第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act2 海水8
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「さすが、自衛官のカガミ!海軍将校の末裔!靖国神社の近所に住むとはね」
タイなしの黒のジャケットをはおるのは大和田律夫室長。
「いや、そういうワケではないんじゃないの。学会員がみんな千駄ヶ谷には住まないでしょうに」
わざとなのか深緑のミリタリーベストを着こなしている南郷隼人三尉。
東京湾と相模湾は人目に触れやすいから無いが駿河湾にはマリンドラゴン用のドックが一か所だけある。
そこにホーンドドラゴンを収納し、三島駅から新幹線で東京に着いた。
その旅路の手配は宿や食事含めてすべて西谷くんがまかなった。
だが、それでよかった。
この2人、よくしゃべるのである。
「へー、やっぱり公僕のエージェントは違うなぁ。わざとバレる尾行か、勉強になります」と大和田が云えば、「その検索履歴を調べた後のふるいのかけ方はかなり民間さんの方がユニークだ。たまには勉強会やりますか?」と南郷が答える。
とりあえず、伴賀が引っかかったのは、これは南郷の持ってきた資料で直ぐに判ったが、高橋二佐の引っ越し遍歴だった。
「そうですね、伴賀さんが着目したのは判ります。私のような陸自で、長らく防衛省勤めならばフシギではありませんが、海自で、潜水艦艦長出身の方がこの引っ越しは不自然です」と南郷。
「そうかね、高給取りだし、気分転換じゃないの?」と大和田。
今は西谷くんの先導の元、井の頭線で三鷹台に来ている。
午前中の授業が終わった低学年の小学生がランドセルを揺らして、駆けてゆく。
「潜水艦乗りなんて、大半が海底か基地です。年に三ヶ月ほどにまとめて休み貰えます。だから、高橋二佐のような佐官クラスで、結婚もしていないのならば、官舎に住めばいいんですよ」と南郷。
「だから気分転換じゃないか?緊張の連続の勤務の後、また知った顔しかない官舎なんて、気疲れするもんじゃないの?」と大和田。
「次はどこ?」と南郷が西谷に尋ねると「目白です」と西谷くんが答える。
「じゃあ、時間的にそこで昼ご飯にしよう、あすこには老舗の美味えつけ麵屋があるんだ!」と南郷が誘う。
その後に六本木、白金台と回ったが、特に収穫はなかった。
だがあえて素人の西谷くんだけは思った。
―なんだ?この禍々しさは?
「こんなことより高橋二佐のPC内をチェックした方がいいんじゃないのか?」と大和田。
「いやいや室長さん、5年前に殺人事件の被害者にしてクーデタの首謀者としてPCどころか個人ユースのiPadからスマートフォンまで海自が回収していた使用済みのPC、周囲の部下たちが使っていたヤツまで徹底的に調べた。クーデタのやり取りと思われるメールやチャットは出てきたから、それに基づいて、左遷とか自主退職に追い込んで手を打ったが、殺される理由は犯人にまつわる証拠は皆無だった」と南郷が答える。
「そりゃ、おかしいだろう。クーデタなんて内輪もめ、ボス争いや粛清が付きものなんだから、いちばん今回の事件で荒唐無稽な話さ。そのクーデタ関係者が高橋二佐を何らかの動機で殺したというのが理にかなうんじゃないかねー」と大和田が反論。
「直ぐに沈静化したのは、コレ、本当に言いたかなかったんだが、大したヤツがいなかったんだよ」と南郷が視線を泳がせながら。「おたくみたいな一流企業じゃない二流省庁のウチには人材が来ない」
「いや、待てよ。自衛隊なんて国防の要、人材いて当たり前だろうに」と大和田。
「そんなことないんだ。未だはっきり数字に出てはいないが、そういう体育会系で、愛国精神があって、悪いことが許せないタイプ、みんな今、自衛官でも警察官でもなく、自警団会社に就職している」と南郷が云うと「ああ、そうだったな」と相槌。
「だからさ、氷室がああなったワケはよく判る。今の自衛隊は張子の虎さ。この氷室の件で潜水艦や巡洋艦が出払っているうちにロシアが攻めてきたら、一発でアウトなんだよ。整備されてある潜水艦も一級の潜水艦艦長の希少だから。だから、国民全員を軍属にするのはいいアイデア、だって楽団やコックも自衛官の仕事だし、国防とモラルのために徴兵ではなく、軍の所属にするだけはアリ、と」
