第74話 まだまだAIには負けてないぞっ!
「よし! じゃあ作戦開始!」
カタリナが元気よく拳を突き上げた。
しかし、モカはすぐに首を振った。
「簡単に言わないでよ。
偽情報を本物っぽく伝えるのって、かなり難しいのよ?」
「ん?」
カタリナが不思議そうな顔をした。
隣にいたミネとロウも、同じような表情でモカを見つめている。
「な、何よ……?」
三人は何も答えない。
「だから! 敵だって馬鹿じゃないんだから!
そう簡単に騙されてくれるわけないでしょ!」
すると三人は、黙ったまま作戦室の隅を指さした。
そこには、ニコニコ笑っているリルのホログラムが浮かんでいた。
「…………」
モカは三人の顔を順番に見た。
そして、リルを見る。
「あぁぁぁー!! あぁ! あー!
はいはい! そうだった! そうだった!
何でもありだよな、うちの海賊団!!」
カタリナが得意げに胸を張った。
「そういうこと!」
「おねーちゃんは何もしてないでしょ!」
「えー?」
モカは頭を抱えながら、リルに向き直った。
「リルちゃん、できる?」
リルはニコニコしたまま即答した。
「無理だよ?」
「「「えー!?」」」
カタリナ、ミネ、ロウの三人が同時に叫んだ。
モカも口を開けたまま固まった。
「…………」
リルはそんな四人を見回して、楽しそうに両手を広げた。
「嘘だよーん!」
「え?」
「空気読んでみたよ!」
「AIが空気読むな!!」
モカの怒鳴り声が作戦室に響き渡った。
リルはケラケラ笑っている。
「えへへー!
面白かったでしょっでしょっ?」
ロウが額を押さえた。
「……お前、だんだんカタリナに似てきてないか?」
ミネが真剣な顔で頷いた。
「私も最近、それを心配しているんです」
カタリナが抗議した。
「なんで私に似るのが悪いみたいになってんの!?」
リルは元気よく手を挙げた。
「カタリナの娘でーす!」
「やめぃ!!」
モカが手の甲でツッコミを入れたが、その手はリルの体をすり抜けた。
そしてようやく普通の顔に戻って問いかけた。
「で、実際どうするの?」
リルは星系図を表示した。
「簡単だよー!
公爵さんに嘘の情報を教えてあげるの!」
「だから、それが難しいって言ってるでしょ!」
「違うよー!
リルは教えないの!」
「は?」
「公爵さんが、自分で見つけるんだよ!」
モカは首を傾げた。
「……どういうこと?」
「公爵さんが使ってる情報網に、リルがちょっとだけ手を加えるの。
そうすると、公爵さんは自分で調べて、自分で確認して、自分で間違えるんだよ!」
ロウが呆れた。
「……お前、それは情報工作って言うんだぞ」
「そうだよー!」
「堂々と言うな!」
ミネが感心したように頷いた。
「なるほど。敵に偽情報を送りつけるのではなく、敵自身に収集させるわけですね」
「そうそう!」
カタリナが拳を握った。
「つまり、向こうが勝手に騙される!」
「おねーちゃん、それはちょっと違う!」
「えー?」
リルはニコニコ笑った。
「でもカタリナの言うことも、だいたい合ってるよー!」
「ほら!」
「だから威張るな!」
モカは星系図を見つめた。
「でも、情報を書き換えるだけじゃ駄目だよ。
公爵側だって、複数の情報源を照合するはずだから」
「もちろん!」
リルが指を鳴らすと、星系図の周囲にいくつものウィンドウが開いた。
「民間船舶の航行記録、宇宙港の入出港記録、補給船の運航情報、それから民間の航路監視システム!
公爵さんが使ってる情報源は、だいたい調べてあるよ!」
「いつの間に!?」
「みんながシフォンケーキ食べてる間!」
カタリナが大きく頷いた。
「やっぱりシフォンケーキは偉大だな!」
「違うわ!」
ミネが表示された情報を確認する。
「しかし、これだけの情報を改竄するとなると、かなり大掛かりになりますね」
「全部は書き換えないよー!
本物の情報は、そのまま残すの!」
「ほう?」
「嘘にするのは、赤毛猫艦隊と帝国軍の移動先だけ!
