第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act3 真水5
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そう、潜水艦戦を本作ではこの間、やたら居合い抜きに例えてきた。
一度抜いた刀は死に剣となる。
例えば、吉祥も氷室も「よぉ、久しぶり」とか「どうしてた?」と軽口も交わさないし、「おまえが仲間になってくれていたら」とか「あの時はすまなかった」と云いたいことも云わない。
それはこのはやしお型潜水艦の甲板に立った時点から勝負が始まっていたからだ。
どっちが先に抜くか、どう抜くか、どの向きに抜くか、そういう読み合いがこの雫型の兵器に降り立った瞬間から開始されたのだ。
身長差は吉祥が190、氷室が180、ハンデは発生しない。
お互い、海自では名のある剣士、経験と経歴も良い勝負だ。
だが、この戦い、吉祥が圧倒的に、不利!
吉祥の得物は鉄心の太刀、研がれていないので、刃が無いからだ。
だが氷室の得物は関の孫六、それは日本刀という殺人芸術品において最上クラスの業物。
肩を撫でただけで肩のその上部は、パットが取れたが如く、斬られる。
少しでも触れたら致命傷だ。
おそらく前話の乱戦のような作戦では鉄心の太刀の方が勝る。
なにしろ攻撃力を極限にまで高めた太刀だからだ。
当たったら重症ではあるが、致命傷にはならない。
どういうことか?
それは関の孫六がマグナム弾が撃てる拳銃であるとするならば、鉄心の太刀はバズーカ砲、それをこの至近距離でやるのだから、いくらバズーカ砲が弾薬に威力があっても、マグナム弾で最初は右手、弱ったとこにマトが大きい胴体、最後に喉か頭と撃ち抜けばいい。
―そう、確かに氷室ほどの使い手、勝つ自信はすこぶる、無い!だが、一つだけ、オレには負けられない理由がある。それはあのマリンドラゴンの、あの艦橋から、伴賀を今、オレを見ている事実だ!
海保の職員がこの潜水艦の上に殺到するのは時間の問題。
さすれば氷室と仲間たちは捕縛されるであろう。
だから、この船上の刀喧嘩には、何の意味もない(小島よしお)。
吉祥は不利だが、氷室にはもう時間がないのだ。
しかし、2人には深い因縁があった。
高橋二佐を殺したと目され、海自を辞めた吉祥。
何があったかはこの時の吉祥は知らないが、その高橋二佐を更迭しようとしていたのに、現在、その高橋二佐を継いでクーデタを画策し、結果、その思いを潰された氷室。
復讐の相手でも、憎いからでも、ジャマだからでもない。
吉祥は氷室の行動と思想が許せず、氷室は吉祥を歯がゆく思っていた。
殺し合いをするほどの感情はない、だが、今2人は得物の剣を持ち、潜水艦の上にいる。
―別レヲ悲シマズ。
吉祥も、氷室も一歩、遂に、詰め寄った。
始まった!
だが吉祥の行動は意外なものだ!
つんのめった!
つま先を折り曲げ、コント芸人のように膝を曲げず、倒れる。
だが首を思い切り曲げ、視線は氷室を離さない。
氷室、とっさに中段から下段の構えを選択する。
地面に頬が触れる10㎝前で左の掌手で地面を叩く吉祥。
横から見れば、吉祥の巨体は25㎝まで沈んでいる。
左手を叩いた反動、プラス、左手を軸に、右手で下から上に太刀を振り上げる!
両手持ちの氷室の関の孫六の鍔に切っ先がヒット!
