第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act3 真水9
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転回のための風景、エピローグ1。
希雄くんの実家は蜜柑農家、今日は愛媛・長浜のそのお屋敷に零子と亜樹子を伴って帰宅していた。
そもそも瀬戸祭に感化されたから、東京の芸大に希雄は入学したのだった。
「おっ、希雄、ひさしぶりー!」
「よ!鴨ちゃん、おひさー!」
亜樹子と零子に紹介するのは私道鴨、希雄の幼友達、小中高と同じ学校に通った。
タンカーは去り、瀬戸祭をゆっくり回るため、希雄の実家を根城にし、希雄の家族から入浴と夕飯を勧められていたところ、その鴨くんはやってきた。
太刀魚や鯛の刺身でご飯を食べていて、酒は未だ入れていない。
軽い希雄に対し、優しい鴨という感じのコンビに女の子二人は見えた。
温和そうな表情に希雄の弟や妹、飼犬にもなつかれる姿に好感を持った。
だが、話を聴くとお父さんが2年前に亡くなり、進学ではなく実家の同じく蜜柑農家を継ぐことにしたという。
「いや、気にしなくていいよ。皆さんには申し訳ないけど、大学がそれほど楽しそうとは思わなかったし、いちばん若いから協会の代表だし」
「そうそう、それに鴨にはアレがあるしね」と希雄が鴨をつっつく。
「うん、アクセスランキング、5万ようやく超えたよ」
希雄の説明によると鴨は小説投稿サイト「小説家になろう」に中学の頃から自作を上げ、早い段階で、千人毎週読みに来ていた。それが今、五万。
「最初はドラえもんの映画の二次創作だったんだけど、今は活劇ものを書いている」
「え!読みたい!」と亜樹子。
するとURLを鴨は亜樹子に教えた。
「まさか、もう出版しているとかですか」と零子が尋ねる。
「さすがにプロはどうだろう。でも最近、うちの会社で潰れた印刷工場を買い取った、合併というカタチだけど。だから、小説本のオフセット本を作ることは簡単になった。今、そうとう有名な小説家の先生も文庫化されなかったりするから、本の装丁から自分で手掛けたら面白いかと思う」
「でもさ、小説って、漫画やアートと違って、けっこうな時間を確保して・じっくり読まないといけなくない?」亜樹子の素朴な疑問。
「そうですね。だからさ、この瀬戸内海で、ゆっくり泊まってもらって、読書してもらう。小説投稿サイトで、合評会、そう、実際に会うような感想を言い合う会を提言する。どうせ、皆が皆、全部読んでこないんだから、印刷して・読み易い環境を整える。旅行と読書と感想会を兼ねたごはんやおさけの席をもうける。読書というのは元来、満員の通勤電車や病院や銀行の待合室でするもんじゃない。優雅な場所で、時間を忘れてするもんだ。で、インプットしたらアウトプットしたくなる、話したくなる、だからそれをパックにする、どうだろう」
「いいじゃん!」と零子。
「それさ、私たちのこれからの活動に必要なアイデアだ!希雄くん、良いコを紹介してくれてありがとう!」と亜樹子。
この瀬戸内海でコミケよりSF大会に近いイベントを行う。
小説投稿サイトの聖地になってしまうのかもしれない。
この私道鴨が4年後に執筆する作品名は「瀬戸内マリンドラゴン」という。
転回のための風景、エピローグ2。
マリンドラゴン、瀬戸内海を走る。
八幡浜を目指している。
厨多遼斗の里帰りのため、海を渡る。
少し前に伊予長浜の港で亜樹子、零子、希雄、天鱈を降ろした。
天鱈は予讃線で別の瀬戸祭会場に向かい、三人は希雄の実家に泊まると云っていた。
仲直り、というほど、元々揉めているワケではなかったが、伴賀と亜樹子は笑顔で判れていた。
―そうか、フツーに生きていたら、あんなふうな一年後があったのか。
遼斗は進む先にいる肉体関係を持った女とお腹の中にいて、今や遅しと生まれてくるのを待つ我が子に思いを馳せ、案外アウトサイドなことをやっている自分に今更ながら気づく。
―ふふ、マリンドラゴンってなんだよ?
