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瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
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第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act2 海水1



     1



直ぐに警務官が到着した。

だが舞鶴基地に当日いた警務官は5名。

そこで死んだ佐官が死んだ佐官なだけに佐世保と呉から、そして東京の防衛省からも警務官が増援された。

5名が現場保全や関係者への聞き込みをしていると3時間後には各地からの警務官が4名到着し、更に詳しいやり取りを開始した。

立哨兵の一人は吉祥が出ていった後には誰も出入りしていないと証言していた。

もう少し厳密に云おう。

郵便配達員のような、登場人物表には載らないような人物、空調を直しに来た業者やコーヒーを運んできた女性下士官のような存在すら出入りしていない、ということだ。

抜け穴や隠れ場所も警務官たち、軍内部の犯罪という忌むべき現象を排除するプロたちが調べ尽くしても出ない。

死体の状況だが、参謀本部室で大の字になって高橋二佐は死んでいた。

格闘した後はないが、背後から刃物で首の頸動脈を切られたことから、自殺や事故はあり得ない。

苦しんだのであろう、格闘の跡はないが、首からの出血が部屋内の多くの血痕を作っていた。

ひとが通れない狭さではあるが空調ダクトはほこりがたまり、何者か・何かが通った後はない。

一つだけ外に通じる窓があるが、完全に施錠されており、取っ手からは指紋も検出されなかった、というかここはレンガ造りの3階なので人が通るとは考えられない。

するとやはり最後に出た吉祥がいちばんの容疑者となるのは自明の理であった。

将官クラスは誰でも知っていると高橋二佐は云っていたので、氷室一尉が朝鮮の潜水艦二隻に絡まれているのは救いに行った、とは語った。

―だが高橋二佐はクーデタの首謀者は云っていいものなのだろうか?

吉祥は氷室とずっと離されて取り調べを受けているから、確認のしようがない。

立哨兵がニ人もいたから話を合わせるヒマもなかった。

―考えられるのはシミュレーションゲームで高橋二佐はオレを釘付けにしたことだ。アレは何か企みがあってのことか?いや、オレも嫌いじゃないから話に乗った、というのは高橋二佐はどこまで予期したり・誘導したりして、操れるものなのか?

そして実際に副官の佐久がスマートフォンで吉祥を呼び出した。

確かに密命を帯びた自衛官、直ぐに出るべしとは言えるが、出港時刻は決まっていたので、そこはプロ、そこまで吉祥は見逃すワケはない。

―オレはハメられたのか?だとしたらオレをハメたヤツは誰か?

まず筆頭に怪しいのは氷室である。

そもそも本当に高橋二佐はクーデタを計画していたのか?

―政治家は質が落ち・もう既に死に体で、企業も例の豊田ジャンボジェット事件でテロの恐怖に怯え、警察も弱体化している。むしろ自衛隊がもう一度、軍部として覇権を握れるチャンスだと誰もが思っている。

そう、吉祥はある仮説に思い当たった。

―そうか、氷室自身がクーデタ首謀者の可能性。

「そうじゃなかったよ、伴賀。あの後に高橋二佐の身辺調査や人脈が洗われた。死後だったから捜査は楽で、直ぐに自衛隊内でシンパが大勢見つかった。天才・高橋、参謀は置かず、同列は置かなかったようだ。だからシンパレベルのヤツは左遷や自主退職で済ませた。そりゃそうだ、ただでさえ政情不安、未遂であってもクーデタはあっちゃあなんねぇ」

現在マリンドラゴン船上で解説する吉祥。

「それでは吉祥さんの相方、佐久さんという方はいかがです」

ミステリではいちばん怪しくないひとが犯人が定番です、と遼斗は付け加えなかった。

「動機もないし、機会もない。確かにオレも佐久を疑ったことはあった。怒って電話かけてきた時、それがオレの艦・おおしおではなく、高橋二佐とオレがいた舞鶴地方総監部の建物からかけてきたというならば判る。だがオレへの注意の電話をかけているのを同じおおしおクルーが聴いているんだ。総監部から潜水艦ドッグは24万平米のはじとはじ、そうとう距離ある」

