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瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
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16/18

第1話 過激派の殺し方教えます Act.2 マリンドラゴン出撃 6



      6



六畳の部屋に似た境遇の女たちが寝るだけに戻って来るタコ部屋。

警察の手入れ、そこで唯一、日本人で、未成年の姉さんは直ぐに保護された。

なんの反応もなく、死んだような目でも、実家に戻されると聴いて、その目に一瞬に炎が宿り、奇声を上げ、暴れたそうだ。

どんな目に遭っても、実家、いや、家族に自分がこんな惨状にあることを知られたくなかった。

だから、実家の島でなく、東京に逃げたんだ。

うん、プライド高いひとだったからねー。

オレさぁ、これでもアタマ良くてね、島いちばんの神童と言われていたから、進学は京大か東大どっちかで悩んだ。

でも、東大に行くことにした。

姉さんの話はひとまず置く。

そして東京に来て、話には聴いていた、この近辺の島から姉さんと同じようにその歌村に連れ去られた女二人は姉さんと結託して東京へ出奔したからには未だいると思った。

だから、授業の合間に探した。

一人は見つけた。

開き直ってAV女優になっていて、その瀬戸内海の売春組織の話を「ブブカ」に面白おかしくしていたから、見つけることに成功した。

「少年、姉さんは最後の最後まで反抗した。だから、毎回酷い目に遇っていた。私と違ってね。その歌村ってのが私たちを騙して・売春させていたヤツ!初物をいただくと上納する前に女子中学生とセックスしたから、片目をえぐられた、普段はサングラスをしている、と聴く。伝聞なのは最初に私ら三人をヤった後、それ以降会ってないからさ。スカウトみたいなもんで、実際に女の子のシフトを回すのは脳たりんの三下の仕事で、この世の果てみたいなところ。そこで逃げようとしたけど、あっさり逃げられた。あんな過去忘れたいから、三人別々になって。でも、あの子が立ちんぼで捕まるとかね。もう一人?クスリで脳をヤられて、狂死」

上京する前、汐路に頼んで姉さんに会わせてもらった。

姉さんの部屋、2人で広島の映画館で観た『千と千尋の神隠し』のDVDを観た。

最後に一度だけ、会話した「また来ていい?」と「ぅん」とだけ。

春、ゴールデンウイークに帰ってきた。

またDVDで何本か映画を観ただけだった。

姉さんの両親も外部のひとに会わせるのは心身に良いと判断し、歓迎してくれるようになった。

夏の帰省では表には出られないから、屋上から花火を見て、庭で肉を焼いた。

冬に帰った時は最初の「モンスターハンター」を持って行った!

これが姉さんに大うけ!

夜通しプレイして、眠って、起きて、又プレイ!

姉さんの表情が戻ってきた。

四十路じゃなくて、三十路くらいには見えるようになった。

春休みに帰省に会った時は、長袖シャツを着ていたが、すっかり年相応の娘に戻っていた。

ほとんど口数はなかったが、よく笑うようになった。

でもさ、ずっとモンハンだけをやっていただけ!それだけでも、同じゲームをするだけでも通じるものはあったんだ、確実に。

東京で聴いた歌村の消息を追っていたけど、中断した。

姉さんのカタキは討ちたかったが、あんな笑顔を見せられたら、過去に拘泥するよりも、未来を志向した方がいい!と気づいた。

その頃にはさ、大学でできた仲間とベンチャー企業、立ち上げて、軌道に乗り出した。

実はオレんち実家がかなり太いから、資本金の準備は出来たし、あの時代は未だ珍しい方で、フジ買収とかはそのちょっと後。

あの頃、ようやく社会通念のない会社をブラック企業と呼ぶようになり、会社の売り上げや上昇率でなく、モラルや離職率で査定するような会社を作った。

一緒にランチ食べてくれるフレンドリーな人や逆に孤立してお弁当食べていても気にしない人たち、社内の居心地って、実は、給料の額や出世のし易さより、特に今のコは気にするから、それらを先駆けて、いい風に乗れた。

