第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act1 世情4
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―旅に出る時、私の周囲にあったものは、旧車メグロREX Y2 350と少しの衣装。
セミロングの黒髪はそのままにハーフヘルメットをかぶり、古着のジージャンとレザーパンツを着用。
身長は155と小柄だからバイクを倒したら、起き上がらせることが難しいように思われる。
―18歳の誕生日に直ぐ免許を取った。約2年間、受験勉強とゲームと実業の合間、もしくはそれらを兼ねてもう5万㎞走ってきたけど、孤児の私にはふりむくものなんて、何もないもの。
こう見えて、バイカーとして、熟練度は高く、ひょいとバイクを扱うし、そもそも倒すなんて野暮はもうしない。
確かに、彼女の両親は、彼女が幼少の折に他界しているが、母親の実家に、父親の実家の企業に、別に起業した会社が彼女をバックアップするどころか、彼女自身が役員の一人として名を連ねている。
ここは下津井海岸、岡山県倉敷市にある東大瀬戸内海洋研究センターがある。
彼女は倉敷駅前のマンションからここに通っている。
駒場キャンパスには彼女が所属する学科の本体があり、父親の親族が運営する関本海運の本社が東京にあるため、東名高速、名神高速、中央高速、山陽自動車道を乗り継ぎ、バイクで頻繁に移動をする。
公共政策学教育部都市開発学科、この新設の学科の二回生。
傍から見れば地方創生のような学問と見られたことであろう。
ともかく彼女はここでやるべきことがある。
具体的に言おう、彼女とその仲間たちは瀬戸内国際芸術祭に出店の計画を進めている。
かの八幡浜沖海戦からそろそろふた月が経とうとしている。
季節は秋、瀬戸内海の島々に湾や漁村で行われるアートの祭。
「その瀬戸内国際芸術祭で二郎ラーメンを売ろうと思うんだ!」
これは吉祥寺の井の頭公園内にあるいせやという飲み屋で飲んでいた時に、学科の同性の友人が連れてきた異性の芸大生が云った台詞。
「ええええええ~!地元の名産を食べるチャンスになんであんな油っぽいものを!?」
同性の友人、零子が素っ頓狂な声を挙げて否定する。
芸大の子の反論は以下の通りである。
彼の出身地は愛媛、蜜柑農家の息子、確かに松山にインスパイア系があるが、基本、四国は二郎未開の地、そんな土地で、しかも駅前とか郊外でなく、海に面した浜や島で二郎を作って・食べる、これはよくある野外フェスでフランクフルト・ソーセージを売ったら意外にビッグビジネスになるのと同じではないか!?と考えたワケ、ということ。
「それにさ、芸術祭で二郎を売る・喰うというのが一つのアートだと思わねぇ!?」
そう、芸大生の希雄くんは熱弁する。
彼女は乗り気でなかった。
まず二郎を食べたことが無かった。
そんなことを云うと、じゃあ、二郎を作るから、食べに来いということになり、材料の調達があるから、ちょうど一週間後に彼の部屋で二郎を作る過程を見せ、みんなで試食ということとなった。
「臭くない!?」と零子は関本の娘に云うが、彼女はわくわくしてきた。
―これは、良い香りだよ。
芸大生方も男女一人づつ参戦して、希雄くんを手伝う。
―!!!美味しい!
