第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act1 世情6
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『忍さん、大学を辞めて、瀬戸内海で水上生活者になるって?そりゃ、忍信夫が近くにいてくれたら嬉しいけど、今、忍さんにその地位を手放されるのは得策ではない。待ってくれ、新しい学科を倉敷に作る計画があるんだ。あ、そう、前に構想だけ聴いたか?じゃあ、忍教授だって、それが得になるって判るじゃない』
伴賀孝夫、33歳、八幡浜湾海戦の5年前、彼は瀬戸内海の海上にいた。
未だマリンドラゴンには乗っていない。
未だマリンドラゴンは建造中。
そこで移動には高速ジェット船を用いている。
全没翼型水中翼を装備し、ジェットエンジンを積んだ上に、伴賀の持ち会社、重工業メーカー・ツィマットエンジニアリング徹底的なチューンアップをされており、通常のジェット船の4倍のスピードが出せるのだ。
同型機が三台、この瀬戸内海に配備されており、ホーンド、ホルダー、カーバードとそれぞれ名付けられ、今伴賀が搭乗するのはホルダードラゴンである。
マリンドラゴンのためにドッグが必要である。
現在はやはり持ち会社で不動産デベロッパー・伴賀レジデンスの名で無人島を購入し、そこにマリンドラゴンのドッグを建設している最中。
最終的に瀬戸内海内に30のドッグが作られ、現在既に10か所の拠点ドッグが完成され、高速ジェット船もそれらに配備されている。
そのドッグを建設する島の下見、そしてやはり日左連の動向を追うのがこの海上にいる伴賀の目的であった。
―この海に日左連が潜んでいると知り、10年以上に渡り捜査しているが、ヤツら、仲間の命をなんとも思っていないから、平気で切れる・切られる。
更に、日左連はこの海と陸で暮らす人々に溶け込んでいるのだ。
伴賀と綾川が捕まえたコマンダークラスの日左連の構成員は結婚し、子どもも三人いた漁師だった。
日左連の関係者であること以外はまともな人物だが、最後は自裁して逃げた。
今から2年前、孤島の素封家の屋敷で連続殺人事件が起こり、その解決は伴賀の手によってなされ、その時に一目を置いたのが海保の栗久である。
その日左連の自殺は海保の船で行われ、伴賀も栗久も日左連の狂信的な態度と忍耐に辟易し、3年後の八幡浜湾沖海戦に結実するまで煮え湯を飲まされることとなる。
「代表、この艦では目立ち過ぎます。夜陰にまぎれてゴムボートで上陸するのが得策かと」
この男は大和田律夫といって、伴賀の二つ上の年齢で、情報産業シャーク・インベスティ・ゲイションのエージェントだ。
伴賀と気の合うことから、部課長にはならず、直属の諜報員として瀬戸内海の日左連調査の責任者として活動している。
この時代のチームはほとんどが伴賀の経営する会社の社員によって構成されている。
企業という営利団体を自分の趣味に付き合わせるのがだんだんイヤになり、マリンドラゴン完成後に、独自のチームで運営されることとなるが先のお話。
だが大和田はそれでも伴賀に付き従い、この回のエピソード後半でも彼の能力により事件は劇的に変化することとなる。
淡路島と小豆島の中間には細々とした島がこちゃこちゃと点在する。
そのうちの一つに多くの日左連が住むという情報が入ったのだ。
「では、我々の出番ですかね」
軍隊経験者が云う。
我々とは彼とやくざの出稼ぎと元プロレスラーの三人のこと。
伴賀はけっこういいとこの息子で、高学歴で、成功した起業家である。
だから本来ならば、こういう社会のクズは大嫌いなのだが、制圧や暴力はさすがに自社の社員にさせるワケにはいかないので、彼らを雇っている。
伴賀は護身術めいたもののレクチャーを受けると同時に彼らのような闇社会のケンカ屋にもスパークリングをつけてもらっている。
実はその過程で、彼らと妙な友情めいたものが芽生えたが、お互い住む世界が違うとその感情を表に出さなかった。
「伴賀さんね、兵隊じゃなてく、仲間を探さないと。オレたちなんか使ってちゃあ、ダメよ」
傭兵専門の軍隊経験者はそう云ったことばある。
伴賀もいちばん気に入っていたのもこの男だった。
ゴムボートにはその兵隊役3人が先行、後攻は伴賀、大和田、綾川士仁の3人である。
書いてなかったが、ここに綾川もいる。
彼は既にインテリジェンス、つまり諜報戦の理論化、同時に企業経営を手掛け、伴賀コンツェルンのナンバー2となっていた、と、同時に、船舶の資格や免許をことごとく取得し、来たるマリンドラゴン出港時には艦長となる覚悟も決めていた。
「伴賀さま、マリンドラゴンの完成も近い。関本さまがご存命ならば、どれだけ喜ばれたことやら」
綾川、年下で後輩の伴賀に様をつける。
組織内での地位を尊重した、スポンサーである伴賀への義理立てもあるが、綾川自身が執事体質というのか、付き従うことに誇りを感じるタイプであったのだ。
『伴賀さん、妙だ。タイムラグ作って上陸してくれ』
軍隊経験者から伴賀宛の着信。
灯台のある孤島。
その灯台の付け根にゴムボートをつける予定だったが、伴賀たちはそれを少しだけ離れた入江に止めることにした。
「おい、こりゃ!」
見ると男たちは5人倒れている。
こんな深夜に、こんな孤島に倒れているなんて日左連の構成員としか思えない。
―すると!
