第2話 決戦!瀬戸内海国立公園 Act1 世情1
1
2030年代まであと数年のある年。
その年に伴賀たちマリンドラゴンは八幡浜にて8月、日左連を壊滅せしめた。
その数年前、ウクライナとロシアの戦争に端を発し、世界はまた局地戦争や紛争が多数発生する旧来の世界へ逆戻りした。
この頃、日本でも問題が起きていた。
俗に上級国民と呼ばれる富裕層、つまり特権階級の住所や個人情報が爆サイなどの掲示板やXTwitter等のSNSにその内容が〈晒され〉ていた。
第一次ベビーブーマーが鬼籍に入りだし、第二次ベビーブーマー、いわゆる氷河期世代と云われる、最後の人口比率が多い世代が初老となっていた。
初めは盗撮やゴミ袋を荒らす等の嫌がらせレベルだったが、子どもたちへの誘拐未遂やいたずら未遂が続くようになった。
人口が多い世代、〈無敵のひと〉も多かったというワケだ。
子どもへの犯罪、それは唾棄すべきもので、犯人たちはそれを競い合うようにゲーム感覚でやっていたのだから、非難されて当然だったが、被害者はブルジョワの子弟、むしろ彼ら、〈ペドリスト〉、ペドフィリアのテロリストの意、らしい、の行動は民衆の留飲を下げた。
そんな犯罪実行の瞬間を盗った映像、運営側から即VAN!されるようなものだが、見つかるまでには数十分はかかる。
だから人々はその数十分のためにその動画共有サービスに張り付き、その画像を見つけ・拡散する者もまた現れ、彼ら〈拡散屋〉もまた英雄視された。
中には〈成功〉してしまう内容のものもあり、つまり子どもへのいたずら行為がバッチリとネットに挙がった例もあり、警察も対応を強め、ネットのパトロールも強化された。
やはり富裕層は金があるのである。
直ぐに自警団を会社化させ、自分と自分ら家族と財産を守るために法人としてのビジランテを確立させた。
メンバーの多くは現職警官のヘッドハンティングで、横の繋がりがある警察組織での連動をそのまま主要5社でも持ち越され、権力としても申し分ない存在になるのは半年かからなかった。
匿名・流動型犯罪グループ、通称トクリュウにも対抗する組織として、引きこもりの子弟の引き出し係としても活躍し、自警会社の市場利益は直ぐに一兆円を超えた。
左翼文化人たちの多くは〈資本主義とファシズムが悪魔合体した最悪の権力機構〉として批判を展開、そして遂に〈自由文学党〉なる党派を結成させ、芥川賞作家、芥川賞ノミネート作家、映画評論家が立候補した。
結果は惨敗。
彼らが掲げる、沖縄米軍基地問題や原発問題は庶民にとってはどうでもいいことでしかなく、自警会社とペドリストの対立など、守銭奴どもの犬と下級層の変態の見世物小屋でしかないので、危機感などハナから選挙民にはない。
その〈自由国民党〉は最後に主要メンバーでの時の首相暗殺を話題にするメールのやり取りが流出し、それを「ジョークだった」で済ませ、ここに明治10年代から始まった、文壇・論壇の権威というものは完全に地に堕ちた。
警察も似たような者で、警察学校を卒業して、自警会社に就職する者が6割になった。
当然、警察は弱体化する。
上級国民には自分たちがオーナーとなっている自警会社があるが、大衆にはそれがないから、治安が悪くなるとその泥は頼れる警察が弱くなった大衆がかぶることになった。
この間、自警会社には警察だけでなく、暴力団を主体にした会社が数軒存在していた。
いわゆるヤクザであるが、それはヤクザ本来の姿であって、ここでヤクザ系自警会社は独自の進化を遂げることとなるのだが、今は本筋と関係ないから、端折るがマリンドラゴンのメンバーの一人がこの系列に関係するので、いずれ詳細に説明する。
