第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act3 真水7
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そう西谷が東京各地の高橋二佐の旧住まいを訪ね歩いた時に感じた〈禍々しさ〉の正体、それは高橋が女子児童を狙う獣欲のようなものの残り香だった。
「享年から遡り、約20数年前まで高橋二佐は館山の牧場に育ちました。彼が高校時代にその周辺では小学生の女の子が三人失踪する事件が起きました。どれも未解決だったのですが、この度、20数年ぶりに解決しました。はい、館山の元高橋家の牧場の地面からその三人の遺体が発見されたのです」
西谷くん、マリンドラゴンにいた頃は若手三人組の中でもコメディリリーフ的位置づけにあった愉快な男。その彼が唾棄して云う。
「そうなんですよ、高橋二佐じしんがペドフェリアで、ペドリストが脚光を浴びた時に彼が彼らを率いられたのは、その世界でも有名な小児性愛者だったからです。そのLINEのスマホ、他のペドリストが名義貸ししたものだから、自衛隊の警務官も気づかなかったんです。だから、高橋二佐を無能力・無教養な・倫理なき変態を操った元締めとして捉えてはいけません。彼がその変態の大親分だったのですよ。変態の犯罪者は九分九厘単独犯です。ですが、ヒトラーやスターリン、サーロット・ソー、あれらは変態の犯罪者ではないのか?そうです、変態の犯罪者が軍の有力者だった場合のみ、犯罪ではなく、国威高揚の意味合いで受け取られるのです。これは人類の宿痾だ」
「なんというアンヴィバレンツ―」
伴賀の発言の後に皆の沈黙を破ったのは菅田一佐の独語。
「伴賀さん、でしたか、これからは私がお話します」
又音声のみの織美。そして続ける。
「両親が早くに離婚して、引き取った母親が過労で死去してしまった私は児童養護施設にいた私は、早く自活したくい、でも中卒では企業ではスタートから不利。色々就職先を探して自衛隊に興味を持ちました。中一の頃から説明会に出かけ、自衛官との対面懇談会にも出席しました。その対面の相手こそ高橋二佐でした。背も低く・幼く見えた私だからでしょう。今から考えると、それを子どもながらに見抜いてんだと思います。自衛隊に中学卒業して任官する以前から私はあの男に―」
「おじさん!もう止めさせてよ!」
―この子、私の同い年じゃない!
亜樹子の発言と内的独白。
「あなたは?」
「関本亜樹子、豊田ジャンボジェット機激突事件の遺族です」
「この5年、黙っていたのは酷いストレスでした。彼を殺したあと、忌むべき魔物を退治したとも、狂った哀れな男の凶荒を止めたとも思っていません。彼がどんなひとであろうと私の罪は罪、私は被害者になんて成らない!」
「じゃあ、その高橋という男のひとがそんな悪事を繰り返していたと、織美さんは知っていたの?」
亜樹子、問う。
「いえ、本当に例のニュースとかで聴く『カッとなってつい』でした。何故なら、あの人は言ったんです。本人は軽口のつもりだったんでしょう。『おまえももう大人のカラダつきになってきたな。おまえ幼女の代替品だから、そろそろ次にを探そうかなぁ』って。私はあの日、あの人が詰める部屋に行ったのはいつものように性交するためでした。窓の欄干は広いので、危険だとは思いませんでした。落ちても3階、死ぬことはないと窓から入りました、いつものように。思うと、私は、アッ!これ決して言い訳ではないんですが、父親がいなかったから、どこかで父を見ていたのかもしれないし、こんな偉いひとと結婚できたら、とも思っていたのだと思います。でも、やっぱりただのはけ口でした。海軍から伝わる秘密の恩賞品―。その話を聴いていて、デスクの引き出しにしまってあることを知っていました。事が終わると、私はやはり窓から、ジッパー付きの厚手のビニール性の袋に入れて立ち去りました」
「ありがとう、桑左さん、もういい」
「伴賀さん、この春に私たちの楽団を聴きに来ていただいた時にはもうご存じだったのですね」
「うん、ようやく5年前の事件の首謀者が高橋二佐に絞られ、その性癖と野望を知り、周囲を見たら、桑左さん、きみが浮かんだ」
―半年前に、既にここまで!
