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『赤毛猫海賊団 カタリナの野望』 ~カタリナ様はワガママ貫き通すってよ~  作者: ひろの
第2章 カタリナ、ついでに内乱鎮めとく  ~ イケメン海賊団編 ~

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第62話 点検作業に潜入するぞっ!

5日後。


ペドローニャン星系軍港のゲート前に、濃紺のジャンプスーツを着た点検班が整列していた。

胸元には《アストラル・フォージ重工》の企業ロゴ。

袖には「機関整備」「推進炉点検」「安全管理」のパッチ。

量子認証タグ付きの身分証は本物と見分けがつかない。


総勢240名。

アストラル・フォージ重工の整備士に化けた赤毛猫海賊団と黒犬海賊団の合同潜入班だ。


ゲートの係員が端末を確認し、顔を上げた。


「アストラル・フォージ重工の点検班の方ですね?

 予約確認しました。どうぞお入りください」


ロウはその光景を見て、頭を抱えた。


「……本当に通るのかよ……」


カタリナは胸を張って答えた。


「これだけ人数揃えたからね。

 大手の点検班に見えるでしょ」


ミネは淡々と補足する。


「ここに連れてきたメンバーのほとんどは私たちの船団の整備班ですから。

 普通に点検だって出来ますし、その点検結果は正確ですよ。

 機械周りの雑談だってばっちり対応できます」


ロウは遠い目をした。


「……海賊が軍港に堂々と入る潜入作戦ってなんだよ……」


潜入班は24班に分かれ、各艦へ散っていった。

巡洋戦艦、巡洋艦、駆逐艦、コルベット。

それぞれの艦で、本物の点検が始まる。


推進炉の温度ログを確認する者。

冷却材の流量を測定する者。

船体外装の微細クラックを検査する者。

電装系の安全チェックを行う者。


軍港の公爵軍整備士たちは、赤毛猫の点検班を見て笑った。


「アストラル重工さんも女の子が増えたねぇ」


自然な態度で黒犬の整備士が肩をすくめる。


「華やかでいいだろ?