つまり、吉祥は25㎝まで身体を沈め、その倒れた姿勢から、抜刀し、敵の鍔にその太刀を振り上げた、という構図。
「吉祥天流抜刀術、浜千鳥」
吉祥は小声で発音する。
落とした関の孫六は転がり落ち、瀬戸内海に消えた。
氷室は呆然としていた。
―つまり、これを打ち出すタイミングを見計らっていた、か。
氷室が吉祥を見たのは彼が何か話しているからだ。
吉祥は例のデバイスで伴賀と会話していた。
「うちのレーザー・リフレクター、ああ、あの巨大レンズの水中ドローン、あれで、今、おまえの関の孫六、回収したってさ」
その様は海保のいつくしまも、関本海運のタンカーも集まっていたので、その乗員たちに目撃されていた。
忍教授が左手の装飾品を引きちぎる。
「先生!何をしてんですかー!数珠をこんな海上でぇ!」
亜樹子が抗議。
「いや、これは数珠でなく、勾玉。今治の方で発掘されたのをブレスレットにしていた」
「いえ、何でそれをバラして、海に捨てたのかを尋ねているのです!」
「刀、鏡、が海に落ちたんだ。勾玉の落とさないとな。ここは壇ノ浦ではないけどね」
忍の言葉で見立てを理解した亜樹子は微笑をその返答とした。
さて、これではやしお型潜水艦の一件は落着した。
今、海自のヘリがマリンドラゴンの甲板に着艦する。
そのマリンドラゴンの地平には同船の伴賀を始めとするクルー、海保からは栗久だけ、瀬戸祭の天鱈、亜樹子、希雄、零子、忍教授、そして痺れ薬を中和されたはやしお型潜水艦のクルーたち、氷室、秋山、桶谷も何ら拘束もされず、居並ぶ。
但し、はやしお型のクルーたちは未だフラつくのでパイプ椅子に座る。
そして烏賊偉だけはマリンドラゴンの艦橋にいる。
「海保はいいが、民間人には出ていってもらってくれたまえ!」
着いて、早々、菅田一佐が云い放つ。
「この船は私の船、私の好きにやらしてもらう。それにこの娘には聴く権利がある」
伴賀が云う〈この娘〉とは亜樹子のことで、目線で彼女を見る。
そう云えば、菅田はマリンドラゴンに降り立っても氷室に一瞥もくれないのは嫌いだからだ。
「米国海軍はとっくに去った。ランドサットで思いっきり見られていたぞ」
菅田は関係ない話を返答とした。
事件を解決してもらった立場だから分が悪い、その上、伴賀だけなら、懐柔するか・拘束するかのドラスティックな手段に出られたかが、ここには海保の栗久もいる、今更菅田はこの件に海保をかませたことを後悔している。
「聴く、って、おじさま、なんのこと?」
亜樹子、問う。
「豊田マンション旅客機激突事件、の真相」
伴賀の言葉に一堂、どよめく、敗残のはやしお型クルーたちですら、氷室を含め、どよめく。
いや、綾川だけは無表情。
「いや、それだけじゃない。やはり5年前の首相犬暗殺事件、今回のはやしお型潜水艦クーデタ事件、そして高橋二佐密室殺人事件、その全ての真相だ」
大人の男である海保や海自のプロたちは顔色を変えるにとどめたが、若い遼斗や希雄、零子はさすがに声に出して、衝撃を表現した。
「本当なのか!?伴賀、高橋二佐のあれ、アレの真犯人を知っているのか?」
そう、大人でも驚きを隠しきれない者がいた、当然でる吉祥こそその当事者なのだから。
「さて、皆さん!」
―これは言っておかないとな。
伴賀、気づいていないが、軽くスキップして、皆の前を数歩歩く。
「時系列で言うとジャンボジェットと犬の方が先だが、先に高橋二佐の件から入りましょう」
「おい!本当なんだな!海自の名うての警務官が捜査して迷宮入りしてんだゾ!」
吉祥の剣幕。
「本当だ。きみは辞める必要なんて、なかった。さて、高橋二佐の首をかき切って殺したのはあなたで間違いないですよね」
伴賀は虚空に向かって話しかける。
数秒後、「はい」と備え付けのスピーカーから流れる。
望太郎と博士が大型テレビほどのディスプレイを転がしてくる。
「映像もいいですか?」
声だけの存在に又伴賀は話しかける。
「はい」
その声は若い女性の声で、ためらいは感じられるものの、その後の発声からは凛としたものを感じる。
ディスプレイに映された若い女性。
バストサイズで、髪をひっ詰め、黒縁メガネをかけている。
この場でたった一人だけ、この顔の覚えのある人物がいた。
―あの時、オレと佐久ににコーヒーを運んでくれた女性士官じゃないか!
吉祥の驚きはこれからの最終章でも続くが、まずは最初の衝撃。




