第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act1 世情8
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伴賀、流石。
無線で前もってプロフェッサー綾川に「オレと遼斗は夕ご飯いらない」と言っておいたのだ。
「重いですよね、あのラーメン」
「ホントだよ、提案したのは芸大の男の子だと本人が言っていたけど、女の子が二郎を乗せた船とか、すっかりおてんばに育ってしまった」
「お友達だったんですよね、関本さんのお父さんと」
「うん、病気でな。身体が弱かったから子どもが授かったばかりの頃に初めて会ったから幸せそうだった。入学した時に1年上の先輩で、もうアキは生まれていた。学生結婚だった」
「あのー、親同士が決めたってやつですか?」
「ああ、まぁ、そう思うよねー、明治からの大企業の経営者一族同士だから。でも仲はよかった夫婦揃って。心臓が弱くて、最期の方は病室から指揮を執ってくれた。あいつがいなくなってからオレの仕事量が増大した。忍先生と綾川さんがいてくれてまだ助かったけど」
「じゃあ、関本さん入れたその四人がマリンドラゴンのファーストスタッフだったんですね」
「ああ、うちの社員や役員も関係していたから、最初のメンバーを区別するためにオリジナルファイブと呼んでいたな」
遼斗は「残りの五番目のひとは誰ですか?」と聴きたい衝動に駆られたが、今はその時ではないと直ぐに気づいて、止めた。
マリンドラゴンに着艦するともう22時だった。
伴賀と一緒に入浴を済ますと、遼斗はさっさと就眠した。
そして5時には起床する。
マリンドラゴン、やはり船、やはり揺れる。
すると身体が勝手に揺れに合わせるので、寝ている間でも疲れるようで、自然、直ぐに起きる。
それはいちばんの下っ端である遼斗にとっても都合がよかった。
甲板をダスタークロスとモップで清掃する。
すると吉祥と烏賊偉が釣りの最中。
「釣れますか?」と朝の挨拶としてのご機嫌うかがい。
「おう、見ろよ、これ!」
吉祥が持ち上げるのは大ぶりなヒラメ。
「煮つけですかね?焼き魚ですかね?」
「人数分が釣れないから、煮つけで夜、伴賀にでも食わせてやるかな」と吉祥。
「私の得物も見て下さい」と烏賊偉。
見るとモンゴイカが何杯もバケツに入る。
なにしろ海上をいかようにも移動できるので、イカだのヒラメだの入れ食い状態な拠点に行ける。
「だからさ、アジとか取れればいいのに、酒の肴ばっかりになっちまうよ!」と吉祥。
「朝から刺身でもかまいませんよ!」と遼斗が作業を再開する。
道具を片付けて、そのまま洗濯ルームへ。
起床、洗顔と歯磨きの後に仕掛けた汚れ物が洗濯終了している。
「あれ、房さん、おはようございます!洗濯、おれがやります」
「奪う気はないけど、僕も甲板に出たいんだ。手伝っていい?」
「勿論です!」
物干し台に遼斗と望太郎、房が本来ならば高校終わった年度で、その一つ下の世代に属するのが遼斗、2人はここに生活する男たち7人分の洗濯ものをかけていく。
日差しは強いが、風は涼しい、洗濯日和、釣り日和。
起床してだいたい60分、この頃にはもう全員が起きている。
艦橋近くの第二食堂はコーヒーの香りに包まれている。
艦内に4か所ある個室トイレを(立ち便器はない)遼斗は掃除を終えると、ここにやってくるのが日課になっている。
綾川の伯父の方が料理を担当している。
7人分なので甥の博志も手伝っている。
「ドクター、手伝わせてください!」
「じゃあさ、山葵をおろしてよ」
「えっ!本当に朝から刺身定食になったんですか!」
「おう!吉祥さんと烏賊偉さん、あれからイワシをバカスカ釣ったから、遼斗が刺身喰いたがっていたから、刺身にしようということになった」
「イワシの刺身って、他の刺身とは別ジャンルの美味さ、ありませんか?」
「ふふっ、厨多くんには私も料理し甲斐がある。大根でツマ切ったから、食卓に運んでね」