「いや、南郷さん、そんなの直ぐにファシズム体制になるよ」
「そうかもしれないけど、自警団は今、私人逮捕の方便で犯罪者を取り締まる方法が常態化して、警察が直接する逮捕した案件と私人逮捕した犯罪者を警察に自警団員が引き渡す件、今、6:4でもう直ぐ、追い抜かれるよ。軍隊がそうなったら、それは軍隊の企業家、それこそ特権階級の支配で、それは別のファシズムだよ」
「あのー、ちょっといいですか?お2人が話していることって、つまり、良いファシズムと悪いファシズムの対立を仰っていると思うんです」と西谷くんがジェット船を運転しながら。
目白の丸長でチャーシューつけ麵を食べた後、西谷くんだけ駿河湾に戻り、ホーンドドラゴンで駆け、東京湾にある関本海運の基地で大和田と南郷に合流させてもらったのだ。
今は三人で乗り込み、館山を目指している。
「ファシズムは悪いことなんですよ、良いも悪いもないです。僕は遼斗くんや亜樹子さんほど立派な若者ではありませんが、僕は男の子の幼児の父親なんですが、その子が生まれた瞬間に軍属になるなんて、許すワケにはいきません!」
運転中、西谷は前だけを見つめていた。
「ふーん、伴賀さんがきみをつけてくれたのは旅の案内人や操舵主だけではないようだな」と大和田。
「そうだな、俺は軍属だが、生まれた時からとかまっぴらごめんだ、それは他人がそうなってもイヤだ。氷室の術中にハマるトコだった」と南郷。
―あの氷室という男もその呪縛の内にあると思う、うん?伴賀さんはそう言っていた。
「館山、見えてきたな」と大和田が指を指す。
何故に館山か?そう、高橋二佐の故郷なのだ。
海水浴場が多い館山湾はちゃんとあり、停泊する。
タクシーを使って牧場に行く。
西谷は読んだ資料には高橋和音二佐の祖父は戦後退役軍人として、故郷に戻り、この土地で牧場を始めたとある。
80歳くらいのおばあちゃんが迎えに出てくれた。
「ここを格安で提供してくれたんですよ、高橋の坊ちゃん」
高橋二佐の父がリタイアした後、高橋家の牧場は遊んでいたが、父の死と共に隣の牧場に土地も施設も売ったのだ。
それが殺される半年前だったという。
馬舎には犬が一匹、ジャーマン・シェパード。
老婆は夕暮れにこの牧場さんの牛乳を持ってきてくれた。
冷えた美味そうな牛乳。
幼少期を過ごした家屋があるというので、大和田と南郷を調べに行っている。
ただ、隣家の牧場一家もの次男夫婦が使用しているので、もう高橋家の痕跡はないとも聴いている。
大和田としては上司の命もあるし、大和田を引き連れて捜索することにした。
「あ、この犬、かなりのおじいちゃんですね」
西谷は犬好きだったので、近づいて知れた。
だがその容姿から老犬と知り、彼が近づいても耳をかすかにも動かさなかった。
「もう、今年中には亡くなると獣医に言われています。もう20歳ですから」
「え!それは長生きだ」
高橋二佐が存命だと今年で48歳、彼が28歳の時に生まれた犬か。
「ええ、代々長生きで、おじいさんが満州から帰ってきた時に一代めと共に帰国したとか」
―満州!?
「ええ、満州ですよ」
それが言葉に出ていた西谷だった。
その歩く素振りから何の収穫もなかったことが判る大和田と南郷。
「お二人とも、牛乳をご馳走になって下さい。美味しいですよ」
西谷は薦め、大和田は「ちょうど喉が渇いていたところだ」と美味そうに飲み干す。
「南郷さんは飲まないんですか?」と西谷。
「ああ、オレ、牛乳ニガテ、例のお腹が痛くなるヤツ」と南郷。
「気を付けぇぇ!キサマはそれでも軍人かぁ!」と大和田は殴るフリをして、その手でお盆のコップを受け取り、牛乳を飲み干す。
「しょうがねーだろう!」と感謝を込めて、南郷。
―確かに、立ち上がった。
そう、あの死にぞこないの老犬が立ち上がった。
でも、直ぐにまたしゃがんだ。
だから、西谷くんはそのジャーマン・シェパードに近づいて、こう云った。
「アテンション!」




