第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act2 海水4
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『なぜに退役して選挙で打って出ないのですか!?我が国はシビリアンコントロールが原則ですが、元自衛官の議員立候補を禁止してはいない!炎上や個人攻撃が不愉快だからネットを強制的にやめさす!?だったらアーミッシュになるか、ラッダイト運動をすればいいでしょう。それからさ、貴方、その潜水艦はどうやって手に入れたの?自衛隊にお金でも払ったの?』
氷室発言が瀬戸内海とその周辺の海自基地、海保拠点、企業、各種学校、役所に回り、ネットでは大いに盛り上がった!
中には『オレたちの遊び場を潰すな!』とか『ネット無くなったら死ぬしかないアル(-_-)』と氷室に反論する声もあったが、上級国民の個人情報の流出とその結果のペドリストの暗躍で盛り上がれるまで堕落したこの近未来の日本国では『海自の佐官のクーデタ、キターーーーーーーーー!』『豊田ジャンボジェット以来の大事件勃発だお!』『海の騎士団wwww超ウケるーーーーーーー!』『イーロン・マスク涙目(笑)』と文字が踊った。
マスコミは慎重で、どこも報道しなかった。
だが動画配信サイトで直ぐに音声のみが転載された。
亜樹子が放送を打ったのは氷室発言から20分後、20分は盛り上がったが、氷室とネット内の野次馬たちに冷や水を浴びせられたのは、瀬戸内国際芸術祭の放送網を使えたからだ。
亡き母の実家の重工業会社は呉にあり、大会の重要なスポンサーで、この芸術祭に参加する折に、亜樹子は非公式ながら実行委員会の末席に連なるよう要請した。
同時にyoutubeやニコ動等動画配信サイトにも亜樹子はリアルタイムで放送を開始した。
しかもアマチュア無線の周波数帯をテロップで流しながら(つまり煽っている)。
『なにこの子かわいくね!?(*'ω'*)』『軍人が女子大生相手に口喧嘩で敗北(T_T)』『東大生で芸術祭!?なんだ上級国民かよ』
―そう、そんな階級なんて、意識しないで、私は生きてきた。お父さんが死んだあとも、伴賀さんや黒井さんがいたから、寂しくなかった。
「ねぇねぇ、このロボはなにに出てくるの!?」
―伴賀のおじさまがゲーム大好きで、薦められて、いろいろプレイしたが、私はロボ大シリーズが好きで確か第三次の時獄篇からやったんだっけ。そして登場するロボが出る元のアニメを見せてくれたり、楽しかった。
「伴賀さん、夕飯食べていってください」
「美花子さん、会社に戻らなきゃならないし、いいですよ」
「おじさま、お母さんがつくる鮭とキノコのキッシュは絶品ですよ」
「じゃあ、いただこうかね、バター使う料理好きでね」
「うん、こうして三人で食べると三人家族のようだ!」
「やめてください、照れます」
「亜樹子、伴賀さんはお困りですよ」
―中学の三年に上がると進路のことで、母ともめた。私はゲームを作る職業に就きたかったのだが、母は大学を出て普通にOLになって、結婚するような道を望んだ。
「OLさんだって、働くことには変わりないじゃない、デスクワークとゲームデザインならば後者、としか私は希望していない!」
「亜樹子、おてんばだから、のめり込んでしまいそうで、恐いのよ」
―多分、お父さんが伴賀さんたちとフツーのサラリーマンではない仕事をしていたから、それで寿命が縮まったワケではないが、フツーを志向したのだろう。関本海運も呉の工場も関係なくフツーのOL、フツーの結婚、今考えるとゲーム会社で事務だってよかったんだ。私もアレは反抗期だったのだ。
『今夜はこっちの泊まるから大丈夫』
―ここは伴賀のおじさまのアトリエというかサロン?お父さんやおじさまたちが共同経営の会社の作戦基地のような場所で、赤門前の中華料理屋の三階にあった。私も子どもの頃からしょっちゅう来ていた。お母さんも半ばメンバーだったからほっとしたのだろう。あ、確かたまに民俗学者の先生が来ていたな。
