表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
PR
29/30

第1話 過激派の殺し方教えます Act.3 ファイヤー・ソード 9



     9



「若菜ぁ」

「くみ子」

2人の少女は抱き合ってその再会を喜んだ。

その抱きしめ合う少女の背後には遼斗の母・郁子。

海を背景にして遼斗、伴賀、西谷。

女の子たちはもう帰ったが、宇江貴美子だけ残っている。

2人の少女がようやく離れると、まずくみ子が遼斗に感謝し、そして急に去ったことを謝罪した。

遼斗はまずは無事な出産を勧めた。

「私も手伝うよ」とは郁子が「協力する」と云った後に乗せるように続けた若菜の台詞。

「でも、これからどうする」とはくみ子。

これはちょいと先の話だが、五島という過激派の幹部を雇っていたことが発覚して、皆の歌通う高校の理事会は大混乱となる。

そのどさくさに紛れ、伴賀や栗久のコネもあり、くみ子は2年後ちゃんと卒業までできるようになる。

「働くよ」

女たち3人に対し、遼斗。

「くみ子、若菜、母さん、ここでお別れだ。おれはこの伴賀さんの下で働く。その決断を許してほしい」

そう云い終わると当面の生活費と出産費用の手配を貯金から抜くよう口頭で指示した。

「ちょっと、今までいい話だったのに、くみ子と離れるってこと!?」

若菜がくみ子を見ながら云う。

「うん、だがちゃんと送金はする。西谷さん、いくらだっけ?」

「手取りは50万円です」

「えーーーーーーーーーー!」これはくみ子、若菜、郁子。

「いいですか」と伴賀。「身分は私が経営する会社の正社員です。内容は機械のメンテナンスや操縦、施設の運営だけど、料理や掃除・洗濯っといった日常生活に関すること、更に情報収集にラディカルな活動です。住み込みなんで生活費は別枠で会社が持ちます」

「実は私も10代の頃に女性を孕ませてしまいまして」と次は西谷が放し始める。「しかも、ヤバいことに母の死んだ姉の娘、つまり従妹の女子中学生が相手だった、引き取られていたから同居していたですが、妊娠、未成年、近親性交とロイヤルストレートフラッシュ状態のトコを3年前に自殺寸前のとこを救ってもらったのです。大検やいろんな資格も取れ、大学生しながら、伴賀さんから手ほどき受けたので、起業します」

―童顔に似合わず、スゲェな西谷。

これは遼斗の独白。

「勿論、出たっきりではない。申請すれば、休みを出し、この湾まで送り届ける。だが若菜さんはもう知っているだろう、あの施設を運営するには24時間365日が必要なんだ」

