第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act3 真水6
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「目線、入れましょうか」
伴賀はディスプレイの上に付いたカメラに話しかける。
「いえ、いらないです」
ディスプレイ内の女性が答える。
「お名前と所属をお聞かせください」
「桑佐織美、二十歳、海自、横須賀音楽隊所属の二等海曹です」
又どよめきが起きるが発音していない菅田一佐がいちばん驚いている。
織美は制服ではなく、ブラウスを着ている。
「では、話してもらってよいですか」
「はい」
「どのようにして高橋二佐を殺しましたか」
亜樹子は伴賀のおじさまのイヤなとこを見せられたと思った、この会話に不快なものを感じ始めている。
「窓から忍び込みました」
―そうだ、確かにあの部屋には窓が一つだけついていた」
「高橋さんは名うての軍人です。殺害は困難だったと思います」
「いえ、油断して後ろを向いた時に、背後から忍び寄り、後ろから首をかき切りました。だから返り血も浴びていません」
「凶器は何を使用しましたか」
「高橋二佐のデスクの引き出しにあった短剣です」
「以前からその短剣の所在を知っていましたか」
「ええ、褒賞品として受け取り、特別に研いでもらっていた、と彼から聴いていました」
織美の〈彼〉には一堂、少し生臭いものを感じた。
「では、凶器を用意していたワケではないのですね」
「はい、先にお応えするとその短剣はデスクの上に置いてあったジッパー付の厚手のビニール袋に入れました」
細かい文具をまとめるアレか、と自衛隊のオフィスにいた経験がある関係者は想像した。
それより、戦中以前の慣例である海軍の恩寵品である宝飾品めいた短剣の付与が未だ行われていたことをここにいる氷室と吉祥は噂では聴いたことがあり、はやしお型のクルーたちは丸で知らず、菅田は表情を悟られないようにしていた。
「そして部屋を後にした」伴賀の質問は続く。
「はい、そうです」
織美が答える。
「伴賀くん!この女性隊員を拘束したい!どこに彼女は今いるいんだ?」
パイプ椅子から立ち上がる菅田。
「そう仰るかと思い、リモートにしたんじゃあないですか?お判り?」
「いや!そんなことより、部屋を出たって、どういうことだ!?ブリーフィングルームへの自動ドアは厳重を極めていた!それに上司を衝動的であれ、殺す動機って、いったいなんだ!?」
伴賀を遮ったのは吉祥。
「うん、桑左さんの映像はもうここで切りますけど、こっちの映像と音声は聴こえるようにしておくし、発言はできるようにしておきます。だけれども、桑左さんはもう話さなくていい」
伴賀がそう云うとディスプレイの映像はぷつんと消える。
「こんな、太陽の光が降りしきる甲板でする話じゃあないんだ。でも同時にこの瀬戸内海は金田一耕助が関与した因習と血の悲劇の舞台であるから、案外似合っているかもしれない。ここからは順序立てて行こう。まずこの約10年くらい日本で猛威をふるっている、匿名・流動型犯罪グループことトクリュウの更に進化系であるところの非組織型犯罪グループ、ペドリスト、高橋二佐がボスだ。これはうちの情報産業シャーク・インベスティ・ゲイションの名うてのエージェントが集めた証拠で揺るぎない確信がある」
伴賀の台詞にみんなが発言したかったが、黙ったのはみんなが続きを聴きたかったからに他ならない。
すると大和田律夫が甲板に姿を現し、皆の前にパワポで作成した小冊子を配布する。
驚くべきことにLINEで犯罪計画を立てたり、事後の感想のやり取りが、繰り返して云うがLINEで行われている様が掲載されている。
「ペドリストはそう呼ばれる者たちが好き勝手にネットで上級国民や特権階級と呼ばれる富裕層の民衆の住所や勤務地等の個人情報を晒して楽しむ愉快犯だったが、それを統合した人物がいて、その一人が高橋二佐だった。多分、高橋二佐と同じようなことを考えた悪人は複数いたが、その中でも極めつけの悪人が高橋二佐だった。〈無敵の人〉を集め、行った最大の犯罪があの豊田ジャンボジェット機激突事件。あれの首謀者は高橋二佐だ」
この伴賀の解答にはやはり皆は驚いた様子だったが、亜樹子と遼斗だけは伴賀の物言いに歯切れの悪いものを感じた。
そんな反応とは別に、その事件で母を失った当事者でもある亜樹子は発言する。
「なんで、そんな、大量殺人をする必要があったの?」
「おそらく、LINEのやり取り等から推察されるのは、クーデタの事前準備・前哨戦・シミュレーション、といったところだと思う」
シミュレーション!
