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瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
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第1話 過激派の殺し方教えます Act.1 炎の剣 5



     5



カラオケ屋から出たくみ子は直ぐに帰宅することはなかった。

四谷雛の運転する青のカローラでくみ子は宇和島に出た。

カラオケ屋で雛から「ねぇ、一度は妊婦検診しないとダメよ」と云われたので、保険証を持ってくるように事前に云われた意味を知った。

だが、着いた先は病院ではなく、住宅街にある集会所だから道場のような建物だった。

しかし医者は本物らしく、五十路の女性だったので、くみ子は安堵した。

パーティションで区切られ、次々の診察が終わる。

―今すっごく安心している。

妊娠に気づいてから半年、それは不安と共に暮らしていく日常だったとくみ子はようやく認識した。

そしてアパートの前まで雛はくみ子を送った。

自動車の往復と診察で6時間、帰宅したら、もう夜だった。

灯がついている。

「よかった~!!」

この声は遼斗。

「どうしたの?」

「だって、出かけていることなんて、ないじゃんよ。逃げたんじゃなくてもお母さんが帰ってきて、連れ去られたとかいろんなイヤなこと考えた」

遼斗の言にくみ子笑顔。

―なんだろう、すごく嬉しい。

「母子検診行っていたんだ」

「エッ!大丈夫なのか!?」

「うん。実はNPO法人のひとに会って、チャリティーで検診受けさせてもらった」

「それ、大丈夫なヤツか?」

「うん、とてもいいひとだったし、先生も気遣ってくれた」

「で?」

「で?って?」

「そりゃあ、健康だよ、くみ子とお腹の子の」

「うん!母子ともに順調だって!」

確かにプリントアウトされた結果表にはそのように記されていて、尿検査等の結果が後日判るものに関しては四谷雛が届けるという話になっていた。

「なんか、仕事行くのイヤんなったよ」

「遼ちゃん、当日欠勤が多いから負担がオレに回ってくるって、言っていたじゃない。たまには負担を背負ってもらったら?」

「そうするか。そうしよう」

抱き着いた状態から離れ、遼斗は湾岸工事の簡易詰所に電話を始めた。


以前働いていたスーパーでバックヤード作業の仕事をやることにした遼斗はくみ子の部屋を11時には出た。

すると前から同級生の男子が二人やってくる。

眼鏡が上妻で、肥えた方が佐藤だ。

―あ、そうだった。今日は登校日だったか。

しかし、もう直ぐにこの町を出て、くみ子の新天地に向かうのだ、もう自分には関係ない、と遼斗は思ったから、二人の視線から逃れようとした。

ちなみにくみ子はNPO法人での出産と礼金合計20万円の話を遼斗には云い出していない。

「おい、遼斗!逃げることないだろう!?」

上妻が云って、二人で寄ってくる。

「逃げてねーよ。今日バックれたかたらバツが悪いだけだ」

湾岸工事のおっさんたちとくみ子と母親とばかり話しているから、同世代の同性と会って、急に気安く話せる自分が少しおかしくなった。

「来なくて正解だよ。クラスの女子たり誘ってフジクラン北浜のゲーセンかカラオケ行くかっていう話になったのに、大半がこれから五島先生の補修を受けるから、行かないってさ」

