第60話 公爵の戦艦を拿捕してやるぞ!
場面は再び、赤毛猫海賊団旗艦の《メッタメタ号》ブリッジ。
艦内の大型ホログラムには、三つの艦隊編成図が並んでいた。
ロウは腕を組み、険しい表情でそれらを指し示した。
「各個撃破するのは……まぁいいとするぞ。
だがニャダートゥル艦隊は“公爵家の私設艦隊”だ。
今までお前が相手にしてきた“伯爵家の私設艦隊”とは一味違うぞ。
俺たち海賊艦隊とは規模がまるで違うんだ」
ホログラムに赤毛猫海賊団の戦力が表示される。
赤毛猫海賊団
・弩級戦艦:1
・巡洋戦艦:1
・巡洋艦:6
・駆逐艦:5
・コルベット:10
ロウは続けて自分の艦隊を表示した。
黒犬海賊団
・巡洋戦艦:1
・巡洋艦:5
・駆逐艦:5
・コルベット:10
そして最後に、公爵家の私設艦隊――ニャダートゥル艦隊の戦力が映し出される。
ニャダートゥル艦隊(公爵家私設艦隊)
・弩級戦艦:1
・戦艦:5
・巡洋戦艦:5
・巡洋艦:5
・駆逐艦:5
・コルベット:9
ロウはため息をついた。
「数はまあまあ張り合ってるが……
俺ら、小っちゃいのが多いからな」
ミネが冷静に分析する。
「確かに、あちらの方が、でかくて硬い艦が多いですね。
こちらの駆逐艦以下だと、戦艦以上にはダメージを与えられないかもしれません」
カタリナは気楽に言った。
「メッタメタ号がいるじゃん。
チュドーンって主砲撃てば一発じゃね?」
モカが即座に否定する。
「いや、あっちにも弩級戦艦いるからね?
チュドーンで弩級戦艦倒せたら苦労しないよ」
ロウは両手を広げて叫んだ。
「な?分かっただろ?
簡単に言うけど、公爵家の私設艦隊狙うなんて難易度高すぎなんだよ!」
カタリナはモカの肩をぽんぽん叩いた。
「モカ、作戦プリーズ」
モカは額に手を当ててため息をつく。
「もう……軽く言わないでよ。
えっと……基本的に“弩級戦艦とは戦わない”。
割に合わないからね。
巡洋戦艦以下を拿捕するのを目的とするわ」
ホログラムに“巡洋戦艦以下”の艦が強調される。
「できれば戦艦も欲しいけど……
ある程度敵を拿捕できたら、戦い慣れてない奴らだから逃げ出すと思う。
今回は撃滅じゃなくて“チョロ奪い”が目的。
危険を冒さずに“足を止める方法”が必要ね」
カタリナは首をかしげる。
「足かぁ。チュドーンでエンジン狙うのは?」
モカは即答した。
「いやいや、チュドーンって一発当たったところで、シールドや装甲で止められるわよ」
その時、ミネが静かに手を挙げた。
「一つだけ、いい方法があります」
カタリナは即決した。
「おぉ、ミネ!さすが、それ採用!」
ロウが叫ぶ。
「せめて聞いてから決めろよ!!」
ミネは淡々と続ける。
「敵艦の“足”を止める方法――
それについて、技術的な提案があります」
ブリッジの空気が一気に引き締まった。
ゆっくりとした口調でミネが説明を開始した。
「赤毛猫海賊団のポリシーは“非暴力・知恵の奇襲作戦”です。
粒子ランスでズドンでは死者が出るかもしれません。
なので別の技術的奇襲作戦で足を奪います」
カタリナが不思議そうな顔をした。
「技術的?アーティファクト?」
「そんな簡単にアーティファクトは手に入りませんよ。
既存の技術を悪用……コホンっ!上手く使うのです」
ミネはホログラムの前に立ち、
いつもの冷静な表情で新しい装置の図面を表示した。
「では、今回の作戦に必要な装置――
《ナノ・ドライパルス高出力改造モデル》
について説明します」
団員たちがざわつく。
カタリナが素朴な疑問を口にした。
「え?ナノ・ドライパルスって、あの海水浴の後で水着乾かすやつじゃん?
