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瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
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第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act2 海水9



     9



「とりあえず、防衛ラインは張ったけど」と派手な紫色のジャケットを羽織った伴賀。

「張ったけどねー、もう、どうしようもないよなー」と紺のユニホーム姿の栗久。

共に自分の船の艦橋からスマホで会話している。

確かにどうしようもなかった。

船で潜水艦には勝てない。

いや、作戦や複数の自軍がいれば勝ち目は戦略的にはある。

だが、民間のマリンドラゴンと海保のいつくしまである。

この二隻は兵器ではない。

下関海峡ではやしお型が二隻の海自潜水艦を破ってからもう10時間が経過している。

おそらく氷室の駆けるはやしおは既に瀬戸内海入りしているに違いない。

それに二隻のそうりゅう型を出し抜くためにフルノットで九州を一周した。

冷却の意味もあるだろうし、防衛ラインが張られた豊島・男木島間は水深が浅い。

別府湾や宇和海にいると思われるはやしおだが、もう追手の潜水艦を5隻とも倒したのでこの時点で勝ち、である。

小豆島と淡路島の間あたりに海底ケーブルの束がある。

マリンドラゴンといつくしまが手前の豊島の男木島の間で張っていても、海底を通れば、造作もなく、氷室はいつでも海底ケーブルを切れるし、今この瞬間にそうしていてもおかしくはない。

「そう、フシギなんだが、それをしない。それは三つのファクターがある」と伴賀。

「え!オレは二つしかおもいつかなかった」と栗久。

「ひょっとしたら、あんたの二つ、二つとも、もしくは一つだけ違うのならな、要因が五つとか四つに増えるゼ」と伴賀。

「じゃあ、披露しようか」と栗久が云うので、まずは伴賀から話しだす。

まず一つは①日韓四隻の潜水艦を相手に・九州一周までしたので当初の四日間のバッテリー限度がかなり近づいていること。

「そう、菅田一佐から勅命受けてから、もう二日経っている」と栗久が乗せる。

「だが詳しいリミットははやしお型の乗員しか知らない、でもそんな先ではない」と伴賀。

②はマリンドラゴンの首脳陣でも話したが実は氷室艦長の勝利条件が見えない、こと。

確かに日本のネットを全部不通にさす海底ケーブルのうち、この瀬戸内海ケーブルは切断できるだろう。

だが、燃料切れが近い中、残り三か所、切れるか?

特に太平洋ケーブルはファイブハンドレッドエムアイからの情報で第七艦隊所属の原潜が動いている可能性がある(ちなみにデカ過ぎる事態なので米軍側は菅田一佐に「そんなことしないよ」とは云っている)。

「仮に残りのバッテリーで海自の多方面の戦力や米国海軍を出し抜いてネットを使い物できないようにする、と、全国民を軍属化する、というのは直接の因果関係がない」と伴賀。

「うん、そうなんだ。多分、日本の技術力ではそんなケーブル切断なんて、ひと月あれば復旧させるだろうに、って、二つともオレと同じだな」と栗久。

じゃあ、残る一つはなんだ?と言いかけた時に、艦橋のディスプレイに着信の表示。

『おじさま、それに栗久艦長、この度は護衛、ありがとうございます。瀬戸祭の暫定委員で、東大瀬戸内海洋研究センターの副センター長の関本です、同時通話いいですか?』と亜樹子は云うので、伴賀も栗久もスマートフォンからIP電話に切り替えた。

『ズバリ!私たちのタンカーを囮にしませんか?』とディスプレイ上の亜樹子。

「そのこころは?」と旧知の仲の伴賀が尋ねる。

『氷室艦長はこの切迫した状況で、二度も私との対話の求めに応じました。それはプロバガンダにちょうどいいと判断したからだと思います。私たちを潰したい・上回りたい、ではなく、誰でもいいから、挑戦してきたものに勝つ姿を見せつけたいんだと思います。それはプロバガンダだとして海底ケーブルを切断して・ネットは不通にするよりもいいと判断するかもしれない』

