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瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
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50/60

第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act2 海水10



     10



「潜水艦はいません」

この声は氷室三佐が指揮を執るはやしお型で5年以上ソナーマンを務める桶谷准尉。

「そりゃ、そうだろう。日本海のロシア、北朝鮮、中国、太平洋の第七艦隊ともう海自は割ける余力はない。おれたちが三隻潰しちゃったしね」

氷室艦長が遂に瀬戸内海の中心にまで侵入してきたのだ。

「舞鶴基地の基地の内通者、そろそろ連絡を取ってはいかがでしょうか」

これは氷室の副官、秋山二尉。そう、秋山にしても桶谷にしても氷室と共に死ぬ覚悟でついてきた海の武士(もののふ)どもだ。

「いやぁ、下駄をはくまで判らぬからな。海底ケーブルを切断し、瀬戸内海を突破した時に打電する!」

「本当に、切断するんですか?」と怯えたふうの秋山。

「うん、するよ」と薄笑いの氷室。

「艦長!ほとんど聞こえませんが、低周波通信を発しているようです」と桶谷。

「またソナーブイを上げよ!どうせ、もう潜水艦はいない。いないのならばマトにされることもなかろう」

と氷室艦長が指示。

しばらくは雑音が続く。

『氷室艦長!ニンニク、入れますか!?』

関本亜樹子!

「桶谷ィィィーーーー!全マシと答えよ!」

桶谷はその通りにすると氷室は「急速浮上!」と全乗組員に命令する。

「いや!いやいやいやいや、氷室さん、やめましょう!ケーブルを早く切って、舞鶴を目指しましょう!小娘相手に何やってんのよ!」と副官を止める。

「煽られている気がするんだよ!乗ってやりたいじゃないか!」と強弁の氷室。

「なんにもならないでしょうに!と秋山副官、応戦。

「ネットで見ている愚民どもは楽しいショーが好きんだろう!?この命令は絶対だ!」と氷室。

「メインバラストタンク!注水!」

「メインベント!固定!」

隊員たちの号令が鳴り響く。


「来ますね」と亜樹子。

「気を付けてください」と栗久。

お互いの艦の上、これを肉声でやり合っている。


「艦長!最後にこれだけ聴いて下さい!しかし、おかしいですよ。民間の船の、民間の女学生が、潜水艦用の低周波通信ですか!?」

秋山副官の言葉に氷室「ハッ!!!!」。


「来ます!関本さん、離れて!」と栗久。

「でも!もうちょっと引きつけた方が!」と亜樹子。

「もうダメです!もうムリです!」と栗久。

「判りました!この海域から緊急脱出!」と亜樹子は関本海運のクルーたちに伝達。

作戦はこうだ。

潜水艦は絶えず暗黒で濁った海底を進むので、目というレーダーでなく、耳というソナーには特化している。

そう、だから、レーダーは弱い。

亜樹子たち瀬戸祭のラーメンタンカーと栗久の巡視船いつくしまは1メーターを切るくらい、近接して海上にいた。

これを潜水艦のレーダーは一隻と捉えるのだ!

氷室がラーメンを食べにタンカー一隻と思い込んで浮上してきたところを、海保の巡視艇、20mm多銃身機銃を連弾掃射すれば、この件、栗久の勝ちである。

―それにさ、おれたち海保は海自からすれば、ボーイスカウト扱い。海自の潜水艦を海保の巡視船が破壊したなんて、海保創業以来の誉れよ!

しかし!早かった!はやしお型の浮上は早かった!

「出た瞬間を狙え!」栗久は射撃主に指示を出す。

射撃主は咄嗟のことに混乱した!

「エッ!なんでぇぇぇ!?」

はやしお型潜水艦は縦、つまり逆立ちの逆、つまり艦首から飛び出したのだ!

狙う場所が狂った!

それでも射撃主は撃った!