そうプロフェッサーこと綾川士仁が味噌汁を作りながら。
今回の味噌汁は、麦味噌で具は玉葱と豆腐。
イワシやイカの刺身、大量に別の大皿で用意された大根のツマ、それに枝豆を混ぜた炊き込みご飯。
このような料理が朝と夕でる。
昼は派遣地で外食か、艦内作業のものは冷凍食品かインスタントラーメンを食べたり、駐留してある湾にウーバーイーツを呼んだりする。
―確かに母さんのご飯は美味かったが、ここのメシは、そう!実に男が喰うメシ!は美味しい上に楽しいのだ。
朝夕、遼斗はくみ子にその食べ物の画像を送るようにしている。
『早く死んでください、娘はお母様と2人で育てます!(# ゜Д゜』
料理の美味そうな画像にやっかまれることが多い。
『って、娘なのかよ!?』
『ああ!(;´Д`)言っちゃった!?』
―あの時、本当に別れて暮らす決心をしておいて、よかった。
「娘なのかぁ」
「って、伴賀さん!部下とはいえ、他人のスマホを覗かないで下さい!」
「パプアニューギニアでは家族で移動の際、多くの夫婦が今でも妻が大荷物を持ち・子どもを何人もかついでいるそうだ」
「酷いですね。やはり近代化が遅れているからですか」
遼斗が即答するが、他の五人も2人の会話に耳を傾け始めた。
「うん、近代化が遅れたから警察権が整備されていないし、警察も一種のインフラならば、おそらく国中に充分張り巡らされていないのがその理由だ」
遼斗が伴賀の言にきょとんとしている。
「少年、オレが代わりに応えよう。警察にも善良なる市民にも頼れないんだよ。だから暴漢や強盗に出会ったら、妻や娘は暴力に遭い、自分と息子は殺される、しかも手際よく。そういうことだ」
吉祥がそう云うと、「あ、お父さんがいつでも戦えるように!」と遼斗が答える。
「うん、役割分担だな。だから世間一般の〈家族や家庭がこうあるべき〉と流されたら、場所と場合によっては、一家は全滅する」と吉祥。
「〈こうあるべき〉で引きこもりや鬱病の子どもを医者や役所にも届けない親はごまんといる」と望太郎。彼は、戸塚ヨットスクールではないが、引きこもりだったのを克服するためにマリンドラゴンに乗った過去があるが、それは次話で自身の口から話される。
「忍先生も言っていたが、徳川時代には既に出稼ぎがあったから、夫婦が半年一緒にいないのは普通だった。菅江真澄のような旅行者、芭蕉門下のような俳人と鎖国はしたが日本全国を回り観光や勉強した者も多い。なによりこの瀬戸内海に日本海、津軽海峡にこの近辺なら宍戸湖と琵琶湖と日本は海路や水路が使いたい放題で、移動は陸路より断トツに楽だ。むしろ定住するなんて、近代以降、いや、戦後のことで日本人はもっと水上や海上に出るべきだ」
これはプロフェッサー綾川の言。
遼斗にはこのマリンドラゴンで瀬戸内海にいて、だんだん海上にいる意義のようなものを考え始めた。昨日の亜樹子の話も同様でなかったのか?と。
「それより、遼斗くん、亜樹子ちゃんに遭ったんだって?」と言葉にならない遼斗に助け舟を出したのは博志。
「はい、かわいい子でしたね」
「ああ、かわいいよねー、ぼくは3回しか会ってないけど」と博志。
「ドクター、僕の勝ちですね、僕はもう5回会っている」と望太郎。
「やめなさいよ、亜樹子ちゃんを好きなになると伴賀さん、マジギレするし」と博志が云うと遼斗の横で伴賀が笑うがイヤな笑いだった。
少し座が白けたが、いちばん冷静沈着なハズの綾川が「この話題、めったに出ないから言いますが」と話始めた。
「伴賀さま、辛いことをあえていいます。やはり美花子さまの再婚相手になるべきでした。あれだけ亜樹子さまはなつかれていたのに。関本さまとの友情は判りますが、でも」
「プロフェッサー綾川!海保の栗久から入電だ。その話はまた次に!」
それはブラフではなく、本当にかかってきた電話。
受け答えする伴賀の口から、「潜水艦」とか「氷室」というタームが出る。
遼斗の左隣にいた吉祥が握った漆塗りの箸を片手で叩き折る。