『臨時ニュースです。只今、豊田駅前にありますワコー豊田マンションにジャンボジェット旅客機が衝突しました。詳しい犠牲者の数は判っておりません』
―そのニュース速報をそのアトリエのキッチンで綾川さんが作ってくれたベーコンとチーズを挟んだベーグルサンドを食べている時におじさまと聴いた。
綾川さんとおじさまは直ぐに電話を何本もかけ、終わると一階に降りて、ちょうどそこにおじさまの会社のハイヤーが来ていた。
ここからのことは思い出したくもない。
現場のことも、病院のことも、親戚たちのことも、報道も、みんなの対応も、お母さんのことも、お母さん以外の被害者のことも、だが今思い出さなければならないことがある。
『上級国民、ザマー!!!』『下界を見下ろす天上界に住む特権階級に正義のイカズチが落ちるの巻(爆笑)』『ブルジョワ階級大掃除、オレたち庶民の苦労と努力を知れ!』
―私はその恩恵を受けているだろう。今この瞬間もそうだ。だが母親を殺されて、はい、そうですか、天罰ですか、と受け入れるワケはないし、それを煽る盲者どもを許す気はない。
―お父さんとおじさまたちは日本の流通や産業を根本的に変え、官民学が一体になって新しい経済構造を構築していようとした。
―デカい夢ですね、もう私はどうでもいいや。
そして私は父方の叔父貴が用意してくれた湯島のマンションでゲームとアニメとネットだけの生活を始めた。
食事はウーバーイーツ、家事は叔父貴が用意してくれたハウスメイド、そしてたまに伴賀のおじさまが来る。
でもね、女だからハサミどころか櫛も通していない髪を見られたくなかった。
「アキちゃん!スーパーロボット大戦30!まだプレイしていないだろう!?」
―そう、未だだった。
伴賀のおじさんとお話しながらゲームするのは楽しいと久々に思い出した。
しかも20時間も不眠不休でゲームを続け、おじさまが途中で、蕎麦やパスタを茹でてくれた。
『機体の調子は悪くない!いけるはずだ!』とゲームの中で古谷徹が叫ぶ。
そんな、なんでもない台詞。
「アキちゃん、涙をお拭きよ」
―おじさまがそう云ったので、初めて泣いていることを知り、それは号泣に代わり、嗚咽に転じた。
「これは大検の資料、そして来年から新設される東京大学公共政策学教育部都市開発学科の案内だ。周囲は高3の夏休み、まだやれる、アキちゃんならばいけるはずだ!なにせ美藤と美花子さんの娘だから」
『手短に言うね、お嬢さん!』
短波から氷室艦長が割り込んできた!
『軍属というのはみんなに兵器や武器の訓練させ、所持させることではない。意識させるだけだ。だって、今の日本人は決意もなく、覚悟もなく、道理もなく己の欲望のままにただ毎日を過ごすだけの棄民でしかない。ただみんなにも覚悟をしてもらいたいだけだ、この潜水艦の乗組員のように。芸術とかアートとかそういうのに命をかけられるか?できないよね、謝罪しろとは言わないけど、もう私に関わるな、ネットの自己顕示欲大好きサブカル女だと思われるよ』
『死ぬ覚悟があれば、どんな愚かなことでも、どんなひどいことでもやっていいというの?あなたはジャンボジェットでマンションに突っ込んだ連中と何も変わらない!あなたこそ、この瀬戸内海から出ていきなさい!』
短波放送からマイクを地面に投げつける音。
ハウリング音。
そしてマイクを拾う音。
『芸術祭の公式読んだよ。あのラーメン、私も好きなんだよ、食べに行ってやる!』
「終わります。でも度々このチャンネルで実況します」
氷室の言に呼応するかのように亜樹子の放送は終了した。
「またー、やってくれましたねー!」と綾川。
―アキ、あの時に救われたのはオレの方なんだよ、だから、関本や美花子さん抜きでもオレがアキを助けないいけない!
どうする!伴賀!




