第1話 過激派の殺し方教えます Act.3 ファイヤー・ソード 8
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八幡浜の真夏、5時には陽が登り始める。
フェリーターミナルのビルに入って行くのは遼斗。
周囲ではガラスが割れ、散乱している。
踏む気はないのに遼斗が歩いているとたまに、ぺきとガラスを踏む音がする。
ビルのリノリウムの床にぺたと座しているのは伴賀。
死体がその脇で転がる。
伴賀はその死体を凝視している。
ガラスの割れた音だけでなく、気配で遼斗が近づいていることを知るハズだが、伴賀は特に反応しない。
―復讐の後味は、苦い、か。
「伴賀さん、おれ、今夜初めて人を殴りましたよ」
「オレはご覧の通り、初めて人を殺した」
「どうでした?」
伴賀、遼斗を表情を探るように眺めたから、少し間が開く。
「最高の気分だ!こいつに関してはこの骸を見ても全然かわいそうだとは思わねぇー!」
「はい!ぼくも好きな女、2人もヤられる事態、殴っても許されるとかじゃなくて、そうするのが当たり前だと思いました!」
「悪いヤツは悪いんだよ、これほどシンプルなことはない。殺されるヤツは殺されるくらいのことをしていたんだ。罪悪感も良心の呵責も幽霊が怖いすら、これからの人生で一切感じないで生きていける自信がオレにはある!」
そう云うと伴賀は2人以外、誰もいないこのフェリーターミナルビルで高笑いを始めた。
すると遼斗も追従し、笑い始める。
2人とも他の仲間6人に音声をモニターされていることは当然ながら気づいていた。
だからなのか、偽善(いや、偽悪か?)めいた会話を取り交わしたのはどこか儀式めいていた。
だが儀式とは必要な時に行われるのである。
その儀式には暴力も殺人が含まれる場合もあるのだろう。
そしてもう一つ、早くこの海域から抜け出さなければならない。
吉祥と烏賊偉がやたら過酷な任務だったのはこの戦いでの死者は思った以上に少ないからだ。
事故死した一条と四谷雛、暗殺された二村、二村に殺された三人以外は実は生存している。
生存しているとは云っても烏賊偉のダーツはともかく吉祥の〈鉄心の太刀〉で殴られた者は真っ直ぐ歩けないとか死ぬまで頭痛が止まないとかの障害を抱えて生きていくこととなるのだが。
ともかく、ここは早く離れてマリンドラゴンに乗船するべきと伴賀と遼斗は急いだ。
八幡浜港に初めて係留されるマリンドラゴン。
朝日を浴びてそびえ立つマリンドラゴン、明るい時間にようやく遼斗はこの船を見ることができたのだ。
「ドッグの鳥島に戻って、今夜のメンテナンスをしたい、その前にひとっ風呂浴びて・朝食も出すが、遼斗くんもどうか?」
遼斗は二つ返事だったが、横で若菜が「あのぉ!女風呂もありますか!」と尋ね、結果、彼女も鳥島に向かうことになった。
「いや、あまりにもそれでは秘密がザルだ。トップシークレットなんだよ!」
そのように綾川伯父が苦言を呈したのは、宇江貴美子らクラスメートの少女たちも風呂と朝食に惹かれたので、伴賀が呼んだのだ。
だが急いでいたのだ。
もう限界だったのだ。
海保の栗久が佐多岬から南下して八幡浜湾の沖を目指していた。
海保の巡視船が次々と日左連の漁船(大半は焼跡の酷いもの)を拿捕し、次々と八幡浜湾の岸壁に係留していく。
海上には八幡浜警察署の面々が揃っており、次々と細胞たちを逮捕していくが、あまりに数が多いので宇和島署からも応援がきている。
ここからは後々の話の進行も交えた話だが、本件は日左連の内ゲバの話として処理された。
幹部の二村のクーデタで他の幹部や首領の一条が殺され(実際彼の死体の傍に落ちていたピストルの線条痕が一致)、首に謎の爆破物を食らって事故死と判断された。
