第1話 過激派の殺し方教えます Act.2 マリンドラゴン出撃 4
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「私、いや、私たちはおまえたちに従わない!カラダ売ることなんてしない!」
内容的には啖呵を切っているように聴こえるが、若菜は五島の目を見られなかったし、二村のスプラッター兼邪悪な風貌と意思に屈して、威勢のいい発音ができていなかった。
だから、五島と二村はその臆した態度から圧倒しようと判断した。
「もうお客様はクルーザーにお待ちかねだ。団体さまだよ。その状況では逃げられないし、周囲の小型船には我らの同志が約百人が手ぐすね引いて待っている。客から逃げれば、同士のウサ晴らしの慰み者になってもらうのみ」
二村、サングラスをかけ直しながら。
「な、なんだって、そんなことを」若菜より更に声に張りが無いくみ子。
「それはね、その客たちがブルジョアだから、ブルジョアに憎しみを植え付けるためだ。そんな上級国民と無理矢理セックスすれば、きみたちは骨の隋まで戦闘的プロレタリアートになれるだろう!そうそう、お客様たちは処女好きだが、同時に善人でいたいから、処女に中出しとかスリリングだが同時に罪悪感を抱いてしまう。だから、おまえみたいな女子高生妊婦なんて、性欲処理の便所として最適なんだよ!そのボテ腹が好きなマニアも多いしな!」
五島がそう云うと隣で雛が爆笑を始めて、くみ子に侮蔑の視線を投げる。
「この瀬戸内海、海賊の伝統があった!その家業の一環として、船に娼婦を乗せ、上は武士に僧侶、網本に地主、下は農民や漁師、そんな男たちにあてがう商売が存在していたんだよ!私たちの組織をその汚い家業を引き継いだまで」
これは四谷雛が一条翁の取り巻き幹部から説得されるように聴いた俗説。
「そ、そんな」とその後が若菜は続かない。
自分でも何が言いたいか判っていないからだ。
だがそれは自分らの身体や魂を傷つけるだけでなく、遠い先祖からの〈血〉と自分らの血族を育んできた〈地〉すら犯す思想にズタズタにされたからに他ならない。
「普段のシノギは鮑や牡蠣の密漁、東南アジアからのクスリの密売なんだが、そろそろオルグった下っぱの離職率の高くなっているし、女の股で稼がせてもらい、下っぱにもおこぼれ授けようという寸法よ!」
五島の発言に若菜は「先生、教師じゃなかったのかよ!」と叫んだ、ようやく叫ぶことができた。
「うん、先生な、日本左翼連合の大幹部になったんだよ。明治初期、いや、大塩平八郎から始まるから、そうとう長い歴史を持つ。共産党や新左翼と色々な組織があるが、実はこの日左連が王道として、かれこれ200年以上、日本史の背後にそびえている。地方の中高に教師として赴任して、かわいいおひねりちゃんたちをゲットする、それが大幹部への近道、ここにいる二村さんもそうで、もう一条の爺さんがぼけているから、実質的な指導者さ」
「五島、ずっとナイショにしてきたから、鬱憤たまっていたのは判るが、もういいだろう。そのおひねりちゃんからだ。妊婦はどうせ走れないし、後回し」
二村もそうだった、五島と同じく、教師としてこの瀬戸内海の高校に赴任して、不満を持つ女子高生に売春させ、日左連の活動資金を上層部に上納して生きてきた。
四谷雛の右手には注射!
そう、若菜もくみ子も今度目を覚ました時は、醜いオジさんにのしかかられているのだ。
そう思った瞬間、二人はすくんだ、涙も出なかった。
2人とも若い女性としてはかなりアクティブな性格だったのに、圧倒的な暴力の前に、よく知る学校の暗闇の教室の中、既に希望と生還する望みをこの時に絶った。
―若菜のおかげで助かった。ありがとう。
若菜が幼稚園の時に、お腹には後の妹がいた。
バランスを崩して、前のめりで倒れる母は前を歩いていた未だ5歳の若菜の両肩を掴んで、更に強く押した!