だがそれをダッシュでやってきた栗久に体当たりにより止められた。

「バカ!このパニック状態!タンカーのひとたちに当たる!」

それは正解だった。

艦首から約3,000トンもする潜水艦が浮上する、ということは、それに続くものがある。

「亜樹子さん、直ぐに船内に退避!」

さすがは関本海運のクルー、海の男、直ぐにそれを察知した。

それは津波だ。

栗久の乗る巡視艇はまさにその波をかぶり、揺れる・揺れる。

だからもう20mm多銃身機銃の狙いなどつかない。

だがタンカーのクルーたちは戦闘慣れなどしていない、だから、とっさの行動が巧く取れない。

浮上した潜水艦など、抜き身の剣、居合では死に剣、だ。

だが民間船のタンカーにそんなものは関係ない。

―浮上して、魚雷って撃てるものなの?

亜樹子はそんなふうに考えた。

だが身体は震えていた。

右手だけ震えが止まったのは何故?

「関本さん、落ち着くんだ!伴賀くんがなんとかしてくれる!あやつを信じるんだ!」

忍教授がタンカーの廊下で亜樹子の右手を握って、そう語る。

『リラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラ!』

タンカーの廊下の窓ガラスから、見えるのは巨大な〈炎の剣〉。

マリンドラゴンのホークヘッドから20メートルの火柱が立ち、タンカーと潜水艦の間を割って入る。

「いいんですか?潜水艦はあの図体にしては軽量化のために装甲薄いですよ。ファイヤーソードで斬れるかもしれません」と綾川教授。

「ああ、いいよ。途中で通常浮上から艦首浮上に切り替えた時、氷室艦長は向きをタンカーの側面にいる海保の巡視艇に向け、津波を隠れたその巡視艇に向くように仕向けた。それはアキの乗るタンカーにできるだけ被害がいかない配慮を感じた。だから、ここはフェアに、貸し借りナシのプラマイ0状態でいこう」と伴賀が艦橋で。

「でも、ここで潜られたら、勝ち目はありませんが?」と綾川。

「うん、でも、勝てばいいんだろう?我が艦の艦首にいる彼もやる気だ」と伴賀。

彼とは吉祥のこと。

艦首で、仁王立ちし、右手に握りしめた鉄心の太刀で予告ホームランのポーズ。

沈みゆく潜水艦から氷室は確かに吉祥を見た。

「あの珍妙な船の艦長、民間船のタンカーに津波が最小限になるように艦の向きを図ったことに気づいたようですね」と秋山。

「ああ、それに吉祥だよ。抜き身の死に体になった潜水艦と戦うなんて、彼のプライドが許さないのよ、そういうヤツなんだ、あれは」と云って、氷室は声を出して笑った。

「メインバラストタンク!稼働!」

こうして氷室のはやしお型潜水艦はまた深海に消えた。

〈炎の剣〉を収めるマリンドラゴン、〈鉄心の太刀〉を収める吉祥。

ここまで、氷室のはやしお型潜水艦は初手で海自のそうりゅう型潜水艦を一隻、日本海の海底にこすりつけて座礁さし、韓国海軍の潜水艦二隻を中国海軍の潜水艦の檻に追いやり、別のそうりゅう型二隻を衝突させて戦闘不能にし、海保の巡視艇はやしおのオーバーラップ作戦を見破り、巧く逃げおおせた。

まさに連戦連勝である。

対し、マリンドラゴンは唯一勝てる状態であった時に最強武器、〈ファイヤーソード〉を出しながら、伴賀と吉祥がフェア精神を発揮したおかげで、氷室のはやしお型潜水艦を逃がした。

氷室、既にバッテリーが少なくなり、気づいているかは知らぬが第七艦隊からの原潜も迫っている。

キュウソネコカミ、いくらフェア精神をここでは持っていたとはいえ、氷室は追い詰められている。

(それに副官との会話、舞鶴基地には同調者がいるのか?)

「船内、海水まみれだよ、伴賀」と栗久からの通信。

「うん、判った、あとはこっちで」と伴賀が言いかけた時に「助かったーーー!ありがとう、おじさま、それが〈ファイヤーソード〉ね!いいもん見れた!」と亜樹子が割り込む。

「頼むからもう危険なことには介入しないでね」と伴賀が云っている最中の忍先生が更に割り込む。

「あれは〈ファイヤーソード〉というのかね?あれだろう、伴賀くん、神武天皇の東征の折の安芸津彦命、烽火伝説が出典だろう?」

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