第70話 内乱計画を知っちゃったぞっ!
ペドローニャン星系第5惑星――ニャルガレーモ。
赤毛猫海賊団のアジトに、カタリナたちは無事帰還した。
下水地獄と軍港脱出の疲労がようやく抜け、一晩ぐっすり眠った翌日。
アジトの作戦室には、カタリナ、モカ、ミネ、ロウ、そしてリルが集まっていた。
カタリナは椅子に座りながら、いつもの調子で伸びをした。
「さってと、これからどうするー?」
モカは端末を操作しながら、冷静に状況を整理し始めた。
「そうだなぁ、一回、整理しようか。
まず、公爵家私設艦隊の《ニャダートゥル》だけど、巡洋戦艦以下はナノ・ドライパルス作戦を実行済み。
これで、いざ戦闘になれば一気に冷却機能を奪って推進炉を止められるね」
カタリナはニヤッと笑った。
「その後、メッタメタ号の主砲と粒子ランスで脅せば、おそらく降伏するよね?」
モカは頷く。
「そうだね、多分。
で、兵士たちには身一つで脱出ポットに乗ってもらって、星系基地に飛んでもらえば――
無血で艦船が手に入る」
ミネが控えめに手を挙げた。
「確かカタリナ様が戦艦にも余計なことしてましたよね?」
ロウが即座に噛みつく。
「は?
カタリナの馬鹿は、戦艦にまでちょっかい出したの?」
カタリナは机を叩いた。
「馬鹿言うな!
戦艦を強奪できる手段を用意したんだぞ、天才と呼べ!」
モカは両手を上げて二人を制した。
「はいはーい。
おねーちゃんもロウも黙って。
それ話し始めると怒りが再燃するから!」
ミネも真剣に頷く。
「はい、同意です」
ロウはため息をつきながら言った。
「……よくわからんが、あの臭汚いのは、馬鹿のカタリナのせいだってのだけは分かった」
カタリナは椅子から飛び上がった。
「だから馬鹿言うな!
天才だっつーの!!」
モカはもう一度手を叩いた。
「もういい!
リルちゃん説明して?」
リルのホログラムが胸を張ると、体が一瞬モザイクになり、参謀長のような軍服姿に切り替わった。
「はいはーい、赤毛猫海賊団参謀長のリルちゃんに任せてー!
リルちゃんがね、戦艦五隻のうち、四隻まで中央AIを書き換えて、一番上の命令権をカタリナにしておいたよ!」
ロウは椅子から落ちそうになった。
「はぁ?!
待て待て待て。
簡単に言うが何してんだ、お前ら!!
そんなことできるんだったら帝国だってひっくり返せるだろうが!!」
モカはあっさり言った。
「ロウ、うるさい。
そうかもしれないけど、私たちそんなことに興味ないからどうでもいい」
ロウは机を叩いた。
「どうでもよくねーって!!」
モカは端末を見ながら続けた。
「ってことは、実質ニャダートゥル艦隊で対抗してくるのは、旗艦の弩級戦艦一隻と、戦艦一隻だけね?」
ロウは叫ぶ。
「無視すんな!!」
ミネは穏やかに微笑んだ。
「楽勝になりましたね」
ロウはさらに叫ぶ。
「無視すんな!!」
モカは肩をすくめた。
「どっちかと言うと、ルキウス艦隊の方が厄介だね」
ロウは椅子に沈み込んだ。
「もういいや……」
カタリナは椅子を揺らしながら言った。
「先に公爵艦隊を拿捕してから、やっつければいいんじゃない?」
モカは端末を操作しながら頷く。
「まぁ、それが妥当だね。
リルちゃん、戦艦の中央制御室で何か情報を得てない?
孤立するタイミングとか?」
リルはアンテナ代わりのあほ毛をぴょこんと立てて、思い出したように手を挙げた。
「あっそうそう!
1個、すんごいの見つけたの思い出したよー!」
カタリナが身を乗り出す。
「すんごいの?」
リルは胸を張った。
「うん、近々さー!
神聖女帝が辺境視察の行幸で、この辺りを訪れるよね」
ミネが頷く。
「あぁ、なんかニュースやってましたね」
リルは続けた。
「エルノ公爵が、内乱を目論んでるみたいだよー?」
カタリナは首を傾げた。
「へー、ナイラン?」
モカも同じく首を傾げる。
「ないらん?」
ロウが机を叩いた。
「内乱?
おいおいおい!軽く言うなよ!
女帝狙って反乱起こすってことか!?」
リルはそのまま続けた。
「うん、そうだよ。
敵対する隣国のジソリアン襲撃艦隊を導き入れて、女帝を襲わせる気みたい」
ロウは叫んだ。
「はぁぁ!?
マジもんの反乱じゃねーか!!」
リルはさらに続ける。
「神聖女帝を暗殺した後に、ニャダートゥルとルキウス艦隊でそのジソリアン艦隊を打ち倒す気みたい。
そうなると“女帝の仇を取った”ってことで、帝国内で発言力を得る。
そして自分と血縁のあるルイス第8皇子を即位させる気みたい!」
カタリナはぽかんとした顔で言った。
「へぇ?」
ロウは頭を抱えた。
「へぇ、じゃねーよ!!
大変だぞ。阻止しねーと!」
カタリナは素朴に聞き返す。
「なんで?」
ロウは机を叩いた。
「国が乱れるだろうが!!
善良な国民が大量に死ぬぞ!!」
カタリナは腕を組んで頷いた。
「そりゃダメだな。モカ、阻止しよう」
モカは即答した。
「うん、分かった。阻止しよう」
ロウは叫んだ。
「おい、軽いな!!」
カタリナがおやつのドーナツに手を伸ばして、一口食べながら言った。
「もぐもぐ、女帝が来る前に、もぐもぐ、ニャダートゥルを、もぐもぐ、拿捕しちゃえばいいんでしょ?」
モカは腕を組んで考え込んだ。
「そうなるね。
でもさー、反乱を考えてて、しかもニャダートゥルがその反乱の肝となるんだよね。
絶対警戒するよね。ルキウス艦隊が護衛についてるんじゃない?
もし、仮にニャダートゥルを無効化できても、近くでルキウスが守ってたら、拿捕失敗するかもしれないよ?」
カタリナは頬を膨らませた。
「あいつ、鬱陶しいなぁ。
あ、待って!いいこと思いついた。
あの子呼ぼうよ、レティ!」
モカは即座に理解した。
「あぁ、なるほど。
反乱となれば帝国軍も放っておけないよね。
証拠がないから派手に動けないかもしれないけど、レティくらいだったら私たちを“対策するために”派遣することもあるかも?」
カタリナはニヤッと笑った。
「で、私たちの居場所と偽って、ルキウスの所在をリークしちゃえば」
モカは端末を操作しながら頷く。
「レティとルキウスが鉢合わせして、ルキウスを足止めしてくれる……。
おねーちゃんにしては上出来な作戦だね」
カタリナは胸を張った。
「ふふ。天才ですから!」
モカが指をさす。
「ミネ、レティに電話して!」
ミネは端末を取り出し、すぐに操作を始めた。
「はい!」




