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『赤毛猫海賊団 カタリナの野望』 ~カタリナ様はワガママ貫き通すってよ~  作者: ひろの
第2章 カタリナ、ついでに内乱鎮めとく  ~ 内乱鎮圧編 ~

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第71話 レティに電話しちゃうぞ!

ミネは端末を操作し、レティの連絡先を呼び出した。

呼び出し音が鳴る。


一回、二回と鳴り、三回目を待たずに繋がった。


『こら、カタリナ!!』


繋がった瞬間、挨拶より先にレティの怒鳴り声が作戦室に響き渡った。


『普段はこっちからの通信を着拒しといて、自分が話したい時だけ解除してかけてくんな!

 ……あ、この番号はミネか!

 でも、どうせそこにカタリナがいるんでしょ!?』


カタリナは感心したように頷いた。


「出るの早いな。

 ちゃんとアドレス登録してくれてんだな。

 あいつバカだけど、こういうところは可愛いよな」


ミネが端末を持ったまま、カタリナへ顔を向けた。


「カタリナ様、これスピーカーにしてるんで、レティちゃんにも聞こえてますよ?」


「あ、まずいまずい」


カタリナは慌てて端末へ顔を近づける。


「レティ、聞こえるー?

 今日もご機嫌麗しゅー」


『バカって言ったことなかったことにすんな!

 お前の方が馬鹿だろうが!』


「はいはい、私の方がバカでいーよー」


『急に大人の対応すんな!

 私がガキみたいだろうが!』


横で聞いていたモカが、ぼそっと呟いた。


「ガキだよね」


『こら、サクラモカ!

 お前はもっと良いやつだと思ってたのに!』


モカは肩をすくめた。

カタリナはニヤニヤしながら端末へ話しかける。


「はいはい、レティ。

 お前、相当私たちのこと大好きだよな」


『だぁっい嫌いだよ、お前らなんか!!』


「ま、良いや」


『だから、そこで急に大人の対応すんな!!』


「で、本題だけど」


『人の話を聞けぇぇぇ!!』


レティの絶叫が作戦室に響き渡る。

カタリナはまったく気にすることなく、机の上のドーナツをもう一つ手に取った。


「お前んとこの神聖女帝、もうすぐこの辺に来るんだよね?」


電話の向こうで、レティの声がぴたりと止まった。

カタリナはドーナツを一口齧って、そのまま続けた。


「そうそう。さっきさ、お前の将官用秘匿回線に一個データ送っといた」


『……は?』


次の瞬間、レティの怒鳴り声が響いた。


『何でお前、私の秘匿回線知ってんだよ!!』


作戦室の隅で、リルが元気よく手を挙げる。


「リルが調べましたー!!」


『答えになってないよ!!』


「細かいこと気にすんなって。

 復号パスワードは○○○○○○○○○○だよ」


『一方的に話し続けんな!

 ちょっと待てよ……』


電話の向こうから端末を操作する音が聞こえてくる。


『……ウイルスもなし。

 よし!』


カタリナはニヤニヤしながら、モカたちを見回した。


「そう言いながらも素直に見てくれるお前のことを、私はだぁい好き!!」


『うるせー!』


レティは即座に怒鳴り返したものの、そのまま送られてきたデータを開いたらしい。


『えっと……』


数秒の沈黙。


それまで騒がしかったレティの声が止まった。


そして――


『おい!! 何だこれ!

 内乱計画!?』


「そそ!」


カタリナは明るく答えた。


「みんなで止めようぜ!」


『軽いな、おい!!』


レティの絶叫が再び作戦室に響き渡った。

だが、その直後だった。


『……待て』


声色が変わった。

先ほどまでカタリナと言い争っていた時とは違う。

帝国軍准将として艦隊を率いるレティの声だった。


『カタリナ。ふざけるのは一旦やめろ。

 この情報、どこで手に入れた?』


カタリナはドーナツをもぐもぐ食べながら答える。


「んー? ちょっと公爵様のお宝を強奪しようと思ってさ」


『お前は何してんだよ!!』


一瞬だけ、いつものレティに戻った。


「いや、海賊だし」


『開き直んな!』


「で、まぁ色々あって、公爵のところに忍び込んだんだよ。

 そしたらリルちゃんが見つけた」


『色々ってなんだよ』


「色々は色々だよ」


『……絶対なんか隠してるだろ、お前』


カタリナは視線を逸らした。


「気のせい気のせい」


その横でモカとミネも、何食わぬ顔で視線を逸らす。

レティはしばらく黙っていたが、今はそこを追及している場合ではないと判断したらしい。


『……まぁいい。

 リル。この資料そのものは改竄してないんだな?』


「してないよー!

