第1話 過激派の殺し方教えます Act.3 ファイヤー・ソード 3
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正確には二村と同格といえる幹部は他に二人いた。
だから彼はその二人を殺すことにした。
還暦が近い二村がこの組織に入ったのが35年前、大学の時、学生課に思想的傾向が著しい学生を売るお追従講師のリンチに加わってからだった。
小中高と友達もカノジョもおらず、スポーツや学業でも目立たない二村が罪悪感に押しつぶされないためには、自分こそ救世主で、真の全的幸福を司る者として使命を帯びていると信じ切ることだ。
ではひとより仕事ができる、金を持っている、モテるとかは実際そうじゃないから、しない。
その代わりに、周囲の学生や家族まで劣った存在とみなし、なにより、女を汚すことでそのプライドを保つことが成立した。
最初は知り合いの同級生のカノジョと逢い、その時に犯した、これは何回も何人も繰り返して、二村は地下に潜った、つまりこの瀬戸内海の日左連の加入した。
片目になったのも勲章みたいなもの、ともかく何かあれが、良いように解釈し、ピンチもチャンスに変える器量はあった。
二村はこの瀬戸内海に船団だけの独立国を作る構想を持っていた。
そのために老害の一条がジャマだったが、アレはアレでカリスマ。
バレたらヤバい。
しかし一条が死んだので、己の計画をハナから否定する幹部二人を亡き者にすれば、コト足りる。
―誰だか知らないが、ありがとうよ。
二村は未だ見ぬ伴賀に心から感謝した。
「これだろ?」
伴賀がデバイスグラスを外して遼斗に渡す。
するとクルーザーに配備されたモーターボートに若菜を引きずり乗る五島が見える。
「よし!急ごう!」
伴賀の言葉にタラップを降りる遼斗。
降り切った時に、モーターボートのエンジンがかかる音がした。
「一台、60万円するんだけどね」
と伴賀が云うと遼斗が今いる距離でもそのエンジンにキッドの一つが自爆してブツかるのが見える。
焦る五島。
ちゃんとコントロールされていたので、無傷の若菜。
五島は、若菜を伴いデッキへのタラップを上がる。
「急ごう!」
「西谷さん、スカイピッポーを大至急!」
伴賀の呼びかけに遼斗は西谷へのイヤパッドへの指示で返した。
「いや、伴賀さん!あのクズ教師はオレがヤる!」
「何言っている!武器持っているかもしれないし、人質取られている!」
この時に伴賀はこのキッドを動かせるコントローラーを遼斗に渡そうと思ったが、こんな小さいもので40台を動かせるということは機微な操作が必要なので、お荷物にしかならないと意識にかすめた。
「伴賀さん、お姉さんのカタキを討って下さい!」
そう、先ほど伴賀が見せてくれたデバイスグラスにはこの中で唯一戦地を離れる漁船を追う別ワイプがあったのを遼斗は見逃さなかった。
「伴賀さん!オレにかまっているより、オレと若菜がここで殺されても、あなたはあの眼帯の男を殺しに行くべきです!ぼ、ぼくが命令します!伴賀さん、カタキをとって下さい!」
―そうか、おれは誰かにそう言ってもらいたかったのか!
