第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act3 真水8
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「高橋をいちばん恐れたあんたはいちばん評価していたのに等しい。高橋の地盤を受け継ぐことに多くを掛け過ぎたな。でも知らなかったんだろう!?特権階級の家族への嫌がらせ行為も、豊田ジャンボジェット機撃墜事件も、軍用犬による宰相暗殺事件も、全てが高橋の仕業だって!子どもの女とセックスして、子ども相手だから死んじゃって、埋めて、自分の立場を利用して、部下の女を毒牙にかけていたことも!」
「ああ!知らなかった!クーデタは許せないことだが、高橋さんは憂国の志が動機だと思っていた!まさか!そんな破廉恥な卑劣漢だなんて思わなかった!知っていたら、ああ!知ってこそいたら!!」
「その発想をあんたに思わせるためにこそ、最後に密室に仕立てあげたんだ。成功するとかもう考えてなく、私的なアクシデントで死んでいく時に、なにか最後のギャンブルとして、掛けてみたくなった、という天才と呼ばれた軍人が最期には凡庸な想いを残したんだよ」
栗久も吉祥もマリンドラゴンのクルーも、場違いなタンカーの学生たちは別にしても一時間前までは敵であった氷室、膝をついて慟哭する氷室を哀れに思っている。
秋山も桶谷も、他のはやしお型のクルーたちは泣かず、ただ氷室の哀れな姿を見つめている。
その様子を烏賊偉が艦橋から眺めている。
「あー!なんてぇことだ!」
菅田一佐がまたしても沈黙を破る。
「海自始まって以来の大不祥事だっ!死んだとはいえ、現職左官の隊員がテロ活動に暗殺にクーデタ首謀者で幼児姦の変態野郎とかっ!これ、バレたら、海自は解散じゃねーかよ!」
菅田、云った後にパイプ椅子を蹴っ飛ばす。
「それで菅田一佐にはお願いがあるんですよ」と伴賀。「ペドリストを完全に陸自から、いえ、この国から排除していただきたい」
「当然だ!まずは舞鶴基地、いや、きみの話から察するに全国の自衛隊基地の職員を総ざらいする!今日から始める!」
「それは勿論です。だが、私の話にはスポンサーは出てきていませんよね?高橋というディレクターが死んだ後に氷室艦長を誘導したスポンサー兼オーナーがいたハズです。首相の時は軍用犬を一匹調達すれば足りましたが、ジャンボジェット機をタワーマンションに突っ込ませるとか億単位の準備金が必要です」
「おじさま、まさか!?」
「おっ!アキ、ようやくおじさんからおじさまに戻してくれたね。そう、あの豊田ジャンボジェット機激突事件、あれは同じ上級国民がライバルを蹴落とすために仕組んだ可能性が高いと見ている。絵を描いたのは高橋で、実行役は無敵の人のペドリスト、だが、黒幕はまだいる。でもね、この5年、うちの情報産業シャーク・インベスティ・ゲイションの総力を上げて調査したけど、民間の限界だ。でもあれだけ無能になった警察にはムリ、あっ!そうか、だから企業は自警団会社を立ち上げたのか」
「次、オレいいか?伴賀」と吉祥。「菅田さん、首を一つもらうと約束したよな。あんたの白髪頭はいらない。氷室の首をくれ」
その氷室、吉祥を見つめ始める。
「氷室が今回起こした騒動、かなりヤバい。仲間の隊員に怪我を負わしているし、潜水艦の稼働や修理で数百億の負債だろう。だがあの鬼畜の高橋に比べたら、未だかわいいもんだ。高橋の一件、絶対、自衛隊が総力を上げて、全貌を解明し、そして、そして、だな、巧く処理するんだよ、そんなダーティーワーク、背負ってもらおう、氷室にさ!」
氷室、吉祥を見ている額のスジを寄せる。
菅田は無表情だが、脳内では考えを巡らせている。
「わかった。舞鶴基地の不逞の輩はしょせん民間人、この情勢を知らぬであろう。だから氷室はそれを逆手に取り、一網打尽にしてくれ。他の基地に潜り込んだ連中も洗ってもらい。伴賀氏の言うオーナー兼プロデューサーを見つけ出してもらいたい。何年かかっても。きみはここで除隊してもらい、私と自衛隊首脳陣しか知らない艦隊情報軍番外班として、イレギュラーの組織の構成員になってもらう」
