第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act1 世情2
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やくざやテロリストというものはツリー型の組織系列で管理・運営されるものだが、匿名・流動型犯罪グループ、通称トクリュウという犯罪グループがツリー型でなく、まさに流動性、〈木〉でなく〈水〉のような組織のテロリスト版としてペドリストは存在している。
これはネグリとハートが再び取り上げたマルチチュードの概念に近い。
だが、結局、トクリュウもペドリストも似たようなヤツが集まる個別性のない集団であること、それはファシズムがイタリアやドイツでは画期的で・目立つカリスマに変人揃いの幹部たちによって指揮・執行されていたのに対し、日本のそれは明確なリーダーもなく、お飾りだけが多いのにファシズム国家として、戦争を遂行し、国を危うくしかけて構図に相似であった。
ペドリストの親が小学生の娘を使って同級生を拉致監禁した事件が起こり、騒然となったこともある。
その驚きの一つに警察がペドリストの事件を解決したのか!がある。
そう、警察の弱体化ははなはだしく、凶悪犯罪を解決したことが久々だったのだ。
すると当然各地でスラム化する町が多くなる。
そもそも人口が減るとはその分、能力の高い人物が生まれ辛くなること。
官僚よりも企業や起業に回る一流大学生が増え、人材は海外にも流出する。
なにより政治家を志す若者は旧来の派閥から皆無となる。
荒れた学園には当然登校拒否が増える。
教育の部門にも人材は集まらず、後人の世代がすると伸び悩むという悪循環である。
スラム化、それはトー横が全国各地にできるようなもので、そこでの商品は男女関わらず若い肉体であり、安価な麻薬であった。
それでも首都圏の通勤電車は満員で、インフラは止まらず、都心にはオフィスビルが仰山建設中で、革命政権ができることなどない。
ただ異常に跳ね上がった犯罪発生率と失踪とされる特異家出人の数の増加と自殺者の急増だけは目立つ。
そういうものは諸外国、周囲の国には見えないものだし、その国々も似たような状態であった。
(ただだかれこそ、ブルジョワマンション・ジャンボジェット機特攻事件と現役首相猟犬暗殺事件は目立つ)
戦争を知る者がいなくなることはその国について不幸である。
戦後日本の80年の平和は保守も革新も、政治家も市民も戦争を知っていたことで守られていた。
それは他国も似たようなものである。
挑発行為が激しくなった、国内の主戦論の声が外にも気負え出した、なにより北朝鮮の威嚇の核弾頭が
打ち上げに失敗し、韓国の国境付近の海域に墜落、日本海は混乱した。
この舞鶴基地には、潜水艦が配備されていない。
そこで艦長の吉祥一尉は所属する佐世保軍港からおおしお型潜水艦で指揮を取り、ここまでやってきた。
太平洋側のコースを辿り、伊予海を上がり、つまり四国と九州の間をすり抜け、日本海側に出る。
「佐久、和歌山から瀬戸内海に入った方が、近道だったかな」
「隠密行動ですから、目立つのはやめましょう、館長」
舞鶴のドック。
潜水艦用のものは建造中なので、巡洋艦用のものに間借りするように収められている。
佐久は吉祥艦長の副官にあたる准尉。
防大卒業後、研修期間の後、共にこの船に配属されもう2年、吉祥艦長とは良き信頼関係を築いている25歳。
舞鶴のドックを見渡せる司令塔には立派なブリフィングルームがあり、ゆったりとしたほぼカフェである。
2人は粉から挽いたコーヒーの香りと味を楽しんでいた。
セルフサービスだと吉祥も佐久も記憶していたが、女性の下士官が接客してくれていた。
髪をひっつめ、一糸の乱れもない紺の海自制服の着こなし、それは彼女を厳粛な女性隊員に見せたが、身長の低さと幼い顔立ちに吉祥は少し驚く。
―中卒で基地配属とはそうとう優秀なんだろうな。