 公爵側にあったデータをそのままコピーしただけ。

 通信記録とか航路データとか、ジソリアン側とのやり取りも一緒に入れてあるよー!」


『分かった』


レティは短く答えた。

それから数十秒、会話が途切れた。

端末の向こうで、資料を確認しているのだろう。

やがてレティが低い声で呟いた。


『……これ、本物だと考えた方がいいな』


作戦室から、それまでの軽い空気が消えた。


『ジソリアン艦隊を領内に引き入れる。

 行幸中の神聖女帝陛下を襲撃させる。

 その後、公爵家私設艦隊とシルバーランス海賊団がジソリアンを撃破。

 陛下の仇を討った英雄として公爵が帝国中央へ進出し、ルイス第八皇子を擁立……』


レティはそこまで読み上げると、小さく舌打ちした。


『ふざけやがって……』


モカが口を開いた。


「レティ。ここからは私と話そう」


『……サクラモカか』


「うん。おねーちゃんに任せると話が進まないから」


「おい」


カタリナが抗議したが、モカは無視した。


『分かった。話せ』


モカは端末を操作した。

作戦室中央のホログラムに、ペドローニャン星系周辺の星図が広がる。


「まず確認。

 公爵の計画を潰すだけなら、帝国軍がエルノ公爵を拘束すれば終わる?」


『そんな簡単じゃない』


レティは即答した。


『この資料だけで軍を動かせるかは上が判断する。

 公爵は帝国貴族だ。それも辺境の大領主だぞ。

 私が勝手に艦隊を率いて公爵領へ乗り込んで、「反乱を企ててましたね、逮捕します」なんてできるわけない』


「だよね」


『だが、これは絶対に上へ報告する。

 陛下の行幸に関わる以上、無視できる話じゃない。

 少なくとも警戒態勢は取らせる』


モカは頷いた。


「それでいいよ。

 私たちも帝国軍に全部やってもらおうとは思ってない」


『……何する気だ?』


モカは星図の一点を指した。

そこに一つの艦隊情報が表示される。

シルバーランス海賊団。


「こいつらは私たちが抑える」


『は?』


「エルノ公爵のところへ行くのは帝国軍。

 シルバーランスを抑えるのは私たち。

 役割分担しよう」


レティが少し黙った。


『……待て。

 シルバーランスはお前らだけでどうにかできる相手なのか?』


カタリナが横から口を挟む。


「余裕余裕」


モカが即座にカタリナの顔を手で押し退けた。


「おねーちゃん黙ってて」


「むぐっ」


モカは星図を拡大した。


「正面からぶつかったら面倒だよ。

 だから、ぶつかり方をこっちで決める」


『どういう意味だ?』


「リルちゃん」


「はいはーい!」


星図上に一本の航路が表示された。

モカはその線を指でなぞる。


「これが、私たちがシルバーランス側に掴ませる偽の情報。

 赤毛猫海賊団は、この航路を使って移動する」


レティがすぐに気づいた。


『……囮情報か』


「そう。

 私たちの所在と移動経路を、わざとシルバーランスに漏らす」


モカは別の航路を表示した。


「ルキウスなら食いつく。

 おねーちゃんとは軍港で直接やり合ってるからね。

 私たちを捕まえられると思えば、公爵艦隊から離れて追ってくる可能性は高い」


『それで公爵とシルバーランスを引き離すのか』


「うん」


モカの指が星図上を滑った。


「私たちはこっちへ逃げる。

 ルキウスには、こっちを追わせる。

 その間に公爵側の護衛戦力が減る」


レティはしばらく黙っていた。

完全に作戦を吟味している。


『……悪くない。

 少なくともシルバーランスと公爵家私設艦隊を同時に相手にするよりはいい』


モカは頷いた。


「だからレティたち帝国軍は、その隙に公爵を押さえて。

 私たちはシルバーランスを引き受ける」


『待て、サクラモカ』


レティの声は真剣だった。


『私はまだ、艦隊を動かせるとは言ってない。

 まして公爵を拘束する権限が下りる保証もない』


「分かってる」


モカも即答した。


「だから、これは今すぐ出撃しろって話じゃない。

 上に報告して。

 この資料も全部渡していい。

 それで帝国軍がどう動くか決めて」


『……ああ』


「ただし」


モカの表情が変わった。


「女帝が来るまでには決めて。

 公爵が本当に計画を実行するなら、時間切れになった瞬間に人が死ぬ」


電話の向こうでレティが黙った。


「帝国軍が動けるなら、一緒に止める。

 動けないなら――」


モカはそこで言葉を切った。

カタリナが横からニヤッと笑う。


「私たちだけでも止めるけどね」


『…………』


レティは何も言わなかった。

カタリナは椅子の背もたれに寄りかかる。


「だってさ。

 皇帝とか皇子とか、公爵とか、誰が偉くなるとかは正直どうでもいいけど」


カタリナは残っていたドーナツを口へ放り込んだ。


「関係ない奴がいっぱい死ぬのは、寝覚め悪いじゃん」


『……お前なぁ』


レティが小さく息を吐いた。

今度の声には、怒気がなかった。


『そういうことを、ドーナツ食いながら言うなよ』


「いいじゃん、別に」


『……分かった』


短い返事だった。

だが、そこから先のレティに、いつものふざけた調子はなかった。


『この資料は、今から私が帝国軍上層部へ直接提出する。

 陛下の行幸計画にも関わる以上、最優先で扱わせる』


モカが頷いた。


「お願い」


『それと、サクラモカ。

 さっきの航路計画、私にも送れ。

 シルバーランスを公爵から引き離せるなら、作戦を組む上で重要になる』


「分かった。今送る」


『カタリナ』


「ん?」


レティは一瞬黙った。


『……今回は礼を言っとく』


カタリナはニヤッと笑った。


「えー? 聞こえなーい。

 もう一回言って?」


『調子に乗んな!!

 二度と言わねーよ!!』


「はいはい」


『だから急に大人の対応すんな!!』


作戦室に、最後の怒鳴り声が響き渡った。

そして通信が切れた。

カタリナは端末を眺めながら、楽しそうに笑う。


「やっぱあいつ、私たちのこと大好きじゃん」


モカは呆れたように肩をすくめた。


「おねーちゃん、それ本人の前で言ったらまた怒られるよ」


「知ってる。だから言うんじゃん」


ミネが静かにため息をついた。


「カタリナ様もレティさん大好きですよね。

 とっても仲良しですね」


「「どこが?」」


カタリナと、既に切れた通信端末から聞こえるはずもないレティの声が、重なったような気がした。

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