これは皆の感想だが、やはりいちばん驚いたのは吉祥だった。
だが後に伴賀に聴くと「あの事件にあんたが絡んでいたのはマジ知らなかった」らしい。
「そして、その短剣をあなたに渡した。今現在私の周囲にはあなたの部下が複数人、多いくらいいる。大丈夫です、自殺なんてしません」
織美が云い終わると、伴賀は簡易式の折りたたみテーブルの上に証拠である銀製の鞘に入った短剣を置いた。
「すみません、桑左さんとやら、どうやって密室状況を作り出したんだ、それを教えてもらいたい」
特に氷室も知りたがっていたことだが、これは吉祥が尋ねた。
「さすがにもう、オレが語ろう。これは憶測だ。まず、衝動的に事をなした桑左さんは凶器は持ち出したが、入ってきた窓から去った、それだけだ。彼女にはオレも尋ねた。『どうするつもりだったのか?』と『捕まるつもりだった』と答えた。事のデカさに自首をする勇気はなかったとも聴いている。直ぐに判ること、いずれは警務官に捕縛されるだろうと思っていた。だが事件は吉祥一尉が詰め腹を切らされて事実上、解決したかのようにされた」
伴賀が云う時に菅田一佐をちらとうかがうが、菅田は目を合わせない。
「そうなんですよ。この密室が本件のいちばんの本質です。何故に密室は構成されたか?実行犯である桑左さんは何もしていない。氷室艦長も吉祥一尉もドアを開けるのにひと苦労している。じゃあ、どうして密室なのか?これは瀕死重症である高橋が窓をロックしたとしか考えられない」
「ちょっと待て!伴賀とやら!高橋二佐がどんな理由でそんなことをするんだ!?その女性士官が帰ってきてとどめを刺すことを驚いたか?若い女性士官との情事を隠したかったか?ええ!どうなんだ!」
これは今まで沈黙していた氷室である。
「いや、あなたのその怒りが答えだよ、氷室艦長。高橋はもう自分が数秒後に死ぬことを察した。だから逆襲なんて怖れる必要なかった。スキャンダルなんて死に行くヤツにはナンセンスだ。そうだよ、あんたみたいなバカなヤツが現れることを期待して、密室で死んだんだ」
伴賀のこんな表情を以前にも見たな、と遼斗は思った。
―ああ、日左連をボスを撃ち殺した時、か。
「氷室艦長、高橋のクーデタを知ったあんたは規模もまで知っていた。おそらくクーデタ首脳陣の内ゲバで殺されたと見たんだろう。すると地盤がごっそり残る。密室が隠蔽したのは痴情の縺れという個人的な要因だったのだ。それを軍事的なものと勘違いさせる。その相手は吉祥かあんたと想定していたハズだ。あの時のこの国の情勢、酷いもんだった。今でも酷いが富裕層がテロに遭い、自警団会社が乱立して、警察組織は弱体化し、革新政党はとどめを刺され、与党は代表が犬に殺された。まさにあんたの言い分通り、軍人政権の誕生か、他国からの侵略か、そんな事態。高橋は自分の後継者を残す、いや、作り出すために密室で死んだ。まんまと最期の仕事の引っかかったんだよ」
「おい!オレはちゃんと高橋グループの残党と連絡を取り合って、舞鶴基地を支配できる態勢を作り上げた上で、この作戦を開始した!おまえがいなければ、今頃はー」
「今頃は、軍事政権の将軍、か。海底ケーブルをとっと日本中切断しておけばよかったのかもな。吉祥、高橋の配下は誰もがシンパばかりで、幹部らしい隊員はいなかっただよな?そうですよね、菅田一佐?」
「ああ、クーデタが起きたらいいな、レベルのヤツしかいなかったから左遷で済ませた」
菅田の代わりに吉祥が答える。
「でもな!舞鶴基地にはクーデタの実行役が仰山いるんだ!」
「ああ、それは非正規雇用だ」
「は!?」
「隊員はいないんだよ。基地内のコンビニの店員、食堂の調理師、朝と深夜働く清掃員、そういう労働者として、高橋はペドリストの面々やこの世に恨みを持つ高齢者たちを基地内の隊員以外の従業員として、大量に雇った。でももう5年前だから今は半数以下だけど。でもそれが未だにいる!おまえに連絡してきた高橋の遺産は頭を失ってただの元の愉快犯に戻り、その愉快をおまえに求めたんだ」
「いや、そんな、まさか!?」
「誰かにあったのか?」
「会っていない」
氷室艦長、その場にうずくまり、撃沈。