あの大量殺戮の大惨事ですら練習でしかなかった、という推理!その考えこそが人命をないがしろにする悪意を感じる。
「軍人の戦略論と訓練、ペドリストたちの無敵の人としてのニヒリズムと特攻精神が巧く実を結んだ。さて、次!西谷くん!」
童顔で小太りの西谷が陸幕の南郷を伴い甲板を歩いてきて、ディスプレイの横に立つ。
「この映像をご覧ください。これは高橋二佐の一族が経営していた館山の牧場にいた犬です。でもただの犬ではありません。号令をかけると直ぐに反応します。つまりかなりの鍛錬を積み、能力に長けた軍用犬です」
画面では陸自の南郷が「アテンダント!」と叫ぶと飛びかかる姿勢を見せ、「ファイト!」と命じるとデカいイウォークのぬいぐるみを執拗に咬みだし、数秒でボロボロにする様が流される。
「陸自の前身・旧陸軍は軍用犬の調教に関しては当時の世界の軍隊ではトップクラスでした。軍用犬先進国である友好国、ドイツからジャーマン・シェパードやドーベルマンを輸入して、調教し、戦力とした歴史があるのです。そして高橋二佐の曾祖父の時代から、陸軍の中枢として、軍用犬戦略に長けていた人物と知れます。そしてその調教技術を絶やさぬために館山の牧場で延々と軍用犬の訓練を続けていました。
動画はその最後の一頭です」
南郷隼人が云い終わると伴賀が代わる。
「うん、南郷さん、ありがとうございます。豊田ジャンボジェット機の方はあたりがついていたけど、実はこれは僥倖、私も気づかなかった。西谷くん!お手柄だよ!本来ならば裏取だけが目的で、うちの大和田と西谷くん、陸幕の南郷さんには動いてもらっていた。それは後で説明するとして、犬の飼い主のおばあさん、あの現場で直ぐに服毒してこと切れたおばあさんはダミーだ。ペドリストという愉快犯だけでない。高橋二佐は余命いくばくもない・この世に恨みがあって・死ぬ前に自分の承認欲求を満たしたい老人、この国の半分以上の人口層の老人たちをも手駒にする技術、これも実験だよ」
「おい、ちょっと待て!」と伴賀の解説に菅田が水を差す。
「死んだとはいえ、うちの左官がこれだけの重大犯罪の首謀者だというのか!?何の証拠があって」
皆の視線により、菅田は沈黙した。証拠がまさに小冊子でディスプレイで積み上げられている中途であるからだ。
「空港のセキリュティやハイジャックの手順、軍用犬の調教に首相の動向、よく考えれば、この国の中枢にいる上位の軍人は直ぐに調べられるし・把握している、これはうちみたいな民間の調査会社にもムリな仕事さ」
「いい加減にしてくれ!高橋二佐はそんなことをする動機がまったくないじゃあないか!」
氷室が初めて、伴賀を正面から見据えて、睨んだ。
「氷室艦長、彼は邪悪だったんだ。本当に邪悪だった」
「そう邪悪でした」
ディスプレイには未だ軍用犬と成り果てた館山の犬が映されていたが、その声は皆も覚えのある織美の声。
「西谷くん、桑左さんの代わりに、頼むよ」
「はい、高橋二佐こそ正真正銘のペドリスト、つまりペドフェリアでした。彼の東京での住まい、例外なくすべて私立女子小学校の近くにあったのです」




