第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act1 世情3
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いざ戦争となれば作戦室に詰めなければならず、参謀本部室はシャワーや仮眠室も用意されていた。
だが、高橋二佐には本当に海軍シミュレーションゲームに関してはマニアの域で、AI相手に地中海沖海戦を始めていた。
すると嫌いではない吉祥も、「高橋参謀、コレ、補給はどう考えます?俺、裏技教えますよ」とか10分くらいだろうと2人でディスプレイ眺めてぺちゃくちゃ、あれこれと戦略組んでいたら40分経っていて、佐久から怒りのスマホ通話が来て、打ち切り、急いで出ていった。
その時に部屋前に立つ立哨兵にも浮ついた挨拶をしてしまった。
おおしお型潜水艦、着艦して未だ6時間しか経っていたない。
その間、仮眠と食事を隊員は済ませている。
―急ぎという本当なんだな。
とゲームに夢中になっていた吉祥がそう思っている横には憮然とした表情の佐久が立つ。
艦橋でのこと。
「しかし、艦長、氷室さんほどのサブマリン・ライダーがいくら二国相手とはいえ、逃げ出せないほど、囲まれますかね」
憮然としていたのはもうゲームのことではなく、素朴な疑問に移ったようだ。佐久、いいやつ!
「実はな、陸幕の南郷、知っている?あ、そうか、一回、三人で、市ヶ谷の焼きとん屋で呑んだもんな。アイツが云うには半島統一の話が動いているらしいから、韓国と北朝鮮の潜水艦が共闘する可能性もあるとオレは思っている」
「北の裏にいる中国が許さないでしょうに」
「裏につけるのをロシアに鞍替えして、満州から半島までを支配地にする可能性が高い」
「そりゃ、トンデモだ。アメリカが黙ってない」
「どちらにしても大国を牽制できる。ヤツらは世界征服を企むのではなく、この海域を安全でなく混乱に落とすことが目的だから、理にかなっている。ゴネ損にはなりたくないだけだろう」
おおしお型潜水艦が隠岐の島を通過し、最初のピンガーを試しに打ったのは陸上にある38度線の手前100海里ほどから。
あくまで試しに、である。
答えなんて、吉祥も佐久も期待していない。
だが、返信のピンガーを打たれたことをアクティブソナーは直ぐに捉えた。
「これはどこの国か!?」
そう吉祥はこれが半島ふた国のものであることを当然疑った。
「勿論、日本の乙女の美声ですよ!間違いない!」
水中音響の分析にかけては過去遭った中では最強の部下、吉祥は信じた。
―最強は言い過ぎか。氷室の部下にはこの広範囲の海域でこちらのピンガーを聞き逃さなかった更に上のソナーマンがいたということだ。
「このエンジン音!間違いなく氷室艦長のはやしお型です!更にその後ろから、これは申采浩、シンチャホ!韓国軍です!」
部下の耳を吉祥は疑ってなどいない。
だが、大韓民国海軍は友軍、自分らと模擬戦をする仲だ。
吉祥も数人だが、友人と云える、韓国人の海の男がいる。
―北朝鮮に本当に付いたということか!?
吉祥艦長以下、乗組員皆がそう思った。
「氷室のはやしおに合流する!最大全速で詰め寄れ!スクリュウーをもぎ取れるまで回し尽くせ!」
そのスクリュウーの音が聴こえる距離になった時に、申采浩が離れていきます!とソナーマンが叫ぶ。
「アップトリム全開!これより浮上する!」
勿論、一時間はやしおと併走して日本領海に入ってからのことだ。
「佐久、なんだ、これは」
「はい、いろいろおかしいですね」
韓国の潜水艦から敵意を感じなかった。
数千キロ先の乗組員の敵意や悪意を感じることなんてできないから、潜水艦乗りのカンと云うヤツである。
こちらのピンガーを直ぐに捉え、牽制されて動けないハズだった氷室艦は直ぐにこちらの動きを察知し、合流に最短でノってきた。
―やはり、氷室は我が海自、最強のサブマリン・ライダーだ!
