第68話 宇宙艇に向けてダッシュするぞっ!
軍港裏ルートの奥。
そこにぽっかりと口を開けた“廃棄物搬出口”は、まるで地獄の入口のように暗く、湿っていて、そして……汚く、臭かった。
モカが防護マスク越しに叫んだ。
「ここだよ!
この下水廃棄物ダクトを通って停泊地に行くの!!」
カタリナは下着姿のまま、ミネをおんぶしながら絶望した顔をした。
「えぇぇぇぇぇ……
ほんとにここ通るの……?
私、下着なんだけど……?」
ミネは気絶しているので返事はない。
肩の上のリルだけが元気に手を挙げた。
「リルちゃんは平気だよー!」
モカはびしょ濡れの髪を振りながら言った。
「文句言うな!
他に道がないんだから!!
ほら、行くよ!!」
三人と一機はダクトの中へ足を踏み入れた。
ズチャッ……
床はぬめり、壁は湿り、天井からは時々水滴とも汚水ともつかない液体が落ちてくる。
モカが叫んだ。
「マスク絶対外すなよ!!
臭いで死ぬから!!」
カタリナは震えた。
「やだぁぁぁぁぁぁ……
なんか足にぬるっとしたの当たった……
これ絶対汚物だよぉぉぉ……」
リルが無邪気に言う。
「汚物だよー!」
「言わないで!!」
その時――
カサ……カサ……カサカサカサッ!!
ダクトの奥で黒い影が走った。
ミネが気絶したまま本能でピクッと震えた。
カタリナは叫んだ。
「やだやだやだやだ!!
Gいるじゃん!!
なんでいるの!?
ここ軍港だよ!?
軍港ってもっと清潔じゃないの!?」
モカは冷静に言った。
「下水なんだからいるに決まってるでしょ!!
ほら、走るよ!!」
「走りたくない!!
Gの方に行きたくない!!」
「早く抜ける方がマシでしょ!」
「い、行きます……!!」
仕方なくカタリナ達は走り出した。
泡まみれの靴がぬめった床を滑り、モカは何度も転びかけ、カタリナはミネを背負ったまま悲鳴を上げ、リルは肩の上で揺れながら楽しそうにしていた。
「うわあああああああ!!
なんか飛んできた!!
これ絶対汚水だよ!!」
「カタリナ、前見て!!
段差ある!!」
「え!?どこ!?
あっ、落ちる落ちる落ちる!!」
ズシャァッ!!
カタリナとモカは段差を滑り落ち、ミネもろとも汚水の溜まった浅い溝に突っ込んだ。
立ち上がると、いかにも汚い水が全身を伝って流れ落ちた。
「うわああああああああ!!
最悪!!」
カタリナとモカが同時に叫んだ。
三人とも、もはや全身汚水だらけだった。
カタリナとモカは諦めた表情のまま、力なくダクト内を進んでいく。
カタリナの背中では、ミネが気絶したまま揺れている。
リルは元気に言った。
「リルちゃんは楽しいよー!」
「楽しくない!!
全然楽しくない!!」
しばらく歩くと、遠くに光が見えた。
モカが叫んだ。
「出口だよ!!もう少し!!」
カタリナは涙目で叫ぶ。
「早く出たい!!
もうやだ!!
下着で下水走る人生やだ!!」
ミネは気絶したまま揺れている。
リルは手を挙げた。
「出口だー!!」
三人と一機は最後の力を振り絞り、
汚水とGとぬめりと臭気の地獄を駆け抜けた。
・ ・ ・
廃棄物ダクトの出口から、三人と一機はようやく外へ飛び出した。
モカが入り口からそっと外を覗く。
「……追っ手、いない。
よし、今のうちに休憩!」
カタリナとモカはほぼ同時に防護マスクを外し、その場に投げ捨てた。
「ふぅーーーっ!!」
しかし次の瞬間、カタリナとモカの顔が同時にゆがむ。
「「んー!臭い。臭いが取れない!!」」
搬出口のそばには、作業員用の簡易水道がぽつんと設置されていた。
モカがホースを見つけて叫ぶ。
「助かった!!水ある!!」
ホースをつなぐと、三人はためらいなく全身に水を浴びた。
ジャバジャバジャバッ!!