吉祥は曾祖父からの軍人の家系、最終学歴は防大ではなく、海上自衛隊幹部学校である。
つまり優秀さも毛並みも申し分ない〈軍人〉であった。
古代から海戦史に強く、剣道も三段で止まったがそれは業務が多忙なためで本来なら、五段以上の腕前と云われる。
そして海戦史の勉強会の後でも、剣道の稽古の後でも酒を飲み・仲間と語らうのが至上の喜びの男、未だ独身の35歳。
エリートだが豪胆な人柄が後輩でがんばっている者にはつい目をかけてしまうクセがある。
佐久がまさにそんな関係で始まったが、今では良きコンビである。
「遠路はるばる、ご苦労!」
そこに高橋二佐、舞鶴地方総監部と舞鶴在籍部隊両方で参謀を務める。
佐官で・四十路手前で、この待遇は実質的にはこの基地の司令官ということだ。
しかも北朝鮮のミサイル打ち上げ失敗から配属されたと聴いている、つまり、この荒れた日本海情勢の併吞を任されたということだ。
「琵琶湖に海底トンネル掘ればあっという間なんですがね」
海軍式、しかも潜水艦乗り特有の敬礼を佐久を入れた三人はかわした。
その時にはもうひっつめの女の子はいなくなっていたが、高橋二佐の座るテーブルにはコーヒーカップがシナモンスティック付きで置いてある。
高橋二佐とは同じ海自の出世コース同士、よく遭う。
なにより海軍特製の海戦シミュレーションゲームで何度か対戦したことがあるが、海自内で高橋が1位、吉祥が3位。
「氷室二尉、ヤバいことになっている」
「ええ、韓国軍と北朝鮮の潜水艦に囲まれている、とうかがっております」
その氷室二尉こそ全世界共通の海軍シミュレーションゲームで二位だった男。
ちなみに非公式に米海軍や欧州の海軍らの将校と通信対戦したことがあったが、高橋、吉祥、氷室の3名は全員10位圏内だった。
なにより北朝鮮の核弾頭は墜落したのに爆発もしてないし、核汚染もおこしていないらしい。
それほど脆弱だったのか、単にブラフなんだろうが、それでは国の威信が丸つぶれで「韓国軍が我が国に対し打ち上げた核弾頭」という詭弁を呈し始めたのである。
責任転嫁なのだろう、遭遇した氷室のはやしお型潜水艦が二軍の潜水艦に囲まれるカタチとなり、日本海側を南下し、東シナ海を目指している。
「すると、当然、中華民国海軍と中国海軍が動き出す、すでに台湾は海龍級を2隻、中国に至っては094型が発進したという情報が私に陸幕情報局から届いている」
「って、94式って、原潜じゃないですか!」とこれは佐久。
既に三人はブリフィングルームに隣接する参謀本部室に移っている。
「アジア人は威嚇が好きだから、即実践にはそうならないだろうが、同時にアジア人はメンツをなにより重んじる。だから、そうも言ってられない」と吉祥は云い、続ける。「この舞鶴基地の司令官はそのことをご存知でしょうか」
「ふん、さすがは吉祥一尉。これは高度に政治的な問題だ、だから、海自の将官クラスと私ら以外知らない。だから隠密に片付けて欲しい。氷室を逃がし、半島の二隻の潜水艦をまいて、この基地に戻ってもらいたい」
「リミット、あるんでしょう?」
「ああ、ある。オレはここを使うことがほとんどない、参謀室で例の海軍シミュレーションゲームに没頭するのが好きだ。根詰めると二晩徹夜もへっちゃらとこの基地の隊員の多くが知っている。司令官が気づく前にというのもあるが、オレには自衛隊情報保全隊や陸幕にも付き合いがあることから、情報統制としてマスコミも抑えられる。そのリミットがあと二日、いや、明日の15時だから、あと26時間だ。ディーゼルとは潜水艦、往復で6時間あれば行けるだろうが、残りの20時間で氷室を救出してもらいたい」
雪隠詰めを選んでもあの笑顔の裏でプライド高い高橋がこのように選んだのは、現在の警察組織の弱体化にペドリストと俗称される工作員、そこに近隣諸国との対立が表面化したら、この国は積む、と思っているからであろう、と吉祥は推理した。