菅田一佐、べらんめい調を直す。
今度は氷室以外のはやしお型のクルーも泣き始める。
はやしお型潜水艦にはいつの間にか、海自の別の基地から隊員が乗り込んでいた。
彼らがようやく準備ができたらしく出発の合図を菅田に送る。
クーデタを企んだクルーたちは乗り込んでいく。
「吉祥、おまえのように辞めていた方が、こんな後悔することはなかったのにな」と微苦笑しながら氷室。
「マリンドラゴンに出会えたから、その意見は肯定しておくよ」と吉祥は仏頂面。
「氷室艦長、オレはあんたを許しちゃあいない」と伴賀。
「いいよ、今は誰にも許されたくない」
「だから、これは罰だ。軍人が人間の生き方として正しいのではない、海に生きることが人間として正しいのだ。これからは諜報活動、あんたは陸に上がった、これがあんたへの罰だ」
伴賀がこの時にどんな気持ちで云ったのか?吉祥も遼斗も尋ねなかった。
「判った、甘受しよう」
そう言うとはやしお型潜水艦に部下と共に又乗り込む氷室であった。
スクリューに絡まったワイヤーケーブルは他の基地の隊員が乗ってきた作業艦により外されている。
去り際、氷室は関の孫六の鞘を吉祥に無言で渡した。
「あ、帰る前にすみません、菅田一佐。今回の件は自衛隊への貸しにしておきますので、マリンドラゴンとうちの会社、これからも宜しくお願い致します」
そう、高橋の悪事に目をつむり、氷室の事件を解決したのだ。
「すみません、私からもいいですか、菅田一佐」神妙な面持ちの亜樹子。
「いえ、私たちからも、です」そう云う零子の背後には希雄や天鱈もいる。
「桑左さんには寛大な決断をなすって下さい」と頭を下げる亜樹子。
「桑左の罪を問うということは高橋の事件を露見させる。だからこのまま死ぬまで海自にいてもらう。それは監視されて生きるという罰でもある」
菅田一佐の言に、亜樹子たちの表情に光がさす。
「みなさん、こんな私、もう結婚とかする気もないし、子孫を残す気持ちもありません。一生、国防に千年するのが正しい処置だと思います。今はチェロを弾くだけですが」
音声だけで織美が訴える。
「いつか、この瀬戸内海に来て下さい。それくらいだったいいでしょう?菅田のおじさま!」
「アキ、こんな狸オヤジにおじさまとか言うな!」
「私、今回怒っているんだからね!甲板で歌を歌わせられるわ!忍先生ことをずっと秘密にしているわ!いや、この大学でこのセンターにこの瀬戸祭!なんかさぁ、おじさまの手の内に転がされているとしか思えないんですけど!」
「私は選択肢を与えるが、こうしろとは言わない。これは本当」
―そう、選択肢を与え、決断は本人を尊重する、それは本当だ。
遼斗がそう考えていると菅田一佐がヘリコプターに乗り込む。
その瞬間、菅田は亜樹子にウィンクして、飛翔する。
「スゲェなぁ、今回への海自への貸しはもう貸しなんてレベルじゃねーぞ」
遠巻きに見ていた栗久が伴賀に近づいて。
「うん、まだまだやることがオレにはあるから、その一端さ、計画通り!」
その伴賀の件に「海保は、海自のように甘かねーぞ」と云って、巡視艇いつくしまに乗り込む。
―初恋のひとのカタキを討つが八幡浜での目的だったな。
「伴賀さん、今回の伴賀さんの目的は達成されたのですか?」
遼斗はそう尋ねたのは、高橋の死の真相を暴いたが、ジャンボジェット機をタワーマンションに激突させた首魁までたどり着けなかったからだ。
「うん、叶ったよ」
伴賀の目線の先には亜樹子たちが音声のみの織美とメアドの交換をしている姿。
「瀬戸祭ジャンクション、瀬戸内海に新たな海に生きる人々を作ること、今回、アキとあの仲間たちがその発端を開いた。海の時代が来る、この瀬戸内海は海にして、大海へ出るための巨大なドックでもある。その時にその故郷の守りになるものこそ」
「マリンドラゴン!」
伴賀と遼斗は同時に発声した。