今ではどの転職サイトもやっている内部告発のような匿名事情もうちが初めてやり始めた。

老舗に新興がケンカ売っているけど、優良企業からは喜ばれるワケだから、更にブラック企業が浮き彫りにされる、というやらしいサイト作ったり、楽しかったよ。

「オレの会社さ、今経理が足りなくてさ、だから、うちの会社で働くために東京、出てこない?」

2回生の時、ゴールデンウイークを利用した帰省で姉さんにそう云った、モンハンしながら。

「うん、いいかも。また一緒に映画館行こうよ」

オレはディスプレイを見つめていた。

プレイ中だったから。

でも姉さんの使っているストライカーの動きが止まった。

姉さんはゲームでなく、オレの横顔を見てくれていた。

オレも、だから、姉さんを見た。


「スゴいです。そんな境遇だった女性をそこまで立ち直らせるなんて!」と遼斗。

「いやー、全然、スゴくない。むしろ裏目だったよ」と伴賀。


大学二回生の夏、帰省の折にはモンハンの新作ソフトと舟和の芋羊羹を手土産に汐路家に向かった。

汐路家の門の周囲には警察関係者と近隣住民で、田舎では珍しくごった返していた。

救急車がサイレンを上げて走行し始めたが、それはお義理で、当に運ばれている姉さんは死んでいたということだ。

「あんたが!あんたが!あんたのせいだ!あんたがいなければ、もっと生きられたのに!」

姉さんのお母さんがオレの襟首を持ちながら叫ぶ。

それをお父さんと汐路が放そうとする。

「いや、おまえのせいなんかなじゃねーよ。ただ姉さんが首吊ったのは、自分が汚い商売に身を堕とした二年間を忘れるために頭パッカーンになっていたのに、それが回復すれば、その二年間を否が応でも思い出す、そのトリガーはオレかもしれないし、おまえかもしれない、おふくろかもしれないし、ゲームやネットかもしれない。でもさ、おふくろはロクにトイレもできない姉さんをこの家に戻ってきてから、かいがいしく世話した、風呂も入れた。だから、女親としては見たくもない痕跡を姉さんのカラダからいっぱい見たんだ。だから、あの暴言、許してやってくれ」

通夜の合間にそう云って汐路をオレを慰めた。

「失敗した!失敗した!失敗した!失敗した!」

オレは傲慢だった、驕傲だった。

どうすればよかったか?

そもそも関りを持ってはいけなかったのか。

いや、あんなのでは姉さんは生きているとはいえない。

じゃあ、ああいう死に方を選ぶと知っていたら、オレはどうしていたのか?

そうだ、それが傲慢で、驕傲なのだ。

判るハズはない。

それを前提にして、オレはオレ自らに問う。

これからどうすればいいのか?

復讐。

復讐か?

いや、復讐したいんだ。

しかし復讐は何も生まないとひとは言う。

でも、姉さんの尊厳を守ることとと安らかな眠りのために復讐以外はあり得ない。

社会的に抹殺だの破滅させて復讐するとかではない。

復讐した、きっぱりと復讐した、という事実があればいいんだ。

調査という意味ではオレの持つ会社の活動も似たようなもの。

大企業にできるだけ食い込み、歌村という塾講師が個人であんな犯罪を起こすとは思えないし、ブブカのAV女優の証言からも瀬戸内海をシマにした未成年売春組織があることは確かのようだ。

それがどうも左翼系の組織だと大学卒業の頃には判明した。

そしてそいつらに対抗するためには強力な力が必要だとも判った。

それは軍隊や戦争兵器に匹敵するものでないと相手を殲滅できない。

そう、目的は殲滅しかない。

在学中、その〈協力な力〉のためのエネルギーというか、エンジンというか、そういう〈何か〉を手に入れることができた。

設計を目論む男と自然に友人となれた。

そのための資金に、運用する人材も手に入れた。

こうしてマリンドラゴン計画が発動された。

それはもう15年前のことだ。

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