第59話 敵が二つ?まとめてぶっ飛ばすぞ!
赤毛猫海賊団の旗艦メッタメタ号ブリッジ。
SNS炎上はすでに帝都まで届き、公爵領は混乱の渦に巻き込まれていた。
そんな中、黒犬海賊団のロウが険しい顔をしている。
「さすがに今回のSNS炎上はやりすぎだ」
その声には、いつもの呆れではなく、“本気の警告”が滲んでいた。
「公爵はルキウスを使って犯人探しをしている。
犯人を捕まえて、デマだったと公表するだろう。
書かれた内容は全部“犯人側の悪事”にすり替えて、問答無用で犯人を処刑しようとするだろう」
団員たちがざわつく。
ロウは続けた。
「いいか?
仕組みはわからんが、バレないようにやったんだったら、今は大人しくしておけ」
カタリナが首をかしげる。
「え?なんで?」
ロウは額を押さえた。
「いや、なんでってわかるだろうが!
今なら公爵とルキウスを同時に相手することになるぞ。
まずは少なくともシルバーランスと公爵が裏で繋がってるのが分かっただけで上々だ」
モカが腕を組んで頷く。
「両者の繋がりが分かれば、攻め方の幅が広がる。
じっくり考えて動けってこと?」
ロウは安堵したように息を吐いた。
「あぁ、サクラモカはやっぱり理解が早くて助かる。
その通りだ。両方同時は危険すぎる」
モカは肩をすくめる。
「まぁ、普通はそうだよね。
……でも決めるのおねーちゃんだし」
ミネも冷静に言う。
「合理的な判断です。
……ですがカタリナ様が最終判断します」
ロウは叫んだ。
「だから少しは――
って、カタリナに決めさせたらダメに決まってるだろう!
ちゃんと考えろ!」
カタリナはにやりと笑った。
「ロウ、何言ってんの?
敵が二つあるなら――」
拳を握りしめる。
「二つまとめてぶっ飛ばせばいいじゃん!」
ロウは頭を抱えた。
「だから、こうなるだろうが!!」
モカはため息をつく。
「いや、おねーちゃんだし、馬鹿だから仕方ない」
ミネも淡々と追撃する。
「カタリナ様は戦略という概念を……持ち合わせていません!」
カタリナは頬を膨らませた。
「ちょっと聞いてればなんか酷くない?
自然な感じにディスられてる気がするんだけど。
……まぁいいや。
ロウ、考えてもみなよ」
カタリナは胸を張る。
「悪党が二人いるんだよ?
片方だけ殴るとか、逆に気持ち悪くない?」
ロウは叫んだ。
「気持ち悪いとかの問題じゃねぇ!!」
モカがふと顎に手を当てる。
「ん~でもさ。
……ロウ。もしかしたら戦略的にイイかもよ?」
ロウは目を丸くした。
「良いわけねーだろ!
馬鹿のカタリナの言う通り動いて好転したことがあったか?」
カタリナは涙目で叫ぶ。
「うぅー!!!ロウまでディスり始めた!」
モカは続ける。
「ロウがそう思うんだったらさ。
普通は両方同時に相手にするとか考えないってわけだよね?
今は機会として見送るべきだ。
大人しくして隠れておくべきだ。
普通はそう考えるんだよね」
ロウは眉をひそめる。
「ん?そりゃそうだが、何が言いたい?」
モカはにやりと笑った。
「戦略ってのはね、“普通に考えること”の裏をかいた方がいいのよ」
カタリナが勢いよく手を挙げる。
「そうっ!敵の裏をかく!
さすが妹よ!よくぞ姉の真意を見抜いた!」
ミネが冷たく言い放つ。
「カタリナ様、モカ様の作戦を聞いているんですから煩いです。
黙っていてください」
「はぁ?言い方っ!酷くない?」
モカは本題に戻る。
「まぁ、私が言いたいのは敵が油断してるってことよ。
シルバーランスは犯人探しに動き回ってる。
連携どころじゃないはず。
SNS抜きにしてさ。
海賊として、戦闘慣れしていない方――
エロい公爵の私設艦隊“ニャダートゥル”を襲っちゃおうよ!