横須賀配備の潜水艦に乗る吉祥は太平洋ならば勝てる自信があったが、キナ臭い日本海の海底地形を全部把握し、ロシア・中国・北朝鮮を同じくらいの期間相手にしてきた氷室には負けると感じた。
―イヤだねぇ、こういう家柄で配属先が決まるのは。
艦橋からゴムボートではやしお型潜水艦に急ぐ、吉祥。
「いや、佐久、何かの時のために、おまえが艦長代理だ」
吉祥のカンが一人で来いと云われた気がして、佐久を置いてきた。
そして氷室も一人、潜水艦に横づけされたゴムボートで待つ。
氷室、吉祥の190には劣るが、170、掘りの深い顔立ちにフチなし眼鏡のスレンダーな体形の海の男。
「おい、日本海のシャチが半島のイルカ相手に二匹とはいえ、どうした!?」
「吉祥、おまえと2人きりで会いたかったゼ!高橋二佐はクーデタを画策している」
「!」
「だから、イルカ二匹に追い詰められたフリして、おまえに来てもらった!必然的に俺の窮地を救えるのは海自ではおまえだけだからだ!」
「そんな、だったら、横須賀でも舞鶴でも陸では話せば」
吉祥の言葉を遮り、氷室が続ける。「自衛隊の諜報機関が牛耳られている!どこで話しても盗聴される!この海のど真ん中しかあり得ない!」
「証拠はあるのか!?」
「舞鶴基地は最早ヤツの私兵だ!だから政情不安を理由に日本海を俺は航行し続けた!韓国と北朝鮮の潜水艦は利用させてもらった!牽制したのは俺だ!囲まれたフリして、煽ったのだ!」
―そうか、だから韓国の潜水艦は氷室を追撃すると見せかけて、戦線から離脱した!スジは通る!
「吉祥、警察の弱体化、首相の死、経済界・特権階級の横暴の表面化、これはクーデタのチャンス到来だ。あの自衛隊創設以来の天才が動いたんだ!信じてくれ!そしてこのまま舞鶴に帰還して、2人で高橋二佐を更迭する!」
「そうだな尉官クラス2人でならば、臨時として佐官クラスの捕縛が許されるのは海軍時代からの暗黙の了解だ。判った!信じる!急ごう!」
2人はモータボートを回収して、直ぐにお互いの潜水艦に搭乗し、一路、舞鶴を目指した。
舞鶴の基地は海自五大城と云われるが、その城に潜水艦が二台も停泊するのは珍しい。
「佐久、拳銃を用意してくれ!オレの分、一丁でいい」
「え」
そして吉祥は佐久だけに氷室から聴いた高橋二佐のクーデタ首謀者説を話した。
あの高橋に次ぐ天才の氷室の言、全部間違いとは思えない。
だから佐久も高橋サイドの可能性はある、というか、オレの監視として高橋が佐久を置いた可能性が捨てきれなかったが、上陸して電撃的に高橋を更迭するためには仲間が必要だと吉祥は判断した。
―もし、佐久が高橋のスパイならば、オレが撃ち殺す。
職業軍人とはそう言うものなのだ。
〈別レヲ悲シマヅ〉
吉兆は子ども時に最年少の海軍士官であった経歴を持つ祖父にこの武蔵の言葉の意味を聴いた。
―光世、これはね、〈いつでも死ねる、いつでも殺せる〉という意味だよ。
佐久の顔は青ざめていくのがよく判るほどだった。
だが最後には「艦長を信じます」と云って、上陸する時に艦内に上着を置いていった。
佐久と吉祥が氷室と上陸する。
「おまえは仲間、連れてないんだ!?」
「吉祥、おまえと違い、俺は乗組員に俺たちが逃げ帰ったら直ぐに発進できるようにしとけ!と指示を出してある!」
「ははっ!では韓国か台湾に亡命するか!」
「それだとまた米国の犬だ!いっそうニューギニアとかブラジルとか行こうよ!」
その時の氷室の笑顔を吉祥はかわいく思った。
「氷室さん!なんですか!急に!吉祥さんに至っては、それピストルでしょう!なんですか!」
吉祥はハダカで銃を持ち歩くポカを犯すくらいには高橋・氷室の冷静沈着ぶりには劣っている。
「立哨兵の2人に告ぐ!私らは密命を帯び、高橋二佐に身の危険が迫っているので、その阻止に駆り出された!早く開けてくれ!」
立哨兵の一人は艦内受話器で参謀本部室に内線を入れる、もう一人はスマホでそうする。
だが高橋は出ない。
「たたき壊しますか!?」と佐久。
「刑事ドラマじゃあない!司令官に連絡だ!」
舞鶴基地司令官権限で、参謀本部室のドアの開錠回線は開けられる。
司令官は市内で孫とご当地スイーツの瓶入りプリンを食べていたところ、氷室にパスワードを教えた。
計器が丸出しになり、やり方を知っている立哨兵がその計器にある配線を順番に切断する。
この手順でないと外からは強制的に開けられないのだ。
ようやく開くと五人の前には首から大量の血を流し、大の字になって死んでいる高橋二佐の死体が登場した。
「密室殺人事件!」
立哨兵の一人は本格ミステリのマニアだった。