母は尻もちをついた。
―後ろで脂肪の多いお尻だから、お腹守れた、若菜のおかげ。
状況的に、若菜とくみ子が下手、二村と五島が上手、雛はその背後。
若菜が大き目のペンチを手に入れたの護身用だったが、その道具の使い道、理解した。
「くみ子、好きだった。だから、私は遼斗にも、あなたにもフラれちゃった!」
「た!」と云い切った瞬間、開いた唯一の科学室のドアの外へくみ子を突き飛ばした。
くみ子は尻もちをついた。
卑劣な左翼三人組だが、妊婦を突き飛ばすという唐突さが彼らと彼女の虚を突いた。
だから、若菜にその隙を与えた。
持っていたペンチで若菜は唯一のドアのノブを殴る。
これでドアを開けるには大の大人でも数分はかかる。
「若菜ちゃん、若菜!」立ち上がったくみ子!
「くみ子、外に出てからスマホに警察と遼斗に電話!早く!」
五島に口を押えられ語尾は途切れ、そのまま羽交い締めにされ、雛に注射器を左手に打たれる。
二村はドアを蹴り始めている。
壊すつもりだ。
くみ子は小走りに階段をくだった。
今起きていることにパニックして、走りながらスマホで連絡なんてできなかった。
だがそのスマホの方からくみ子を呼んだ。
よく知る名前がディスプレイに表示される。
緑を弾く。
「遼斗!高校!直ぐ来て!若菜が!」
「あ~あ、麗しい友情だねー、先生とセックスしてがっていた淫乱娘の分際で!」
五島のその言葉に若菜は右手のペンチを振るう。
だが睡眠薬が聴き始めていたからか、そもそも非力だったからか、ペンチは宙を切った。
「あんたたち、つまり左翼、平等や自由を謳い、差別や貧困を許さない立場なんだろう?じゃあ、なんで、未成年や妊婦に売春なんかさせるんだ」
「うん、いい質問だね」と五島の代わりに上役の二村が答える。「それはきみらが愚民だからだよ。生きている価値が無いからだ。崇高な目的を理解しないし、大義も理念もなく、日々SNSやバカ番組を観て暮らしているだけの愚民だからだ。きみらをブルジョア資本家に売る。すると憎しみから、きみらの中から、この雛みたいに戦闘的プロレタリアートに目覚める者が出てくる、何割かはね。そうでなくても、ブルジョアが未成年を買ったリストは残る。するとブルジョアの首根っこを押さえられる、つまり、ブルジョアと愚民だけが共倒れして、俺たちインテリゲンチャと戦闘的プロレタリアートが残る王道楽土が完成するんだ、理解したか!?乳首でイケるねーちゃん!」
朦朧としてくる若菜。
「ネットで見たことない?プチエンジェル事件って?アレは日左連のこの売春包囲網作戦の方法論を使って沖縄の左翼のガキが始めたんだけど、コレの特色って、瀬戸内海で船の上で移動するから、アジトが絶えず変わる強みを都会でやったから、破綻したんだよ。左翼が絡むとね、警察もマスコミも面倒臭いヤツらと敬遠するんだよねー。だから、ほそぼそとこういう地方でやるからいいんだ」
五島は若菜のかわいい寝顔にそう云った。
流石に目立つランドピッポーでなく、拾ったタクシーで遼斗、伴賀、西谷は高校にやって来た。
そのタクシーが来る1分前に校舎の裏手から、自分が乗ったことがある四谷雛のカローラが出ていくのを身を隠した校門からギリギリ確認ができた。
―若菜!
だからくみ子はタクシーから降りた瞬間の遼斗に抱きつき、こう絶叫した。
「若菜を助けて!若菜を助けてあげて!お願い!あの子に何かあったら、私は私を一生許せないで生きていくしかなくなる!」