拿捕と積荷狙いでっ!」
カタリナの目が輝く。
「え?良いっ!拿捕っ拿捕っ!
でっかい船いっぱい奪おう!
おっ宝っ、おっ宝っ!」
ミネも頷く。
「なるほど……シルバーランスが犯人探しで走り回ってる隙を、逆手にとって各個撃破するんですね」
ロウは絶叫した。
「な!?
本来逃げる状況で、逆に各個撃破狙いで襲いかかるってのか?
相変わらず極端だな!?今度はアグレッシブすぎるだろっ!
……ん?
片方だけ殴るのは気持ち悪いって言ってなかったか?」
カタリナは胸を張る。
「言ってないよっ!もう呆けた?
私みたいな戦略家は各個撃破一択よっ」
ロウは天を仰いだ。
「呆けたのは10秒前に言ったこと忘れてるお前だろ!
はー、はいはい……もう好きにしろよ」
赤毛猫海賊団の“戦略会議”は、
今日も混沌と勢いだけで進んでいくのだった。
・ ・ ・
一方その頃、シルバーランス海賊団の旗艦 《シルバーランス・ゼロ》。
艦橋に重苦しい空気が漂っていた。
SNS炎上の火の手は公爵領全域に広がり、公爵は激怒。
その怒りの矛先は、“犯人を捕まえろ”という命令となって、シルバーランスに押し付けられていた。
しかし――。
「……くそぅ、ふざけやがって」
ルキウスは椅子にふんぞり返り、端末に映るログを乱暴にスクロールした。
「なんで俺たちが、こんなくだらねぇことで走り回る必要があるんだ」
副官が肩をすくめる。
「頭、仕方ないです。
公爵の命令なんで逆らえませんよ」
ルキウスは舌打ちした。
「あんな禿爺、どうなってもいい。
あいつとつるむと金回りがいいから協力してやってるだけだ。
それを使用人に命令するみたいに、軽く面倒なことを押し付けてきやがって」
副官は苦笑しながら言う。
「いえ、まだあの禿も利用価値があります」
「分かっている。
だから、素直に従ってるんだろうが……」
ルキウスは深く息を吐いた。
「……しかし、やってられねえな」
端末のログには、SNSの投稿を追跡しようとした痕跡が並んでいる。
だが――
ある程度追うと、途端に痕跡が霧散する。
ログは消え、発信元は星系を跨いで跳び、追跡アルゴリズムは空回りするばかり。
副官がぼそりと呟く。
「……頭、これ、本当に犯人追えるんスかね」
ルキウスは鼻で笑った。
「追えるわけねぇだろ。
こんだけ派手にやってるくせに、肝心なところで跡形もなく消える。
素人の仕業じゃねぇ」
「じゃあ、どうするんスか?」
ルキウスは椅子から立ち上がり、艦橋の中央に歩み出た。
「別に犯人なんて捜す必要はないんじゃないか?」
副官が目を瞬く。
「は?」
ルキウスは薄く笑った。
「それっぽい馬鹿な海賊でも締め上げて、そいつを犯人に仕立て上げりゃいい。
どうせ死刑にするんなら、海賊がちょうどいいな」
副官は納得したように頷く。
「なるほど。確かにそうっスね。
公爵も納得するでしょうし」
ルキウスは指を鳴らした。
「そういえば、ちょうどいいのがいたじゃねーか。
赤猫なんとかだったか?」
「赤毛猫海賊団っスね」
「そう、それだ。
動きを探れ。ぶち倒した後で、犯人に仕立て上げりゃいい」
副官は敬礼し、すぐに部下へ指示を飛ばした。
「全艦、赤毛猫海賊団の動向を追跡!
見つけ次第、報告しろ!」
ルキウスは満足げに笑う。
「ふん……
海賊なんざ、どう料理しても文句は出ねぇ。
公爵も喜ぶし、俺たちも手柄になる。
楽な仕事だ」




