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『赤毛猫海賊団 カタリナの野望』 ~カタリナ様はワガママ貫き通すってよ~  作者: ひろの
第2章 カタリナ、ついでに内乱鎮めとく  ~ 内乱鎮圧編 ~

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第73話 標的を入れ替えちゃうぞっ!

三個艦隊。


表向きは海賊討伐でも、実際には公爵家が何か動きを見せた場合に即応できる戦力を持たせたということだ。


帝国軍も、リルが発見した内乱計画を完全には信用していない。

だが無視するには、内容が危険すぎる。


だから海賊討伐という名目で、大兵力を近くへ送り込む。

少なくとも、そういうことだろう。


『サクラモカ!』


レティが呼びかけた。


「はいよ」


『お前の知っている情報を全部寄越せ。

 こっちも出せる範囲で情報を共有してやる』


レティはホログラム上に星系図を表示した。


『お前達がシルバーランスを押さえている間に、私たちが公爵へ圧力をかける。

 もちろん、こちらから先に攻撃することはできない。

 だが三個艦隊を目の前に出してやれば、反乱を企んでいる連中なら何かしら動くはずだ』


モカは黙って星系図を見る。


レティはそこへ帝国軍の予定進路を書き込んだ。


『その上で公爵側を挑発する。

 あっちが乗ってきて、先に手を出してくれれば――』


レティはニヤッと笑った。


『そこまでだ。

 あいつらの野望も終わりだ!』


「なるほどね」


モカは腕を組んだ。


そしてすぐに頷く。


「了解!

 じゃあ先に、そっちの情報をちょうだい」


『おう』


「帝国軍が把握してる公爵艦隊の現在位置、軍港、補給拠点、それから移動可能な航路。

 こっちの情報と照合したい」


『分かった。機密指定に引っかからない範囲で送る』


「あれ?

 ペドローニャン星系に入ってからのあんたたちの航路情報は?」


『それは極秘情報だ。まだお前たち海賊を全面的に信用したわけじゃない』


「あっ、そ。まぁ、いいわ。

 ちなみにこれがシルバーランス海賊団の戦力値だよ」


モニタの向こう側でレティの眉間に皺が寄った。


『おい、こいつら、公爵家の私設艦隊に負けないほどの戦力値じゃないか。

 お前らのポンコツ海賊団で勝てるのか?』


カタリナが文句を言って、頬を膨らませる。


「ポンコツ言うな!」


サクラモカはカタリナの膨らんだ頬を両手で叩き潰した。


パンっ!


