第67話 おねーちゃんと合流できたぞっ!
ロッカーが視界に入った瞬間、カタリナは走りながら中将の軍服を脱ぎ始めた。
「よし、点検員に戻るか〜!」
走りながら上着を脱ぎ、ズボンを片足ずつ器用に抜き、最後は軍帽をひょいと投げ捨てる。
ぽいぽいぽいぽい。
軍服一式が通路に散乱した。
そして――
下着姿のままロッカーに向けて駆け抜けた。
カタリナは迷いなくロッカーを開けると、中で気絶しているレッサー中将を引っ張り出した。
「はいはい、邪魔〜!」
レッサー中将は下着姿のまま床に転がされ、カタリナはロッカーの中をゴソゴソと漁り始めた。
「えーっと……ジャンプスーツ、ジャンプスーツ……
あれ?!ないっ!ないっ!ないっ!!
なんでないのよー!!」
その時、背後に気配を感じ、カタリナが慌てて振り返った。
そこには、池に落ちてびしょ濡れ、ボロボロになったモカとミネが腕を組んで仁王立ちしていた。
「おねーちゃん、いたっ!
何してるのよ、もう!!」
カタリナはロッカーから顔を出した。
「あ、モカ!
あんたたち暴れすぎ!
ちょうど助けに行こうとしてたんだ!」
モカの拳が飛んできた。
ゴッ!!
「いったーいっ!!
モカ、ひっどーい!いきなり何!?」
モカは怒りで顔を真っ赤にして叫ぶ。
「私たちがおねーちゃんを助けに来たのっ!
いったい何してたの!!!」
その時、カタリナの肩に乗っていた小型ロボット――リルが胸を張った。
「戦艦奪うために色々やってきたー!
褒めて褒めて!」
モカは一瞬固まった。
「は?!
余計なことすんな!!」
リルを殴りかけたが、寸前で拳を止める。
そして――再びカタリナへグーパンチ。
ゴベッ!!
「ぐぎゅ!?
いったーい!何すんの?」
モカは冷静に言った。
「なんかリルちゃん殴るのは可哀想に思った」
カタリナは涙目で叫ぶ。
「それひどくなーい!?
私はオッケーなの!?」
モカとミネが勢いよく首を縦に振った。
カタリナは頬をぷくっと膨らませて拗ねた。
しかしその顔は一瞬で元に戻り、いつもの調子でロッカーを漁りながら言った。
「そういえばさ、私のジャンプスーツ知らない?
この辺りに隠してたんだけど。
せっかく合流したんだし、着替えてさっさと逃げ出しましょ!」
モカはびしょ濡れの髪を振り払って叫んだ。
「あのなぁ!!
ここでジャンプスーツ着ちゃったら、この大騒動を起こしたのが《アストラル・フォージ重工》だって思われちゃうだろうが!
折角のドライヤー作戦が失敗になるんだよ!
ジャンプスーツは捨てた!」
カタリナは絶望した。
「えー?!
私の服ー!!
このまま逃げろって言うの?!」
モカは冷静に指差した。
「嫌なら、さっき脱いだ中将の軍服拾ってこい」
カタリナはロッカーから半身を出し、通路に散乱した軍服の方を見た。
その瞬間――
ドドドドドッ!!
大量の兵士が、まさにその“軍服が脱ぎ捨ててある辺り”へ走り寄ってきた。
その後方には、腕を組んでこちらを睨むルキウスの姿があった。
鋭い目でこちらを見据え、低く命じた。
「いたぞ、泥棒猫はあそこだ。
殺しても構わん。捕らえろ!」
カタリナの顔が青ざめた。
「えっ……服……」
モカはカタリナの腕を掴んだ。
「行くよ、おねーちゃん!
下着姿でいーじゃん、別に!」
「えー?!
やだよ!!」
ミネが冷静に状況を見て言った。
「もう服を取りに戻れそうにありませんよ」
カタリナは頭を抱えた。
「あーん、もうっ!