それはおのれの現状を自嘲するような想念だったが、別の問いでもあった。
八幡浜に着く前に見ておきたかったのだ。
「いやー、言ってくれれば案内したのに」
ここはマリンドラゴンの機関室。タービンが回る音、ボイラーで温まる空気。
そして遼斗を待ち構えていたのは、伴賀。
「じゃあ、見せてくれるのですか?」
遼斗、やけに丁寧。
「いやぁー、今はやめておこう。これからひとの親になる衝撃を味わうんだから、一日に何度も人生に関わるショックを受けることはない。身体に悪いよ」
伴賀、にやにやと。
「吉祥さんや烏賊偉さんも判っているんですね」
「うーん、知ってはいるけど、判っていない」
「?」
「つまり存在は知ってはいるけど、理解の範疇を超えているんだ。それは房くんも、ドクターもあの綾川さんですら、何も判ってはいない」
「皆は見たんですか?」
「見たよ。驚いていた。だから、一週間後、休暇後に見た方がって、ねぇ?遼斗、この会話成立しているよね?」
「はい、あの炎の剣の最大発火の連続放射、この巨体をも浮かすほどの放熱システム、それに複数枚の大きなミラーであるレーザー・リフレクター、あれ、プロペラのようなものが四隅に四つ付いていますが、動力なんですか?つまり、このマリンドラゴンって何で動いているんですか?まさか!?」
「いや、核ではない。オレすらも判っていない。だから、今は見ない方がいい」
転回のための風景、エピローグ2。
伴賀にシーピッポーで千丈川の河川敷まで送ってもらった。
2人は終始無言であったが、去り際に伴賀が「残りたくなったら、連絡はしてね」とおどけたふうに云ったので、「冗談じゃないですよ、マリンドラゴンに戻りますよ」と云い、女の子みたいに去り行くシーピッポーに手を振った。
早速目指すは市立八幡浜総合病院。
八幡浜港のバス停から病院はバスで10分。
久々の地面を久々の自動車という乗り物で移動する。
さて、どんな話からするべきなのか、と遼斗は迷っていたが会った瞬間、吸い込まれるようにベットに上体を起こしていたくみ子を抱きしめていた。
「海の、潮の香りがする」
「お腹が、当たっている」
そんな短い会話を2人はかわした。
くみ子が産気づくのは今夜の深夜とことなる。
間に合って、よかった。
何か欲しいものはないかと遼斗が尋ねると、「スーパーカップの抹茶、この病院の売店では売っていない」とくみ子が答える。
じゃあ、白浜通りのローソン、行ってくると遼斗は誰も他にいないのに、くみ子の左耳に耳打ちした。
病室を出ると、一人のがたいのいい男に睨まれた。
無視しようとすると、その男はつかつかと遼斗に歩み寄った。
「いきなり、すまないねぇ、でも言わしてくれ、あの子、きみの帰りを泣くのをこらえて待っていたよ。聞けば、責任を取るために遠洋漁業に出て、働いていると聴く。タイヘンで仕事の愚痴も言いたいだろうが、くみ子ちゃんはもっとタイヘンなんだ。こらえて甘えさせてやれ!これから母親になるんだろうけど、未だ子どもだ。だがきみは大人のフリをすべきだ」
ははぁーんと遼斗は思った。
―殴るほどの気持ちで、同級生の女の子を孕まして姿を消した男の登場を待っていたが、姿は見せたし、働いてはいると思い直し、かなり抑えて、戒めた、というところか。
「佐久さん!?」
そう、がたいのいい男が出てきた病室のネームプレートには「佐久」と記されていた。
―ひとのことは言えないが珍しい苗字ではあるよな。
赤子の泣き声。
名を呼ばれたが、佐久は病室に素早く、戻る。
見ると線の細い女性が赤子をあやしている。
「あれ、くみ子ちゃんの?」
やせている佐久の女房は問う。
「はい」と遼斗は答える。
「きみからは潮の香りがする。この人と同じね」
「ああ、そうだ、オレさ、漁船の中に住んで、いつでも漁に行き、いつ生まれてもいいようにいつでも港に戻れるよう、今年はずーっと漁船の中にいたんだ!」
―元海自のサブマリン・ライダーで、吉祥さんの部下の佐久さん!伴賀さん!ちゃんと海上のひとは今の時代にもいたんだよ!
遼斗はこれでも若いのに、機微をわきまえている男の子だ。
そんなふうなことをおくびにも出さずに、佐久夫妻とその赤ちゃんに笑顔で別れた。
ローゾンを改めて目指す。
病院の前でつかつかとこちらに歩いてくる宇江貴美子と遼斗は再会する。
「ねぇ!遼斗くん!私はいつになったら、マリンドラゴンの搭乗員になれるの!?栗之浦ドックでバイトして、造船のなんたるかを、船の本質かを学んでいるんだよ!」
凄い剣幕の貴美子に遼斗はこのふた月のマリンドラゴンでの生活の、何から話そうと迷った。