「判った!遼斗くん!ありがとう!遼斗くん!」
そうこうしている時にスカイピッポーが船にハーケンを打ち込んだ。
機では西谷が手を振る。
伴賀が上にするすると運ばれていく。
遼斗は一瞥をくれると直ぐにデッキへ向かった。
五島は自分を甘やかしてくれる存在が好きだった。
だから四つ下の弟が生まれた時に、両親の見てない裏で弟を執拗にイジめた。
口元でいかにおまえが生きている価値が無いかを囁き、料理に糞尿を混ぜた。
学校でも自分のイエスマンやヤらしてくれる女をはべらせ、けっこういい会社に就職し、良き伴侶も持ったが、子どもが生まれ、妻の目的はその子どもになった。
だから又虐待を始めたが、それが妻にバレた、離婚協議の折に両親に弟や学友へのイジメも発覚した時に、彼は蒸発を選んだ。
流れ流れて所属したこの日左連は彼のそういう歪んだ欲望と処世術にとても合致していた。
「おまえさぁ、なんでオレの言うことを聞かないんだよ!聞かないとかおかしいんだよ!」
くだりと違い、上に上がるのは意思が必要、若菜は俄然反抗の態度を取った。
いくら柔術を習っていたからといって若菜と五島の体格さは確実にあった。
だから首を絞められ、腹を蹴られた若菜はこの接近戦では宝の持ち腐れだ。
それでも若菜の右手が逆襲の素振りを見せた時に、五島は彼女の腹を蹴り跳ばした。
するとここで若菜はデッキの床に身体をすった。
直ぐに五島が若菜に駆け寄る。
「やめろ!」
遼斗の声に五島が睨み、ダメージを負った若菜は辛うじて目を向ける。
「首、折るよ。だから、海に飛び込んでよ」
五島が若菜の首に回した右手に力を込めた時に、ドローン、伴賀がAIに遼斗をサポートせよと命じた例のキッドが10台も五島に降り注ぐ。
その刹那、五島に駆け出し、若菜を突き飛ばし、その反動で五島を殴る。
お互い素手、だが手足が遼斗を攻撃する度に五島はキッドにジャマされる。
マウントポジションをいともた易く取られた五島は、遼斗に延々と殴られる。
拳が痛くなった遼斗は今度は凄い勢いで蹴り始める。
顔面を、だ。
まぶたが左右両方ともお岩さんのように振れが上がる五島の顔面。
「ぎゃああああああああああああああああー!!!!!!」
この悲鳴は五島のものだが、その発音の理由は科学室でポケットに入れたペンチで若菜が五島の右親指の爪を引きはがしたことによる。
「ぎゃああああああああああああああああー!!!!!!」
これはすかさず左親指の爪を剥がしたから出た声だ。
ペンチを後方に放った若菜は次に五島の腹を踏み出した。
「頼むから死んで!アンタが私の人生にいたことがガマンならないんだよ!お願い!死んでよ!」
そう云いながら若菜は何度も蹴り、それは爪が剥がれた両手にも及んだ。
両手指々がイヤぁな曲がり方をしているので、複雑な骨折をしていることが判る。
「若菜ぁ!おまえがヤる必要なんてねぇー!この男はオレがヤる!くみ子の分含めて、オレがヤる!殺したことで生まれるカルマはオレがかぶる!この土地から去るオレが背負う!」
ほぼ突き飛ばすカタチで若菜を弾いた遼斗が更に蹴り、飛び去ったペンチを拾って頭に叩きつける。
五島が何か話しかけているが二人には聴こえない。
「改心します。反省します。殺さないでください」
遼斗が執拗に攻撃を加える中、彼に体当たりした者がいた。
「太郎さん!」
「もう、やめよう。な」
「伴賀さんに言われたんですか」
「いや、おれの判断。ともかく船に戻ろう。そっちのコも、歩けるかい?」
返事をせず、若菜は立ち上がり、太郎と遼斗の後を着いていく。
三人が去った後に五島はまたつぶやく。
「助かった」
おそらく数分だが、その時間が五島には数時間に感じられた。
四肢が動かせないどころか呼吸すら満足にできない。
だからなのか、逆に五感は鋭敏だった。
誰かがデッキに上がって来る足音。
複数人だ。
仲間か?敵か?
そんなことを思っている五島の前には宇江貴美子を始めとする己がたらし込んだ女子学生、六人。
「みんな!先生だ!不良に襲われて、酷い目に遭った!助けてくれ!」
それはスピー、スピーという呼吸音でしか聞こえない。
遠巻きに逃げ去ろうとしているのが潰れた目の細いスジからでも判る。
だから、最後に力をふり絞って上体を起こした。
「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
その上体に宇江貴美子が走り寄り、ドロップキックを浴びせる。
この攻撃が合図となり、五島は自分が篭絡した女たち六人から延々足蹴にされるのだ。