―そう、それがオレの③だ。

「ケーブル切断より先に煽ってきた女子学生に会いに来る、か。それならば、あえて言う。危険だ、もうこの件から手を引いた方がいい。瀬戸内海から出ていきなさい」と栗久。

『ですから、囮はこのタンカー、海保さんの巡視船は浮上してきた潜水艦への攻撃、おじさまのマリンドラゴンは私たちの護衛、です。この3手があれば、事件は解決します。マリンドラゴンはどんなことがあっても私たちを守ります!』

亜樹子は口元に微笑すら浮かべていない。

「ああ、守るよ、栗久さん、やってみようよ、これが最後の、本当のデッドラインだ、これ以上のものはこの先にもう出ないよ」

伴賀は亜樹子分まで笑顔で栗久にそう伝える。

「では、タンカーに移る。直ぐに行くよ」

伴賀のその言葉通り、綾川甥の操縦するスカイピッポーで栗久を拾い、直ぐにタンカーへ到着した。

作戦は栗久と伴賀の発案で決められた。

さすがにタンカーの運行には学生たちは一切関わっていない。

だから関本海運のエンジニアや操舵主と打ち合わせをした。

栗久は巡視船のクルーと打ち合わせがあると云って、スカイピッポーで先に送ってもらった。

一緒に伴賀が飛び立たなかったのは、忍教授と再会したからである。

「忍先生、おひさぶりです」

「うん、伴賀くん、もうわたしは復帰するよ。このタンカーを初めの一歩とする。直ぐに戻れる道をつけていてくれてありがとう」

「そうよね、私をこの学部に入れたのもおじさまのたくらみだったもんね」と亜樹子が2人に割って入る。

「あれはアキが今から学部選ぶの面倒だろうと気を回したし、あの時に都市開発学科に受験生くるか不安だったし、ちょうどいい!と思ったんだよ!」と身振り手振りを交えながら伴賀。

「私、ゲームを作りたかったんだけど、今はゲームの中にいるみたいだ、だから、許す!」と笑顔の亜樹子。

「なんだか、20年前のあの暑い夏、暑いコーヒーを飲みながら、瀬戸内海を故郷に持つ、伴賀くんと関本くんと私でこの海を語り合ったことを思い出すよ」と忍先生。

「ええ、あの時に、こんな『関東の研究室でなく、海上でこそこんな話はすべきなんだ』と先生はおっしゃいました」と伴賀。

「そして関本くんはあの頃、二十歳で、その娘の亜樹子さんが今二十歳」と忍。

「ええ、あの時にはコーヒーだったけど、今はラーメン」とおどけたふうの伴賀。

「綾川教授もいるんだろう?そう、ようやく結集したんだ。この瀬戸内海に資本主義でも国家でもない新しい形態を顕現させる計画、そう、瀬戸内海ジャンクション!」

この言葉を忍教授の口から聴くのはやはり20年ぶりだ、と思った。

瀬戸内海に瀬戸内海ジャンクションを形成すること、これがマリンドラゴンの目的の二番目であった。

「楽しそうですね、古代史や民俗学は岡本太郎の例を出すまでもなく、芸術と縁が深いんですよ。さきほどは通信で失礼しました、天鱈です」

と彼は伴賀に右手を差し出し、2人で握手をかわす。

「アートじゃあないんですよ、マリンドラゴンは!」と伴賀がわざと。

「発散でしたよね。アート以外でもこういうアマチュア独自の仕事、好きでしてね。今まで、瀬戸内海がこれだけ豊穣なのに交通の便が困難がデメリットだと思っていました。けれど中国地方と四国の両脇に千を超える島々があるので直ぐに停泊できる。タンカー出せばいいんだと気づきました。だからこれから、同人誌即売会や映画祭、どしどし開催していきたいんです」

天鱈がそうまくしたてると伴賀は「それは金がかかる」と冷や水を浴びせるようなことは云いたくなかったが、云ってしまった。

「だから、それらを同時開催して、チャーター費を分割します。帰りは瀬戸内の特産の柑橘系や水産物を積んで、行きは今回のようにラーメン屋を持っていくのもいいし、いや、生活必需品を仰山運びます」

「と、いう話をずーっと天鱈さんとしていたんだよねー」と亜樹子。

「うん、そうそう、これが東大瀬戸内海洋研究センターの本来の研究テーマで、瀬戸内海ジャンクションの始まりだ!」と忍教授。

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