行くよ、二人とも!」
肩の上のリルが元気よく手を挙げた。
「リルちゃんもいるよー!」
カタリナは叫んだ。
「行くよ! 三人とも!!」
軍港の警報が鳴り響く中、下着姿のカタリナ、びしょ濡れのモカとミネ、そして肩の上のリルが、兵士の群れを避けながらゲートに向けて駆け出した。
背後では兵士たちの怒号が響き、ルキウスの鋭い声が混じる。
「逃がすな!! 赤毛海賊だ!!」
モカは走りながらリルに叫んだ。
「リルちゃん! ゲートの状況どう? わかる?」
リルは肩の上で揺れながら、小さなアンテナをぴょこんと伸ばした。
「詳しくは分からないけどー、通信傍受の内容を取りまとめると――
多分びっちり守られてるー!」
ミネが冷静に補足する。
「大雑把な情報ですが……
言い換えると、ゲートを通ってロウが待つ停泊地に行くのは、かなり難しそうですね」
カタリナは走りながら叫んだ。
「じゃあ、どうするの?!」
モカは走りながら頭を押さえた。
「待って! 考える! 考える! 考えた!!」
ミネが呆れた声を出す。
「速いですね……」
モカは振り返りながら叫んだ。
「一個逃げ道があるよ!
リルちゃん、後ろの奴らを撒きたい!
煙幕か何かある?」
リルは肩の上でぴょこんとアンテナを伸ばし、胸を張って答えた。
「煙幕はないけど……
消火設備なら誤作動させられるよー!
泡いっぱい出るやつ!」
ミネが走りながら目を見開いた。
「それなら兵士たちの視界を完全に奪えますね。
むしろ煙幕より効果的です」
カタリナは叫ぶ。
「えっ!?泡!?
私たちまで滑るんじゃないの!?」
モカは即答した。
「いいの!勢いで走り抜けるから!!
リルちゃん、やっちゃえ!!」
「はーい!」
リルが肩の上で小さなスイッチを押した。
ピッ。
次の瞬間――
ブオオオオオオオオオッ!!!
天井の消火ノズルが一斉に開き、
白い泡が滝のように噴き出した。
通路が一瞬で泡まみれになる。
兵士たちが悲鳴を上げた。
「うわっ!?なんだこれ!!」
「滑る!滑る!!」
後方で兵士たちが次々と転び、ルキウスの怒号が泡の向こうから響く。
「落ち着け!!追え!!
赤毛海賊を逃がすな!!」
しかし泡の壁が厚く、兵士たちは完全に足を取られていた。
三人も何度か足を滑らせながら、それでも勢い任せに泡の中を駆け抜ける。
モカは転びかけながら叫んだ。
「よし!撒いた!!
このまま脱出口に向かうよ。私についてきて!」
カタリナは肩の上のリルを押さえながら叫ぶ。
「リルちゃん、ナイス!!」
リルが元気よく手を挙げた。
「いえーい!」
・ ・ ・
三人と一機は、モカを先頭に泡まみれの裏ルートをしばらく走り続けた。
その時――
ミネが突然、足を止めて硬直した。
「ま、ま、待ってください!
まさか!?
嫌です、絶対に嫌です!!」
モカは振り返り、即座に叫んだ。
「おねーちゃん、ミネを落として!」
カタリナは走りながら首を傾げた。
「落とす?気絶させればいい?」
モカは走りながら、自分の首に手刀を当てる“ジェスチャー”をした。
カタリナの目が一瞬で理解の色に変わる。
「おっけ、了解!」
ミネは必死に叫んだ。
「モカ様ぁ!!
絶対そこは通っちゃダメです!!
絶対に嫌です!!
Gが――」
「とぉっ!!」
カタリナが背後から飛び蹴りを放った。
ドガッ!!
ミネは吹っ飛び、泡の上を転がりながら目を回した。
「ぐるぐるぐる……」
モカは冷静に指示を出す。
「おねーちゃん、ミネをおんぶして。
そしてこれ!」
カタリナは気絶したミネをひょいと背負い、モカが投げ渡した防護マスクを受け取った。
それは、モカが一度宇宙艇に取りに戻ったマスクだった。
カタリナはミネにマスクを被せ、自分も装着する。
「これ、何に使うの?」
モカは自分もマスクをかぶりながら答えた。
「Gがいっぱいいる下水廃棄物ダクトを通って停泊地に行くの!!」
カタリナは絶望した。
「えー、汚い所、いやだよー!!」
モカは即答した。
「お前も気を失うか?!ミネみたいに!」
カタリナは震えながら叫んだ。
「い、行きます……」