 うちのお偉いさんがフェミニストでさ、女性技術者を大量採用したんだよ」


「なるほどねぇ。時代だねぇ」


・ ・ ・


年配の公爵軍整備士が、アストラル重工整備士に化けた潜入班を見て、声をかけてきた。


「お宅の点検班、若い子が多いねぇ。

 最近の子は《極性複合冷却液》の扱いとか難しいだろう??」


黒犬の整備士が肩をすくめる。


「大丈夫ですよ。若くてもしっかり教育はされてるんで。

 最近の新人教育では“冷却材の揺らぎログの読み方”から教えるんだよ。

 昔みたいに“温度だけ見て判断”なんてしないのさ」


公爵軍整備士が感心したように頷く。


「時代だねぇ。

 揺らぎログ読める子は出世早いよ」


赤毛猫の若手があまり意味も分からずに適当に話を合わせる。


「ですよね〜、揺らぎログ大事ですよね〜(適当)」


・ ・ ・


若手の公爵軍整備士が点検している潜入班の作業状況を後ろで見ながら、時折声をかけてくる。


「しかし、うちの艦って推進炉の《グリッド調整》が面倒なんだよなぁ。

 なんで“旧式の加速グリッド”使い続けてんだろ。

 俺達だと痒い所に手が届かなくってさ、しっかり調整頼むよ」


黒犬の整備士が笑う。


「予算ケチってるんですね。

 新型グリッドは《位相ずれ補正》が自動化されてるけど、

 旧式は手動で合わせるしかないですからね」


赤毛猫の整備士が適当に合わせる。


「手動は味がありますよね〜(超適当)」


・ ・ ・


公爵軍整備士が自慢げに装甲を叩きながら潜入班に話しかける。


「この巡洋艦、外装材が《カーボン・セラミック複合》でさ。

 最近の流行りなんだけど」


黒犬の整備士が頷きながら続ける。


「衝撃吸収率が高いから流行ってますね。

 ただ、微細クラックが出やすいのが難点で、普段の点検は大変でしょう?」


赤毛猫の整備士が笑う。


「クラック探しは得意ですよ〜(超超適当)」


・ ・ ・


雑談は自然に流れ、誰も疑う者はいなかった。


点検は順調に進み、ナノ・ドライパルスの設置も完了していく。

完了した班から順に撤収し、軍港の外へ戻っていった。


やがて――巡洋戦艦の点検を終えたミネとモカが、タラップを降りてきた。


ミネは静かに言った。


「ずっと言おうと思っていたのですが……

 あまりにも嫌な予感しかしないので、現実逃避で黙っていました」


モカも深いため息をついた。


「私も。なんとなく気付いてたけど、現実逃避で黙ってた」


ロウがやってきて、三人の顔を見比べた。


「……俺もさ。

 ずっと違和感を感じてたんだけど、脳が勝手に気づかないことにしてた」


三人は黙り込んだ。


十秒の沈黙、そして――


「「「カタリナとリルがどこにもいねぇ!!!」」」


周囲に叫び声が響いた。

そこにいた整備士たちが驚いて振り返った。


ミネが端末を操作し、二人の位置情報を検索した。


「この辺りにいるはずなんですが。

 ……あ、こんなところにカタリナ様のジャンプスーツが脱ぎ捨ててある」


ロウが叫んだ。


「なんでだよ!?なんで二人だけいねぇんだよ!!」


モカが震える声で言った。


「……嫌な予感しかしない……」


ミネが静かに頷いた。


「はい。最悪の予感しかしません」


ロウが頭を抱えながら呟いた。


「絶対なんかやらかしてるだろ……」


その横にあるロッカーの中から人の気配を感じ、ミネがゆっくりとその戸を開けた。

公爵軍の軍人が一人、服を奪われて下着姿で気絶していた。


「なんですか、これ……?」


ロウが顔をしかめた。


「こいつ……知ってる。公爵私設軍のレッサー中将だ」


目を見開いたモカが割り込んできて、そっとロッカーの戸を閉めた。


「は!?結構偉い人じゃない……。私たちは何もみてなーい」


そして何事もなかったかのように歩き出した。

しばらく歩いて距離をあけた後、モカとミネとロウが顔を見合わせて涙目で叫ぶ。


「お姉ちゃん、何やってるんだー!」

「カタリナ様、何やってるんだ―!」

「あの大馬鹿、何やってるんだー!」


・ ・ ・


その頃――。


軍港の奥、戦艦ニャダートゥル・ドミナンス内部。


レッサー中将の軍服を着たカタリナが、堂々と歩いている。

隣には、リルが制御する作業用人型ロボットが並んでいた。


二人は戦艦の中央制御室へ向かっていた。


数十分前。

戦艦の前を歩きながら、カタリナがぽつりと呟いた。


「戦艦もほしいよな。

 さすがにこの規模の船はドライヤーじゃ奪えないかもしれないけど」


リルが首をかしげる。


「カタリナはさぁ、あんまり人を傷つけたくないんだよね?」


「そうね。死なせちゃ可哀想だからね。

 ドライヤーで動けなくなった小型の船は、私たちの最強艦隊と黒犬のショボショボ艦隊が一緒に囲めば降伏するはず。

 そしたら捕虜は脱出ポッドに乗せて、そのまま全員星系要塞に向けて捨てちゃう。


 その間に戦艦が邪魔しに来たら面倒だから、何とかしたいけど……。

 どうせ何とかする必要があるなら、拿捕して奪い取りたいよね」


リルが頷きながら聞いていたが、そこで口を挟む。


「今回の作戦では戦艦の足止めは出来ないけど、別の方法で戦艦からも人を追い払えばいいってこと?」


「そうだね。そしたら戦艦の無力化&拿捕の一石二鳥だよなぁ」


リルは目を輝かせた。


「問題は戦艦を奪う時どうするかかぁー?

 そうだ。自爆しちゃおう。

 “30分後に自爆しますっ!”ってやるの!

 そしたらみんな逃げるよね」


「自爆しちゃだめじゃん。戦艦ほしいもん」


「だから自爆する振りをさせるの!」


カタリナが首を傾げながら問い返した。


「は?無理っしょ。そういうのAIが制御してるんでしょ?知らないけどさ」


リルはにやりと笑った。


「だからAIも書き換えちゃうの。

 さすがに遠隔じゃ無理だけど、各艦の中央制御室に入って、アクセスしたら多分出来るよ!

 このリルちゃんに任せて!」


「なんかイイね!中央制御室の制圧は私なら、楽勝案件だし!

 で、実際上手く書き換えとかできるの?」


「うん!

 “味方艦隊の戦闘可能艦が40%未満になったら《艦隊全体の安全のために自爆を選択》する”って安全策を追加するの。

 もちろん通告だけで、実際には爆発しないよ〜!」


カタリナは目を輝かせた。


「天才じゃん!」


「この自爆通告は《最優先事項》に設定する〜。

 つまり手動操作へ移行不可。

 乗員がどれだけ叫んでも止められないよ〜!」


カタリナは満面の笑みを浮かべた。


「よし、やろう!

 じゃあ私が中央制御室を制圧して、その間にリルがAIとバトって書き換えるんだね!」


「うん!それそれ!やっちゃおう!」


そして今――。


中将の軍服を着たカタリナと、リルのロボットは、堂々と戦艦内部を歩いていた。


赤毛猫海賊団の“非暴力潜入作戦”は、予定外の方向へと進み始めていた。

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