「いったーい!モカ、ひどぉい!」


「話の邪魔だから少し黙ってて」


『何やってんだよ。

 シルバーランス……私達の対賊艦隊三個でも、ぎりぎり倒せるくらいじゃないか。

 お前たちがポンコツだってことを抜きにしても、厳しそうだぞ?』


「分かってる。死ぬ気でかからないとね」


あっさりとモカが伝えると、レティが心配そうな顔をした。


「ねぇ、レティ。

 ペドロ―ニャン星系に入ってからの、あんたたちの航路を教えてよ。

 ピンチになったら、そっちに逃げ込むからさ!」


『ご、極秘って言っただろ?』


「レティちゃんって薄情だなぁ。

 おねーちゃん、私たちがシルバーランスにやられて死んだら、一生恨もうね!」


「あぁ、一生恨む!」


不貞腐れた顔で姉妹に睨まれて、レティがため息を吐いた。


『死んだら一生も糞もないだろうが……分かったよ。

 不毛惑星ペドロ―ニャンⅥの内回りY22-111の航路だよ。

 なんかあったらこっちに逃げてこい。

 私たちが保護してやるよ。牢屋の中だけどな!』


「ありがとね、頼りになるわ!」


「さすが親友!」


『親友じゃねーって!』


「それだけ分かれば、十分だよ。

 リルちゃんにも手伝ってもらって情報を整理する。

 こっちが持ってる情報も合わせて、かなり詳細にまとめた上で、一時間後には送るよ」


『一時間か。早いな』


モカは胸を張った。


「リルちゃんがいるからね」


作戦室の隅にいたリルが、元気よく両手を挙げた。


「任せてー!」


レティは疑わしそうにモカを見た。


『……一応、信用するぞ?』


「うん」


モカはあっさり頷いた。


「私はおねーちゃんとは違って、そこまでふざけてないから大丈夫だよ」


「おい」


カタリナがシフォンを食べる手を止めた。


レティも微妙な顔でモカを見つめる。


『…………だといいけど』


「なんでそこで間があるの!?」


今度はモカが怒りつつ、シフォンケーキを口に放り込んだ。


『だから、お前までシフォンケーキ食べながら、作戦会議すんなっ!』


・ ・ ・


その後は細かいことを話し合い、通信を終えた。

レティのホログラムが消える。


モカは先ほど聞き出した帝国軍の進入航路を、じっと眺めていた。


「…………」


カタリナがシフォンケーキを頬張りながら、その顔を横から覗き込んだ。


「モカ、悪い顔してるぞ」


「おねーちゃんに言われたくない」


モカは星系図を拡大すると、先ほどレティから聞き出した航路を指差した。


「でも、これで全部揃った」


「何が?」


「レティちゃんたちを――シルバーランスにぶつけるための情報だよ」


「おぉ?」


「まず、こっちの位置情報をわざと公爵側に掴ませる。

 その上で考えてみて。

 公爵はジソリアン艦隊が女帝陛下を襲撃するまで、帝国軍を足止めしたい。

 この状況なら、どう動くと思う?」


カタリナは少し考える素振りを見せた。


そして、あっさり諦めた。


「わかんない。

 それ考えるの、モカの仕事だから」


「考える気がないな」


「適材適所だよ」


「まぁいいや」


モカは呆れながらも、星系図にいくつかの駒を配置した。


「まず、公爵とシルバーランスはグルだから、当然協力して動くはず。

 でも公爵としては、シルバーランスを帝国軍の対賊艦隊と正面から戦わせたくない」


「なんで?」


「シルバーランスは海賊だから。

 帝国軍が攻撃するのに何の遠慮もいらないでしょ?」


「あぁ、そっか」


「だから、帝国軍の相手は公爵私設艦隊がする」


モカは《ニャダートゥル艦隊》の駒を、帝国軍の予定航路上へ動かした。


「公爵私設艦隊なら、一応は帝国貴族の正規の私兵だからね。

 レティちゃんたちだって、向こうから手を出してこない限り簡単には攻撃できない。

 進路を塞ぐなり、臨検を要求するなり、適当な理由をつけて邪魔をすればいい」


ロウが腕を組みながら頷いた。


「なるほどな。

 公爵側から攻撃さえしなければ、帝国軍は強引に排除できない。

 その間にジソリアン艦隊に女帝陛下を襲わせるわけか」


「そういうこと」


モカは今度は、シルバーランスの駒を摘まんだ。


「でも、もう一つ問題がある。

 私たち赤毛猫海賊団」


カタリナが自分を指差した。


「私ら?」


「そう。

 帝国軍を足止めできても、私たちが自由に動いてたら意味がない。

 私たちがジソリアン艦隊を襲ったら、女帝を襲撃するどころじゃなくなるからね」


「あー、確かに」


「だから――」


モカはシルバーランスの駒を、赤毛猫海賊団の駒へぶつけた。


「シルバーランスを、私たち赤毛猫にぶつけてくるはずなのよ」


カタリナは腕を組んだ。


「なるほど。それで?」


「ってか、そこまで話したら察してよ!」


モカが思わず机を叩いた。


「本当に考える気ないな!」


「だってモカが全部説明してくれるし」


「もう!」


モカは気を取り直し、星系図に表示された二つの座標を入れ替えた。


「私たち赤毛猫と、レティちゃんたち帝国軍の位置情報を――逆にして公爵へリークするの。


 つまり、シルバーランスには、レティちゃんたちの位置を『赤毛猫の位置』として流す。

 公爵には、私たちの位置を『帝国軍の位置』として掴ませる」


「…………」


今度はロウが星系図を凝視した。


やがて、その意図を理解したのか、真剣な表情で口を開く。


「なるほど……。

 公爵側は、赤毛猫がいると思った場所へシルバーランスを向かわせる。

 だが、実際にそこにいるのはレティ准将率いる帝国軍三個艦隊」


「そう!」


モカが嬉しそうに指を鳴らした。


「さすがロウ。あんたは分かってるね」


「で、帝国軍がいると思って、公爵私設艦隊を向かわせた先には……」


「私たちがいる」


ロウも完全に理解した。


「そうなると、レティ准将の艦隊にはシルバーランスがぶつかって、お前たちには公爵私設艦隊がぶつかるわけか」


「そそ!」


モカは星系図上で、それぞれの艦隊をぶつけてみせた。


「レティちゃんは三個艦隊も揃ってる。

 さっき戦力値を見た限り、シルバーランスとガチで殴り合っても負けないはず。

 だから、そっちは心配いらない」


そして、ニャダートゥル艦隊の駒を指で弾く。


「逆に私たちのところへ来るのは、散々罠を仕掛けておいた公爵私設艦隊」


「全部奪える!」


カタリナが突然、嬉しそうに割り込んだ。


ようやく話の全容を理解したらしい。


「そういうこと」


モカは頷いた。


「これなら、どっちも勝てる戦いになる。

 そして――ロウ」


「ん?」


モカは最後に残ったジソリアン艦隊の駒を指差した。


「あんたたち黒犬海賊団が、ジソリアンから女帝陛下を守る」


ロウの表情が引き締まった。


「あぁ、分かった。

 俺たちだって、ジソリアンの襲撃艦隊なんかに負けるわけにはいかない」


星系図の上で、三つの戦場が出来上がった。


帝国軍対シルバーランス。


赤毛猫対ニャダートゥル艦隊。


そして黒犬対ジソリアン襲撃艦隊。


カタリナはそれを眺めながらニヤッと笑い、残っていたシフォンケーキを大きくちぎって口へ放り込んだ。


「なる……もぐもぐ……ほど」


「食べるか喋るか、どっちかにしてよ」


「これで三箇所全部で……もぐもぐ……勝ち目が見えたわけね?」


モカはそんな姉を呆れた目で見ながらも、しっかりと頷いた。


「そういうこと。

 あとは――公爵とレティちゃん、両方にこっちの筋書きを信じ込ませればいい」


カタリナはシフォンを飲み込んだ。


「よし。騙そう!」


「言い方!」

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