そう話している時の吉祥の表情に妙なものを感じたのだろう。綾川が聴いた。「その佐久さんは今どうしていますか?」

「そんなふうにオレが疑ったことをそのクルーから聴いて疎遠になった。最初はオレをかばってくれていたのに悪いことした」

そして菅田一佐がやって来た。

氷室の口から高橋二佐、クーデタ首謀者説が菅田一佐に直接語られ、その疑いがあることだけは既に知っていた菅田により調査は行われ、2人が急に舞鶴基地に帰還し、直ぐに高橋二佐のいる参謀本部室を訪ねた意味合いもはっきりした。

だが未遂に終わったクーデタとその首謀者の殺害は別問題である。

なぜならば、クーデタそのものが無いというように解決したから。

「いちばんオレを矢面に立ってかばってくれたのは氷室由紀夫、あいつだった」と嘆息する吉祥。

だが、海自首脳陣は「氷室一尉から話を聞く前に高橋二佐の計画を知っていたならば、出発の前に殺害することがいちばんスジが通る」と菅田一佐や関係者は口にはしないがそう考えることが唯一の正解のような雰囲気に包まれていた。

「氷室は、むしろ高橋二佐の謀殺は首脳陣の仕業と考えたようだ。ちょうどいいスケープゴートもできたようだしな、そういうことだ」

「だが吉祥、それはおかしい。だったら密室殺人はどうなされて、いや、そもそも密室にする意味がない。事故死とか謀殺ってそういうもんだろう」と伴賀が口を挟む。

「しかし、一国の、しかも東アジア最強の海軍の首脳陣、なんだってできるだろう。ペドリストや警察権の弱体化、なにより現役首相の暗殺と豊田ジャンボジェット激突事件との頃は政情不安が酷かった。今もその延長線上だがな」

吉祥はそう云い終わると伴賀は口元をきゅと結んだ。そしてまた話し始める。

「それじゃあ、別班か内閣調査室の殺し専門部隊がその高橋二佐を殺したのか?そりゃ、陰謀史観だよ。そんなこと言い始めたら、なんでも話が通る。今回の氷室、えーと、今は三佐だっけ?彼のこの潜水艦脱走事件もこの密室殺人の謎を解かないと解決しないよ」

綾川が話している最中、伴賀を見守っていた。

「オチまで話すとそれで自主退職扱い、いわゆる一身上の都合によりってヤツでオレは海自を辞めた。それで済んだのは海軍開局からの名門・吉祥家の男だったからかな」

「それで腹いせに日左連狩りを始めて」と伴賀が言いかけた時に「違う!」と吉祥が遮る。

「汚名返上と言っただろう。佐久がこの瀬戸内海出身だから、日左連にまつわる話を唾棄するように話していたのを思い出した。ヒマだったから、佐久のためになにかできるようなことをしたかった。それは伴賀、多分アンタと同じような目に、女がらみでさ、佐久もあったようだったんだ」

伴賀はそう聴くと吉祥を少しにらむ。

「なるほど、それじゃあ、オレには言い辛いか。では、そろそろ動くか。今回は氷室三佐の潜水艦の確保、亜樹子のタンカーの護衛、5年前の殺人事件の謎解き、目白押しだ。野郎ども、そろそろ、行こうか!」

全員が座っていたパイプ椅子を片付ける。

望太郎と遼斗がテーブルとその上のカップや皿を片付ける。

姫路湾から50キロの位置にあるドッグ島に入り、艦と搭載メカのチェックを開始した。

栗久は副官に巡視船いつくしまを任せ、明日の朝、香川にある海上保安部で合流予定だ。

明日の朝、栗久が出ると同時にやって来る男がいる。

『大和田、久しぶりー!今回は密室殺人事件だ。企業内情報戦じゃなくて、きみ向きだろう?ネロ・ウルフとアーチー・グッドウィンと言いたいトコだが、オレはスリムで薔薇より百合が好きなんだ」

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