その一人とは、ダーツを巧く使う男。
資本家が権力を公然と独占し、知識人やマスコミの反論は信用されなくなり、日本はそうとうきな臭い香りがする国となった。
だが、そんな雰囲気が醸造され、無意識の反映だったのだろう。
「9.11」と後に犯行声明がネットに散見されたと報告される。
中央線の豊田駅から徒歩5分のタワーマンションは50階建て、1フロア1万㎡の巨大ビルであった。
その設備や環境も一級のもので、ペドリストたちの跳梁が始まると経団連トップのCEOたちは私費でその土地ごと購入し、セキュリティや防災・防弾を強化し、自分らの子弟家族を住まわせた。
そもそも特権階級は自分らの利益を漏らさないために仲間内で婚儀を結ぶケースも多いので、警備が高いマンションに一括で住まわせようというハラだった。
警備は勿論自警会社の生え抜きの自警団員に任されていて、その防御は鉄壁、まさに城塞のようであった。
その豊田のタワーマンションにジャンボジェット機が突っ込んだのである。
手口は米国の例のヤツと同じなのだが、自分の欲望のまま突っ走るペドリストが組織化していたことがなにより恐ろしい。
不満のある人材はこのようにペドリストに流れていたので、ある意味逆説的な特権階級である左翼や知識人にはいかなくなっていた。
これが日左連が壊滅するしかなかった遠因なのである。
タワーマンションの住人の8割が死んで、2割も重症で、治安を上流国民に独占されていた大衆は涙を流して悔しがる経団連幹部たちを指さして笑った。
確かに特権階級はムカつく存在だが、育ちと学歴と頭のいい存在がそれだけ大量になくなったのは国の損失でもある。
経団連の爺さんたちが落胆していたのを機に、重りが外れた!と首相を以前務めていた阿藤次郎は総理大臣に復帰し、弱体化していた政党を盛り上げ、対抗する野党は大衆に相手にされない状況が続いたので、阿藤首相は強権を乱発、なにより現皇室一家に引退を勧め、自分の手駒の元華族をその席に据えようと画策した。
六甲山で行われる防衛会議に阿藤首相は出席する。
会場までは緑の多い、自然豊かな心地いい場所、阿藤首相もトレードマークのソフト帽を持ち上げ、市民やマスコミのカメラに笑顔で挨拶する。
首相の横を大きな犬を連れたおばあちゃんがすれ違う。
交差し、離れて1mしない時に、身長140もないおばあちゃんが「ヤれ!」と犬に命令すると、果たして、その巨大犬は首相の首筋に嚙みついた!
10年もしない前、前首相が演説中に手作りピストルを持った宗教二世に、白昼堂々暗殺されたことから、SPや警察はVIP警護に細心の注意を払った。
だが、この始末である。
まさか犬が凶器だとは!
後にこの一生独身の老婆の部屋から女性誌の切り抜きや皇室関係の書籍が多いから、かなりの天皇マニアと判明した。
思想性がない、ただただあの御一家を眺めるのが好きという多くの国民を同じ心を持つ老婆。
TV局はその惨状を見せることで事件の残虐性を見せることとなると首相が殺される瞬間を放映した。
80の爺さんが犬に喰い殺されるとか気持ちいいシーンではないが、SPたちに引っ張られ、殴られ、足蹴にされ、最後には拳銃で銃殺されるその忠犬ぶりの方にむしろ国民の涙を誘った。
口内に既に毒薬を含んでいた老婆の潔い死に様といい、為政者側は分が悪くなった。
宰相が犬に喰い殺される国、この国の政情不安は深刻なものとなっていた。
だがそれでも人々はデモをするでもなく、選挙で立候補するでもなく、ネットのマジヤバ動画を観て留飲を下げるだけであった。
瀬戸内海を駆けるマリンドラゴンがいる世界とはこういう世界なのである。