「最近どうもあの先生女子人気高いんだよなぁ」と上妻と佐藤が話すと、遼斗は「あのさ、冬月、冬月若菜は、どうした?」と問う。

「冬月こそ、五島教祖の教主よ。都会から来たインテリのアイドル顔、そりゃモテるかな、背は低いけど」と上妻。

「なんかイヤだな」

「それを遼斗が言うのはおかしいよ。おまえが冬月と別れたんで、五島教に入信したんじゃねーの」

「でもおまえ、もう童貞捨てたった噂だし」

上妻・佐藤の順。

「なんの話だよ」とひるまず遼斗。

「湾岸工事現場の事務のお姉ちゃん。ワケありーな感じの美人。違うの?」

―いやー、佐藤、そのひと、フツーに結婚して旦那と子供いるし。

「違うよ。でもおれが今冬月以外で付き合っているコがいるのはホント。そのうち、そう二学期には話すよ」

―その頃にはこの町にはいないだろう。でもそれが答えになるからウソは云ってない。

「ふーん、でもさ、あの五島っていうセンコー、ちょっとヤり過ぎだよ。元カノ、ピンチじゃね?」

上妻の質問に遼斗は「どうしてだ?」と尋ねる。

「2組の宇江、宇江貴美子いるじゃん、足怪我して、陸上辞めて、ひきこもりになった。あいつんちにしょっちゅう出入りしているんだよ。両親共働きだし」

「いや、学校を代表して面談しに行っているとか」

「遼斗、オレの姉貴がフジグラン北浜でドラッグストアのレジ打ちバイトしているんだが、あの貴美子が避妊具を買いに来たとレジを叩いた本人から聴いたんだよ」

「つまり、ひきこもっている女の子がそんなものを買うのは通ってくる教師のためしか考えられない、と」

「どう思おうが勝手よ、でもそれくらいしか思いつかないよな」

最近堤防でもあったが、あの教師はどうも底が知れないところがある。

それは笑顔だ。

笑う女は信用できるが、笑う男が信用できない。

それは女が笑うのは鎧とかの身を守る手段なところがあり、処世術として早いうちに笑顔を作り方を覚えるが、男のそれはよこしまな目的を持っての方法であるところが多い。

―だがその目的とは何か?


この土地では7階建てのマンションに五島充一は住んでいた。五反田川の河辺に建つ。

くみ子と遼斗がじゃれ合い朝を迎え、日中、登校日が終わると五島はこの部屋に戻った。

そしてその部屋には既に四谷雛がいる。

最初に云っておけば、だからといってこの二人に肉体関係はない。

それは今この部屋に二人でいるから無いというだけで、昔はあったということでもある。

「随分遅いじゃない」

四谷雛は古い付き合いの気安さからか、ホットパンツにタンクトップといういでたち。

「若い女の子はお話好きじゃない?酒も飲まずに聴き役に徹していた。おまんこもできないのに、バカバカしいったらありゃしない」

部屋着に着替えながら五島が話す。

「本当にヤってないの?あんたが珍しい」とは云いながら、雛、五島に缶ビールを渡しながら。

「二村みたいなバレて制裁くったヤツが近くにいるんだゼ。しねーよ」

「二村さん、そろそろこの八幡浜に来るよ」

「イヤだなぁ!あいつ、オレより年上のおっさんのクセにチャラいから」

「それに一条先生もいらっしゃるって」

「エッ!そりゃあ、そうか。これだけのデカいイベントなんて、そうそうないからな。何年だ」

「このセクションだと20年ぶりくらいって話を宇和島の例の女医から聴いたよ」

「あのばあさん、古参だからな。それより、今日は一日中、クーラーのある部屋で、昼寝か?」

「こっちはもうだいたい完了。今はメールでやり取りして信用を得たり、ダミー会社のHPを更新したりしていた。それとさ、スゴいコ見つけたよ。背がスラっとしていて、アイドルというよりは女優っぽい顔立ちで、最初は警戒されていて暗かったけど、笑うとその分、親しみを持つかわいらしさ!」

「そんな女、どこにだっているじゃんよ」

パンツ一丁で、缶ビールを飲み、冷蔵庫からキムチを取り出し、食べる五島。

「でもそのコ、妊婦だよ。しかも臨月。ね、今回の目玉だよ」

「ええええ!そんなコを騙しておまえ、心が痛まないのかよ」

「あんたたちに心はとっくに壊されたんだよ」

こんな内容の台詞をニヤニヤ笑いながら発音する雛。

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