日左連の細胞たちは火をはく大怪鳥や空飛ぶクルマがやったことという証言があったが、薬物を使用したこととゲバルトで意識が高揚したことで起きた集団妄想と判断された。
南下して逃げる船もなく、自裁する連中もなく、全船が抑留され、細胞全員が官憲に捕縛されたことを栗久から受けた海自の潜水艦はその時ようやく宇和海を後にした。
生き残った日左連のメンバーで最も階級が高かったのは五島だった。
彼はまずなにより、警察病院に収容され、治療を受けたが、心身ともに重症を受け、その二つの意味でまともに話せなくなくなっていたし、もう廃人同様だった。
だが裁判では彼は矢面に立たされ、自分が本当に狂人にならなかったことを恨んだ。
早く終わればいいとだけ思っていたので、遼斗や若菜、宇江貴美子のことは面白いくらい忘れていた。
だが彼の保護者をかってでたのは弟だったので、ここでも五島は更に復讐のマトとなる。
この捜査や裁判の過程で効いたのは、マリンドラゴンの間者たちが集めた情報の数々だった。
証拠隠滅を図られる前に検察に全てが渡るよう用意していたのだ。
そこには法曹界やマスコミとの暗い繋がりを明示するものもあり、芋づる式にその組織のシンパも白日の下に晒すことを画策したが、日左連をもう切るので、藪をつついて蛇を出すことをしないようにとそこは痛み分けとなった。
ここ20年くらい左翼陣営でも横暴が過ぎる、露骨な犯罪行為をする、カンパ、つまり金の無心が酷いなどあり、過去の異物として持て余していたのだ。
それに日左連は遂には愚連隊にまで落ちぶれたのだが、現代左翼の本当の〈左翼エリート主義〉にはもう不必要な存在だったのだ。
あの即断で動ける実行主義を軍隊のごとく頼りにしていたが、無ければ無いでよく、あったらそれは今の時代には迷惑なだけだった。
かくして日左連は戦前からの約百年越えの歴史はこれで幕を閉じたのだ。
伴賀はその闘いを全てポケットマネーで行い、栗久を通じて政府に報酬を要求することはなかった。
だが、それでいい。
ワイルドカードとして瀬戸内海を航行できるライセンスを得たようなものだから。
ちなみにファイヤーソードで一瞬で骨さ残らず消失したコンサルの皆さんだが、前から企業や家族から女遊びが酷過ぎると知られた人物たちだったので、蒸発したのは何らかの事件に巻き込まれたと想像されたが、家や会社がその恥部をわざわざ掘り起こすのもイヤなものなので、黙殺された。
そして半年もしないで彼らの代わりは台頭した。
この世に本当にいらないのは彼らの方だったのだ。
五島が担任していた女の子たちは今湯上りで、マリンドラゴン内の食堂に移動し、納豆にめかぶ、とろろにおくら、生卵に太刀魚やマグロの刺身を箸でかき回したものをごはんの上にかけ、味噌汁と漬物で食べていた。
すると大半は眠り始めたが、高校生では宇江貴美子と厨多遼斗だけがマリンドラゴンとその格納機のメンテナンスを手伝った。
「なんか、フシギ。厨多くんとはあまり接点なかったから」
「うん、宇江さんとも仲良かった世界があったのかもしれないと思うと確かにフシギだ」
昼になりようやく起床した若菜含む女の子たちが協力したからか、作業ははかどり、リセットはなされた。
「じゃあ、みんなを送るよ」
西谷がそう云うと女の子たちと遼斗、伴賀と吉祥、烏賊偉もシーピッポーに乗り込んだ。
計12人は定員オーバーだが、もう戦いは終わったのだ、よかろうとムリを通した。
「くみ子、すべて終わった。ああ、隣に若菜もいる。母さん?そうか、優しき労わってくれたか、そうか」
電波が通じたので、早速、かけてみたのだ。
女の子たちが「じゃあね」とあれだけの目に遭いながら、港に着くと遠足の解散のように皆、去っていった。