汚水が流れ落ち、泡と汚物とGの残骸が地面に散っていく。
カタリナは髪をかき上げながら叫んだ。
「んーーー!!
臭いがまだ残ってる!!
なんで!?なんで!?!?」
モカも同じく叫ぶ。
「私も!!
なんか染みついてる!!」
その時、モカが気づいた。
「あ、ミネ」
ミネはまだ気絶したまま、床に置かれてぐったりしていた。
モカはミネの防護マスクを外すと、ホースの先をその顔に向けた。
「いくよー」
ジャバジャバジャバッ!!
ミネの顔に大量の水がかかる。
「ぶはっ!?
へ?あ?
いやだいやだいやだいやだ!!」
ミネが子供のように激しく駄々をこねた。
モカはミネの肩を押さえながら言った。
「もう大丈夫だよ。
通り抜けたから」
ミネはきょろきょろと周囲を見回し――顔が見る見る歪む。
「!?!?」
次の瞬間、ミネは勢いよく立ち上がり、自分の服をパパパッ!!と脱ぎ捨てた。
そしてその服を、廃棄物搬出口の中へ全力で投げ込んだ。
モカが固まる。
「え?ミネ?」
ミネは息を荒げながら叫んだ。
「ふぅーふぅー!!
服にGが隠れてついてるかもしれません!!
そんな服より下着の方がマシです!!
臭いですしっ!!」
モカも少し考えた。
「……確かに」
そして自分の服も「バサッ!」と脱ぎ捨て、搬出口へ投げ込んだ。
下着姿になったモカが叫ぶ。
「もう、どーでもいい!!
で、ミネ。ロウから連絡あった?」
ミネは水滴を払いつつ答えた。
「え?……あっ。
E327に止めてある宇宙艇だそうです」
カタリナが髪を絞りながら言う。
「近いんじゃない?
走り抜ければ、すぐ?」
肩の上のリルが元気に言った。
「でも三人も下着の女の子が走ると滅茶苦茶目立つねー!」
モカは叫ぶ。
「リルちゃーん!!
言うなよー!!
みんな分かってても考えないようにしてたのに!!」
カタリナは手を振った。
「さっさと行こう!
宇宙艇に行って、早くシャワー浴びたい!!」
モカ&ミネは即答した。
「同感!!」
カタリナが勢いよく指をさす。
「行くぞ!E369だ!!」
ミネが慌てて訂正した。
「E327ですっ!!」
搬出口から飛び出した三人と一機は、びしょ濡れの下着姿のまま停泊地へ向けて全力で駆け出した。
その姿は――
びしょ濡れ、落ちきらない汚れ、鼻をつんざく激臭、そして下着姿の美女三人。
肩の上には小型ロボット。
停泊地の作業員たちは、その異様な光景を見た瞬間、全員が固まった。
「……え?」
「……ええええええええええええ!?!?」
「なんで下着で走ってるの!?!?」
「軍港って今日どうなってんの!?」
作業員たちが工具を落とし、整備士たちが手を滑らせ、警備員までが目を丸くして叫んだ。
「と、とりあえず止めろ!?
いや、止めるべきなのか!?
なんだこの状況は!!」
三人は顔を真っ赤にしながら走り抜けた。
モカは叫ぶ。
「見ないでー!!
お願いだから見ないでー!!」
カタリナは涙目で叫ぶ。
「早くシャワー浴びたい!!
もうやだ!!
人生で一番恥ずかしい!!」
ミネは気絶から復活したばかりなのに叫んだ。
「いやだいやだいやだいやだ!!
なんで走ってるの私!!」
リルだけが元気に手を振っていた。
「こんにちはー!」
作業員たちはさらに混乱した。
「ロボットが挨拶してる!?!?」
「なんだこの一団!!」
三人が同時に叫んだ。
「「「見るなぁぁぁぁぁ!!」」」