「美味しいよ!これ!」
こちらは零子の発言。
「確かに、これを瀬戸内海に持ち込むのは夢がある!だけど、この食材と調味機材を持ち込んで、捌くのはけっこうタイヘン。それに私は倉敷キャンパスにしょっちゅう行っているけど、瀬戸内国際芸術祭はそういう野外フェスと違って、島々に点在する拠点で開催されるから、どっと人が押し寄せることなく、ただの売店になっちゃうよ」
彼女は瀬戸内海の発展を画策する研究をしている。
今までふるまい二郎が女子2人にうけていたので嬉しがっていた美大生三人も彼女の言葉に気落ちした。
「さて、そこで提案なんだけど、私の父方の親族が海運業している。どう!?会期中にその会社の船の上で二郎の店をオープンさせ、二郎が瀬戸内海の島々や湾内をまわるの!つまり船上のラーメン屋、動くラーメン屋!」
皆が面白い!それはウケる!と発声する。
「四国と中国地方は二郎不毛の地、事前にSNSで着湾地を教えて、営業時間出せば、話には聴いていると中高生や出張では食べて忘れられないおじさんとか詰めかけるゾ!」
「じゃあさ、クルーズ船でなくて、中型でいいからタンカーにならない!?二郎はクルーザーじゃなくて、タンカーの甲板だろうに!」
と話に花が咲く。
関本海運こそ、彼女自身も役員だがそれはこの時に言わなかった。
話はとんとん拍子に進み、まずは瀬戸大橋の付け根、下津井からスタートということで、中型タンカーが停泊するこの湾の下見に来たのだ。
これは彼女にとって僥倖であった。
父親が関本海運以外に持っていた会社はまさに瀬戸内海のために企業であった。
それに学科、公共政策学教育部都市開発学科こそ、計画的に瀬戸内海の発展を目指すチームを育成するもので、それはその〈会社〉の人々、東大OBの肝いりで開設された学科であった。
―そう、瀬戸内海と都会のパイプを結べば、ひとは都会に行ってしまう。なれば、瀬戸内海に強烈なコンテンツを作ればよい、それは瀬戸内でしかできないことであるならば猶更だ。
『きみは瀬戸内海の女王になるんだ。それは遠い未来の話ではない、手に届くほんの少しの先のこと』
父親代わりの男は彼女にそう語った。
―ふふ、瀬戸内海の女王、それが私がこいつで走っている理由になるのかな?私は関本亜樹子、天涯孤独の美少女さ!
バイクで駆け、タンカーをチャーターする関本亜樹子もやはり女の子、お腹が鳴った時には脳内で決め台詞吐いたのに、そのギャップに恥ずかしくなり、誰か見ていないかと辺りを見渡した。
すると初老の男が慌てている姿が見える。
亜樹子、近寄る。
すると初老の男が米をばら撒いていることを知る。
「ああ、ああ、米の袋に穴があいていて、米が、米がこぼれる」
亜樹子、機転を利かせ、かぶっていたハーフヘルメットを袋の下にあてがう。
男、笑顔で「お!ありがとう!」と告げる。
「私の髪の毛がついちゃうし、早く別のものに移しましょう」と亜樹子が告げると2人で米袋を持って湾の堤防へ向かう。
瀬戸大橋がほぼ真上に見える、下には古びた船が一艘。
「こんな汚い船だ、ご婦人を誘い難いが、恩を受けた。だから言うだけは言う、朝ごはんを食べていかないかね」
初老の男はこういうのだが、そもそもお腹が減っていた亜樹子はなんの躊躇もせず、「ご馳走になります!」と即答した。
初老の男、忍信夫はこう思った。
―いや、そうじゃない、こんな辺鄙な場所、しかも海上生活者、フツーは若い女の子は断るもんだが、やはり血は隠せんか。
忍が直ぐに米を研ぎ、炊飯器をかける。
炊けるまで、味噌汁の出汁を取り、茄子の漬物を切り、魚たちを三枚におろす。
「釣り、毎日やっている。なにしろ船で暮らしているから、とりあえず釣り糸をたらす。かなりいい魚が釣れるから、自分が食べる分以外は売る。この米は仲いい農家から交換してもらったが、袋はちゃんとしたもんじゃなかったな。釣りはする?」
亜樹子は「しません」と返す。
「そう、女の子で釣り趣味のひと、見たことないな。それを言ったら、バイク趣味の女の子、初めて見たけど」
そんなふうにおじさんの信夫と女子学生の亜樹子の会話は案外弾んだ。
―ええええええ~!
それは亜樹子が味噌汁をすすった時に出た声。
「瀬戸内海はカタクチイワシよ!いりこだしだよ!」と微笑する信夫。
太刀魚、はまち、鯛を叩いて・混ぜ、葱や胡麻の薬味に薄口醬油に食べラーを入れたなめろうをあったかご飯の上に乗せ、亜樹子、搔っ込む。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「涙ぐむなよ」
―関本、おまえの娘はいい娘に育ったよ。