それ以外は本物だから、公爵さんが調べても、ほとんど全部正しい情報が出てくるんだよ!」
ロウが腕を組んだ。
「だが、艦隊の規模が違うだろ。
赤毛猫と帝国軍三個艦隊じゃ、艦艇数も違う。
初期地点も違う。
俺たちは星系内にいるし、帝国軍は外からやってくる。
移動先座標だけ入れ替えても、すぐに気づかれるぞ」
「だから、観測情報も合わせるの!」
リルは星系図に二つの艦隊を表示した。
「まず、公爵さんには本物の赤毛猫艦隊と帝国軍を確認してもらうんだよ。
最初の位置情報は、全部本物!」
「それで?」
「そのあと、両方の艦隊が移動するでしょ?
途中で観測が途切れる場所を通るようにして、その先の航路情報だけを入れ替えるの!」
星系図に表示された二つの航跡が、途中から交差した。
「帝国軍の進路を追っていたはずなのに、実際には赤毛猫艦隊を追いかけることになる。
赤毛猫艦隊を追っていたはずなのに、実際には帝国軍を追いかけることになるんだよ!」
モカが頷いた。
「なるほど。
最初の情報が本物なら、公爵側も信用しやすいわけね」
「そういうことー!」
「でも、公爵が偵察艦を出して直接確認したら?」
「その場合は、偵察艦の観測情報も調べるよ!
ただし、軍用の独立した観測装置までは、必ずしも書き換えられるわけじゃないからね。
だから、できるだけ直接観測されない航路を選ぶの!」
ロウが苦笑した。
「……お前、本当に何でもできるな」
「何でもじゃないよー!
できることだけ、いっぱいやってるの!」
「それを何でもできるって言うんだよ!」
モカはしばらく考えていたが、やがて別の問題に気づいた。
「待って。
公爵側はそれでいいとして、レティちゃんはどうするの?」
「レティちゃん?」
「そう。
レティちゃんには、公爵私設艦隊を捕捉するための情報を渡さないといけない。
でも実際には、シルバーランスのいる場所へ向かわせるわけでしょ?」
「うん!」
「帝国軍だって独自に偵察してるはずだよ。
私たちが渡した情報だけを信じるとは思えないんだけど」
リルは再びウィンドウを開いた。
「だから、レティちゃんに渡す情報も、ほとんど本物にするんだよ!」
「またそれ?」
「公爵艦隊の軍港、補給拠点、過去の航行記録、それから移動可能な航路!
全部、本物の情報を使うの!」
「でも、肝心の現在位置は?」
「そこだけ、ちょっと工夫するの!」
リルは星系図上に、公爵私設艦隊の予測進路を表示した。
「公爵さんが帝国軍を足止めするなら、どの航路を使うか。
実際の補給能力や移動時間も計算して、もっともらしい予測を作るんだよ!」
モカが眉を上げた。
「つまり、現在位置を断定するんじゃなくて、行動予測としてレティちゃんに渡すのね?」
「そうそう!
レティちゃんが自分で調べても、十分ありそうな予測にするの!」
ロウが感心したように頷いた。
「なるほどな。
レティ准将は公爵艦隊を捕捉するつもりで、その航路を進む。
だが、実際に待っているのはシルバーランスというわけか」
「そのとおりー!」
モカは腕を組んだ。
「……なるほど。
公爵には、自分で見つけた情報だと思わせる。
レティちゃんには、自分で判断した進路だと思わせる。
どっちも自分で考えて動いてるつもりなのに、実際には私たちの思い通りになるわけね」
「うん!」
カタリナが満足そうに頷いた。
「よし! 完璧じゃん!」
「おねーちゃん、ちゃんと理解した?」
「もちろん!」
「じゃあ説明してみて」
「リルちゃんが全部やってくれる!」
「それは説明じゃない!!」
ロウが大きなため息を吐いた。
「……俺たち、本当にこんな連中と組んでて大丈夫なのか?」
ミネが穏やかに答えた。
「ご安心ください、ロウ様。
少なくとも、これまでの作戦は大抵成功しております」
「大抵って言ったな!?」
「はい。毎回、何かしら問題は起きますので」
「そこを安心させろよ!」
モカだけは、渋い顔をして、まだしばらく星系図を眺めていた。
「どうした? サクラモカ?」
ロウが不思議がって声をかけた。
「うん、少しだけ安心した」
「何が?」
「リルちゃんの方法だと多分失敗する。
まだまだ、私たち人間はAIには負けてない」
リルが不服そうな顔をする。
「えー、リルちゃんの作戦は完璧だよー!!」
モカが微笑んで返した。
「リルちゃん、人にはね、心理ってものがあるの。
その裏をかかないと本当には出し抜けないよ。
ここからは私の出番っ!」
モカが星系図に両手を置いて、顔を上げた。
「リルちゃんの作戦は70点、それを90点にするわよ!」