伴賀の言葉にすかさず、くみ子が「出産には立ち会えってもらえるんですか」と。

「ああ、そこいらはもう一週間くらい休むがいいさ」と伴賀、即答。

これは甘美な誘いであった。

各人各様の思惑が交錯していたのであった。

遼斗は真っ先にこの話をあの大海戦後にした、今日いちにちメンテの手伝いの中、西谷や伴賀から誘いやアドバイスを受けたのもあったが、早い方がいいと踏んだのだ。

くみ子に対して責任は取りたいが、自分を試したい・大きな仕事に携わりたいという性欲より切実な男としての欲望があった。

そして捨てるのではない、親離れを母からしたかった。

くみ子にしても本当に別れるつもりで松山でのコンサルとの一件を語ってしまい、気まずかったのだ。

その気まずさに、本来ならば大学進学も考えていた遼斗がブルーカラーで働いていたら、ストレスもたまる、それではいい家庭は築けない。

ご都合主義のようで申し訳ないが、出産後、くみ子は自主的に血液検査して、生まれた赤子が遼斗の子だとはっきりさせ、LINEで報せたのは半年後のこと。

郁子はこの少女と仲良くやっていけるかどうか心配があった。

不幸な娘さんとして扱うのはお互いのためによくないが、気配りはしてあげたい、でも若菜ちゃんに比べて変わったコって感じがする。

だから、息子がいない状態で、女同士で暮らす・孫を育てる方がいいと思った。

そう、嫁と姑というのは本当に不俱戴天の仇なのだと判れた旦那の母親を想起してそう思った。

なにより妻と姑からすると50万が振り込まれるのはもう典型的な、〈亭主元気で留守がいい!〉なのだ。

子育てしながらでも弁当屋を続けるので、毎月80万円の収入である。

この土地では養育費を差っ引いても贅沢できる金額である。

しかも若菜と貴美子という今回の件で強い結束ができた同性の友達2人。

四人で赤子をあやしながら、甘味やお茶でパジャマパーティーとかする時に、旦那はジャマだ。

息詰まる夫・妻・姑、そして元カノ、元引きこもりのにらみ合いであった。

「愛する女がいるのならばこの船に乗れ!母を思うのならばこの船に乗れ!男として生きたいのならば、やはりこの船に乗れ!それでいいじゃあないか!」

確実に女たちとその女たちに窮地に立たされた遼斗を救うために、伴賀が察して発言した。

「そうですね!それがいい!」

遼斗がそう言い放つとくみ子と若菜と母親が遼斗を四方から抱きしめた。

―そうなんだよ、女と付き合う時に必要な気配りって、このジャンルなんだよ。奥さんと距離が取れていたから、僕もそう気づけた。

これは西谷くん。

―わたしはフツーに高校卒業して、エンジニアの資格を取って、そうしたら又あのマリンドラゴンに帰って来る。

あの誉れあるマリンドラゴンに貴美子は恋をした。

宇江貴美子がマリンドラゴンの専属のメカマン及びナビゲーターとして活躍するのは〈第二部 対ウォータードラゴン戦〉からである。

西谷が荷物多かったのはこのままJR八幡浜線から予讃線で妻子が待つ今治に帰るからだ。

郁子たちがタクシーで西谷を送る。

そして伴賀と遼斗はシーピッポーでマリンドラゴンが待つ鳥島に引き上げる。

2人のもデッキで風に当たっているのは、もう日左連がいない海域、平和になったから、AIによる自動操縦に切り替えたのだ。

「千丈川で言いかけた話って何ですか?ほら、賀茂神社がどうのって」

夕日を見つめている伴賀にそう語りかえる遼斗。

「賀茂神社がここまでこの瀬戸内海に分布しているのは何故か?という民俗学的アプローチをしたかったんだ」

振り返り良い笑顔の伴賀。

その時、遼斗の脳内シナプスが直観で繋がった。

若菜がメンテナンス中に云った言葉。

―そんな男たちにあてがう商売が存在していた、あの過激派たちはその汚い家業を瀬戸内海の海賊から引き継いだと云っていたんだ。

そう悲しそうに云ったのを思い出した。

だから、その話を伴賀にした。

「ああ、どうも確かに海賊の副業ではあったらしいな。でもその稼業自体がマネだったんだ」

伴賀の言葉に遼斗は聞き耳を立てる。

「この瀬戸内海にどれだけ島あると思う?無人島のような小さい孤島を含めて、約3000だ。近代以前はどの島にも少なくない人々がそんな島々に暮らしていた。そこで近親婚の回避のために船で今でいう見合いが盛んに行われた。その拠点が賀茂神社だったとオレのアチック研究所での資料は物語っている。〈賀茂〉とは〈かまう〉つまり相手にするが語源、人々の血の海上交通網になっていた。それを海賊がマネて、一夜の妻、つまり売春稼業を始めた、とオレは見ている」

「じゃあ、八幡船とは?」

「健康な交通から健全な子宝が反映される、だから、菩薩信仰から、八幡菩薩より取られた、きみらの故郷・八幡浜こそ九州・四国・本州の中間に位置する花嫁たちの海上航路の一大拠点だった、とオレは推論する」

「良かった」

「うん?」

「この海が汚れた海ではなく、生命の源だと知れて!」

「こういう古代史や民族史が好きそうでオレも良かった。西谷くん、興味なかったからさ」

遼斗はこの話を若菜とくみ子に再会した時に必ず教えようと決心した。

だから、2人の女の子に会える日がとても楽しみになったのだ。


                                            了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