伴賀は小走りに灯台を目指し、綾川と大和田も続く。
そこではやくざが地面に倒れ、レスラーが足を引きずりながら取り巻いていた、誰を?
セラミック製の電磁警棒を持った吉祥文世に!
高橋二佐殺害事件から、もう1年が経過しようとしていた。
「伴賀さん!代金分は働くゼ!この大男とオレで、この警棒野郎をツブす!」
軍隊経験者は刃渡り20センチのナイフを持っている。
「バロー!刃物は禁止と云っていたじゃんかよー!」
伴賀が軍隊とレスラーの前に立つ。
「この者ら、主か、我は?」と吉祥。
「ああ、伴賀孝夫だ。ばんちゃんでもタカちゃんでも好きなふうに呼べ!」
「吉祥光世だ」
「おいおい釣られて名乗っちゃったよ」と伴賀、露骨に笑う。
「言行に恥ずるなかりしか!」
「ハッ!あんた、海軍か!?」
「何を目的に上陸したか?!」
「復讐だ!」と笑みの消えた表情で伴賀。
「あんたは、そうか、復讐のためか、明るく見えたのに、暗いヤツだな」
「そういうおまえの目的はなんだ!?」
「汚名返上!」
吉祥、たった1メートルの距離を駆け出しスタートの態勢。
伴賀、身構え、右手の袖口を吉祥に向ける。
どちらにしても戦闘を想定していたので、2人とも長袖、長ズボン、伴賀は白のワイシャツ、吉祥は素肌に直で藍色のブルゾン。
セラミック製の警棒を素手受けようとする伴賀が右手で左腕から出た針金を勢いよく引っ張る!
速射破壊砲!空気弾を吐き出す、射程距離わずか1センチ!この時にはもう完成したいたのだ!
ベキン!と音を立ててセラミック製の警棒は二つに裂けた!
その不意打ち中の不意打ちに格闘技と戦術のプロの吉祥も啞然・呆然。
大和田と綾川が伴賀の隣りに立ち、〈ある物〉を握らせる。
〈ある物〉、それは鉄心の太刀!
「見たところ、野良だな、海の野良犬だ。汚名をそそぐのであれば、オレと来い!その見返りとして与えるは本邦唯一無二の地位と装備と名誉と快楽!力と恐怖!!」
男が刀を男に渡す、ということは、それは契約、主従関係という契約が成立した、ということだ。
伴賀が柄を向けて吉祥に渡す。
凄いスピードでひったくった後に、既に右手の延長線上にあるかのように鉄心の太刀を振りかぶる。
綾川と大和田を身構えたが、後方の岩場に隠れていた日左連のメンバーの首にその刃の無い切っ先を叩きつけたのだ。
白目を剥く日左連のひと。
「コイツらの一人が撮影していたそうな。その歌村ってヤツじゃねーか?」
吉祥が差し出した画像こそ二村が眼帯をして歩いていたもので、ここの下っ端、さっきの入江で倒れていた仲間が盗撮したものだという。
日左連は仲間を売る・捨てるのが日常茶飯なので保険で撮影しておいたらしい。
ホルダードラゴンでこの界隈で荒事をしていた吉祥に、真っ先に聴いたのは〈復讐〉の相手だった。
第一に〈歌村〉の存在と所在を尋ねたのだ。
だが吉祥が〈汚名〉を説明するのは歌村を殺した年の秋となる。




