足、空気の尻に次々と叩く。

つまり、位置的には上段、下段、中段とリズミカルにヒットさせていった。

そのまま次の応酬が入れるように構えを取ったまま、カゲの男は静止した。

カゲの男、年齢は30代後半か?と遼斗は思ったが、この時に40歳。

身長170で、細マッチョというのか、冬の木立のようなしなやかさと太刀を握る腕の筋肉が見えるような迫力がある。

「焼肉屋であったよね?遼斗くん?」

そう云われてようやく思い出したが名前までは思い出せない。

「吉祥光世だよ。大丈夫?殴られたから、こちらは助太刀することにした。よかったよね?」

「はい、ありがとうございます」

遼斗と吉祥がそんなやり取りをしている中、いちばんダメージを受けた水かけの両脇をツーブロックと眼鏡が抱えながら、四人は立ち去った。

「吉祥、仕掛けたよな?」

暗がりからもう一人、男が出てくる。

吉祥より10センチは高い背丈と暑いのに麻のジャケットを羽織っている。

だが、そのワケは直ぐに遼斗には知れた、ジャケットの両脇内ポケットあたり左右それぞれ10本ほどのダーツが収納されていた。

そして先あいつらに投げたダーツを回収している最中に吉祥から返事がある。

「ああ、空気みたいにいちばんキャラが薄いヤツの尻ポケットにGPSだ」

「じゃあ、おれが行くよ。烏賊偉っていう名だ。勿論偽名だ。少年、又会おう!」

そう云って走るでもなく、烏賊偉は例の四人組を追った。

「な、なんですか、あのひと」

遼斗が吉祥に歩み寄った時に、烏賊偉が唯一拾い忘れたダーツをこの少年は踏んでしまった。

その刹那、吉祥が鞘から抜刀し、地面と遼斗の間のダーツを切っ先で弾く!

直ぐに爆発!

けっこな大きさな破裂音!

―エッ!ダーツに爆弾!?エッ!?

「すまん、あとで烏賊偉には注意しておく」と軽く会釈する吉祥。

「そんなことより、その抜き身!?エッ!?」

遼斗が見たのは100センチ超える大太刀で、しかも刀の身幅が4センチ近くある!

更にその太刀の刀身は真っ黒だった。

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