第64話 ヤバイ奴に見つかっちゃったぞっ!
同じ手口で四隻の戦艦への潜入とAI書き換えを終えたカタリナと監査官ロボットのリルは、五隻目の戦艦へ向かって廊下を歩いていた。
カタリナは肩を回しながら言った。
「ふぅー!……あと一隻だね。
リルちゃん、監査官ロボットの演技も板についてきたよ」
リルは胸を張った。
「でしょ〜?
カタリナの“中将の顔”も上手くなってきたよ〜」
カタリナは笑った。
「まぁね。適当に偉そうにしてれば何とかなるし」
そんな軽口を叩きながら曲がり角を進んだ瞬間――
廊下の向こうから歩いてきた人物と、カタリナの視線がぶつかった。
金髪イケメンの青年。
鋭い目つき。
軍人たちがいる中で、一際ラフな格好、つまり海賊衣装だ。
ルキウスだった。
二人は一瞬固まり――
「「あー!!」」
完全に同時に叫んだ。
ルキウスの手が腰のレーザーブレードに伸びる。
抜き放つ動作は、名を馳せた海賊らしく無駄がなかった。
カタリナは即座にポケットへ手を突っ込み、小型精密ミニロボット――リルの予備ボディを取り出した。
「リルちゃん、早くこっちに移って!」
リルは即答した。
「はいはーい!」
その瞬間、ルキウスのレーザーブレードが閃いた。
カタリナは信じられない反射神経で身体をひねり、刃を紙一重でかわした。
髪の毛が数本、空中に舞う。
そして――
カタリナの背後にいた監査官ロボットが、激しく火花を散らして真っ二つに割れた。
その様子をカタリナは振り返り、眉をひそめた。
「リルちゃん?」
ミニロボットのリルは胸を張った。
「間に合った!
ロボットの中身はもう空っぽだよ〜!」
カタリナはリルのミニロボットをポケットに押し込み、ルキウスへ向き直った。
ルキウスは刃を構えたまま、低く言った。
「……中将の服を着て戦艦内部をうろつく海賊がいるとはな。
お前、本当に面白い奴だな」
「そっちこそ、海賊服のまま、堂々とここを歩いてるなんて図々しいな。
民衆にお前が公爵とグルだってことを伝えてやらないと……な!!」
最後の一言を発する直前、カタリナは軽く足を上げ、蹴りを放つように見せかけた。
ルキウスが腕を上げて防御した次の瞬間、カタリナは反転して全力で走り出した。
「逃げるよ!!」
ルキウスの目が見開かれた。
「は!?逃げるのか!?」
カタリナは振り返りもせず叫んだ。
「戦うわけないじゃん!
私、穏便に済ませたいんだよ!!」
ルキウスはブレードを握りしめたまま、廊下を駆け出した。
「待て!!赤毛海賊!!」
カタリナは走りながらポケットのリルに叫んだ。
「リルちゃん、逃げ道案内して!!」
リルの声が骨伝導イヤホンに響く。
「了解〜!
右に曲がって、次の扉を開けて〜!
通ったと同時に左手のスイッチをブレードで焼き切って。
その先はメンテナンス用の通路だよ〜!」
カタリナは全力で駆け抜けた。
言われた通り、扉を通り抜けると同時に、左手のスイッチへブレードを押し当てた。
鈍い作動音とともに、隔壁が二段、三段と落ちてきた。
カタリナが最後の隔壁をスライディングで滑り抜けた直後、閉ざされた向こう側からルキウスの声が聞こえた。
「おい。不審者だ!
港を封鎖しろ!赤毛だ。赤毛の女がこのSNS事件の首謀者だ。
殺しても構わん。確保しろ!」
カタリナが眉を上げる。
「あー、こわ。容赦ないな、この悪党。
さ、逃げるよ!」
戦艦内部に、中将の軍服を着た海賊と、それを追う、公爵家とグルになった海賊の足音が響き渡った。
・ ・ ・
その少し前――。
戦艦 《ニャダートゥル・ドミナンス》から少し離れた整備区画では、サクラモカ、ロウ、ミネの三人が、気絶した将官を前にして固まっていた。
ロッカーの中で下着姿のまま倒れているレッサー中将。
首元には、手刀を受けた跡がくっきりと残っている。
サクラモカは頭を抱えた。
「おねーちゃん、何やってんだよ、もう!
よりにもよって中将とか偉い人、襲ってどうすんの!」
ロウはしゃがみ込み、冷静に傷を確認した。
「うーむ、気を失ってるだけだけど、首元にあざがある。
背後から手刀で一撃かな。
見られてない可能性もあるな」
ミネは淡々と状況を整理する。
「モカ様、どうしますか?」
サクラモカは両手で頭を押さえながら叫んだ。
「もーう、黙って!考える。
考える……考え……考えた!」
ロウとミネが息を飲む。
「相変わらず速ぇな!」
ツッコんだロウを無視して、サクラモカは指を突き出した。
「えっと、団員のみんなは、このまま速やかに帰らせて。
この偽装点検だけはバレたくない。
絶対に成功させるよ。
あくまでお姉ちゃんの暴走は、“偶然点検日に一海賊が潜入して暴れまわってるだけ”ってことにする!」
ロウは即座に頷いた。
「わかった」
サクラモカは続ける。
「ミネと私は一旦、このまま点検員として港から普通に退出する。
そして赤毛猫の制服に着替えて再潜入して、おねーちゃんを救い出す。
ミネ、手伝ってくれるよね」
ミネは深くため息をついた。
「はい、仕方ないです……。
私が首輪とリードをつけておかなかったのが原因です。
責任を感じています」
ロウは即ツッコミを入れた。
「ペットの馬鹿犬に困ってる主人みたいに言うなよ!
……いや、犬に失礼だったな。
あいつは間違いなく馬鹿犬未満だからな」
サクラモカは手を振って遮った。
「もう、そんなのはどうでもいい!
ロウは点検責任者として、本部に点検完了報告をしてきて。
あくまで点検は無事終わったの!
そう見せかけるために。
そして堂々とゲートから退出して」
ロウは真剣に頷いた。
「分かった」
ミネはカタリナが脱ぎ捨てたジャンプスーツを拾い上げた。
「一旦出ましょうか。
カタリナ様が脱ぎ捨てたこのジャンプスーツも持ち帰りますね。
カタリナ様は馬鹿ですから、これだけ暴れても“ジャンプスーツに着替えたら疑われない”とか考えそうですし」
ロウは顔をしかめた。
「ありえそうで怖い。持ち帰って処分しよう」
サクラモカは深呼吸し、ロウに指示を続けた。
「とりあえず、いい?!
さっきミネが言ったように、おねーちゃんは馬鹿だから、ここに戻って着替えて逃げ出そうとするはず。
そこで合流して、一緒に脱出するわよ!
ロウ、お願い!
私たちがおねーちゃんとリルちゃんを救い出したら、逃げられるように、小型宇宙艇だけ確保してどこかに隠しておいて。
場所はミネにメールで送ってくれたらいいから」
ロウは緊張した声で答えた。
「お、おう。気を付けろよ」
サクラモカは深く長いため息を吐いた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ロウは苦笑した。
「マジもんのため息だな」
サクラモカはミネの腕を引いた。
「ミネ、行くよ!」
ミネも同じように深いため息を吐いた。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ、はい」
ロウは呆れたように呟いた。
「こっちもマジもんだ」
二人は点検員の顔を保ったまま、静かに港ゲートへ向かって歩き出した。
一度外へ出て着替えた後、基地内へ逆戻りしなければならない。
しかも当のカタリナは、よりにもよってルキウスに見つかっていた。