あれで戦艦止められるの?」
ミネは眼鏡を押し上げ、淡々と続けた。
「元々のナノ・ドライパルスは、“水分子だけを選択的に振動させて蒸散させる”という技術です。
これは既存の《選択的分子振動フィールド》を応用した製品で、衣類や肌にダメージを与えず、水分だけを飛ばすことができます」
ロウが冷静にツッコんだ。
「さすがにそれは知ってるよ。
……海水浴にいくわけでもねーし、それをどう使うんだ?」
ミネが分かりやすいドヤ顔をした。
「ふふふ、今回はこれを“艦船の冷却水”に適用します」
ホログラムに、各艦の機関部の図が映し出されて、それを指さした。
「ニャダートゥル艦隊は、化学ロケットではなく、イオンスラスターが標準化されています。
化学ロケットと違い、燃焼室の冷却水は使いませんが――
“プラズマ生成炉”と“加速グリッド”の冷却が必須です。
高出力のイオン推進炉は、冷却水・冷却ガス・液体金属等の冷却材を循環させて温度を一定に保っています。
冷却材がなくなると、安全装置が働いて自動停止します。
船体も乗員も傷つきません。ただ“動けなくなる”だけです」
モカが考えを整理しながら、疑問を口にした。
「この高出力モデルに改造したナノ・ドライパルスを使って、各艦船の冷却材を蒸発させるってこと?」
ミネが頷いた。
「はい。非破壊、非殺傷、完全安全です」
ロウが呆れたように呟く。
「……お前ら、嫌がらせの天才か?
だが、どうやって敵の船にナノ・ドライパルスを使うんだ?」
ミネが顔色一つ変えずにそれに応じた。
「この装置は“外部から照射しても効果がありません”。
艦船の外壁とシールドが干渉するためです。
よって――機関室に潜入し、冷却材タンクの真横に設置する必要があります」
カタリナがようやく話に追い付いた。
「そうか!潜入ミッションってわけだね!?」
ミネが淡々と頷いた。その横でロウが再び顔を歪めた。
「馬鹿か!?お前ら公爵領の軍港に忍び入って、敵艦に不法侵入する気か!?」
カタリナがあっさり答えた。
「簡単じゃん」
モカがロウの肩に手を置いた。
「ロウ、いい加減慣れたら?」
「一生慣れたくねーよ!」
それを無視してモカがミネに問いかけた。
「でもさ、高出力改造ってどうやるの?」
そこでリルちゃんがホログラムにぴょこんと現れる。
「ミネ~、それってさ~。
ナノ・ドライパルスの“振動周波数”を変えればできるよね~?」
「はい。今回は既存のナノ・ドライパルスを分解し、“水分子の結合角度に合わせた振動周波数”を再調整します。
さらに、艦船の冷却水は大量なので、“局所フィールド拡張装置”を追加します。
これにより、機関室の冷却タンク全体を安全に蒸散させることが可能になります」
カタリナが目を輝かせた。
「つまり、でっかいナノ・ドライパルスってこと?」
ミネが頷きながら答えた。
「簡単に言えばそうです」
ロウが完全に呆れて呟いた。
「簡単に言うなよ……。でかい装置を持って侵入なんてなおさら無理だろうが!」
カタリナが不思議そうな顔で答えた。
「え?できるでしょ?
楽しそうじゃん!やろうやろう!」
「いや、楽しそうとかじゃねぇ!!
戦艦の機関室に潜入って普通は死ぬほど危険だぞ!?」
ミネも乗ってくる。
「大丈夫です。非暴力で行います。
乗員を傷つけることはありません」
「そういう問題じゃねーだろ!」
リルちゃんが割り込んでホログラフを表示させた。
「公爵家のサーバに(勝手に)アクセスして情報を(盗み)見たよ。
ちょうどね~2週間後にエンジンの定期点検があるよー!」
「いいですね、それ。
リルさん、業者にはキャンセルを依頼しておいてください。
代わりに私達が点検してあげましょう」
「あいあいさー!」
ロウが頭を抱えた。
「おい……」
それを無視してモカも呟く。
「なるほど、業者の点検だったら多少大きな機材を設置しても不思議に思われないね」
ミネが再びドヤ顔で頷いた。
「はい!では、装置の試作を開始します。
完成次第、潜入班を編成します」
カタリナが頷いて、こちらもドヤ顔で叫んだ。
「よし!みんなで分担して、とりま巡洋戦艦以下に全部設置するよ!
そうだ一隻は戦艦も奪っちゃおう。
戦艦の潜入班は私とモカとミネとリルちゃん!」
「いや、リルちゃんは無理だろ!」
「作業用人型ロボットに潜むから大丈夫だよ~!」
「なんでもありだな、おいっ!」
赤毛猫海賊団による、“非暴力ニャダートゥル艦隊拿捕作戦”は、こうして幕を開けた。




