第58話 SNS大作戦開始だぞ!
リゾート惑星の海岸での屈辱――
高額すぎる税金、ぼったくりの運賃、そしてカップラーメンの夕食。
その怒りは、赤毛猫海賊団3000人の胸にしっかり刻まれていた。
そして今、その怒りが“情報戦”という形で爆発しようとしていた。
その翌日から作戦が決行された。
団員たちは各自の端末を手に、ミネが用意した“匿名アカウント作成ツール”を起動していた。
ツールはワンタップで、IP偽装、星系偽装、投稿波形のランダム化、人格テンプレの割り当て、Q-SECとの同期をすべて自動で行う。
ミネが聞かれてもないのに全艦隊向けの艦内放送で説明する。
「はい、これで発信元は全星系に散らばって見えます。
どれだけ投稿しても、赤毛猫海賊団の痕跡は一切残りません。
さぁ、皆さん。
作戦開始です」
「やーぁっておしまいっ!」
一番最後にカタリナの声が割り込んだ。
団員たちは目を輝かせた。
「すげぇ……」
「これで公爵に仕返しできるのか!」
「よーし、やってやる!」
カタリナは腕を組み、満足げに頷く。
「よし、みんな!好きに投稿しろ!
公爵の悪行を、思い思いにぶちまけろ!」
「おねーちゃん、意外とノリノリだね。
こういう陰湿なの嫌いかと思ってた」
カタリナは耳をほじりながら面倒臭そうに返す。
「私ね、悪党大っ嫌いなんだわ。
それにこれ、陰湿じゃないじゃん、派手じゃん。
帝国全土に悪口ぶっ飛ばすんでしょ?
ここまでやれば陰湿通り越して派手だよ。
よし、私も本名で一通だけ投稿しておこう」
「あー、カタリナ様、折角の作戦をぶち壊すのやめてください!」
ミネが慌ててカタリナの端末のIPブロックした。
「あ!?繋がんなくなった。
こらっミネ、これじゃあ、どうなったか分かんないだろうが!」
「全く、毎度毎度うるさいなぁ」
モカが文句を言いながらもSNS上のトレンドを確認する。
投稿された瞬間、リルちゃんの構築したQ-SECが文章を解析し、自動的に“バズりやすい形”へと変換していく。
文脈のリズムを調整し、語彙の揺らぎを自然に整える。
タグを最適化し、画像に補足テキストを追加。
投稿時間まで勝手に調整し、反応しやすいユーザーへ自動配信する。
団員Aの投稿は、「税金高すぎ」→「#エルノ公爵の税金泥棒」に変換され、画像が自動で追加される。
団員Bの投稿は、「飲み物高い」→「リゾート税28800ニャニーの闇」に変換され、住民の悲鳴の引用が自動で添付される。
団員Cの投稿は、豪邸の写真に“税金で建てた証拠”の注釈が自動で入る。
団員Dの投稿は、貧困ドキュメンタリー風の仮想映像が作られ、架空の住民の声が“インタビュー風字幕”に変換される。
今までこういった投稿は公領政府の検閲によって、ペドロ―ニャン星系では発信することが出来なかった。
検閲外の星系外に移動してから投稿しようにも、星系内の家族が人質に取られているようなもので投稿する気力さえ奪い去られていた。
だがミネのシステムによって、検閲もぶっ飛ばし、発信元さえも隠されている。
団員たちは驚愕した。
「え、私、こんな文章書いてないぞ!?」
「画像勝手に増えてるんだけど!?」
「タグがめっちゃ刺さってる!」
「なんかプロの記者みたいになってるんだけど!?」
リルちゃんは胸を張る。
「Q-SECが全部やってくれるよ!
“面白い投稿”に自動変換してくれるの!」
ミネは冷静に補足した。
「アルゴリズムが好む波形に変換されているので、
自然と拡散されます。
つまり――バズります」
・ ・ ・
最初の投稿からわずか一日。
SNSのトレンド欄が赤毛猫海賊団の投稿で埋まった。
#エルノ公爵の税金泥棒
#リゾート税 税率2000%
#公爵の豪邸
#公爵の裏金
#公爵の愛人疑惑
#公爵の私設艦隊
#公爵の脱税疑惑
#公爵のペット高すぎ問題
#公爵の趣味の庭園が税金で草
カタリナは目を丸くした。
「え、なにこれ!?
めっちゃ伸びてるじゃん!!」
モカは笑いながら言う。
「いや、これ……公爵、終わったでしょ」
ミネは端末を見ながら冷静に分析する。
「投稿の波形が完璧ですね。
量子推薦AIが“市民の声”として扱っています。
赤毛猫海賊団の痕跡はゼロ。
完全に“自然な炎上”です」
・ ・ ・
赤毛猫海賊団の艦隊は、港の一角に停泊していた。
団員たちは端末を片手に、SNSへ怒涛の投稿を続けている。
投稿するたびに、Q-SECが文章を“バズり仕様”に変換し、画像や注釈を勝手に追加していく。
団員たちは面白がって投稿を続け、SNSはすでに大炎上状態だった。
そんな中――
「おい」
背後から低い声がした。
振り返ると、黒犬海賊団のロウが腕を組んで立っていた。
眉間に皺を寄せ、明らかに嫌な予感しかしない顔をしている。
「……お前ら、何かやったか?」
カタリナが振り向き、満面の笑みで答えた。
「やってないよ?」
モカが目をそらす。
「やってないねー」
ミネは端末を隠すように胸に抱えた。
「やってませんよ?」
リルちゃんはホログラムでくるくる回りながら言う。
「やってないよー!」
ロウは全員の顔を順番に見た。
そして、団員たちが一斉に端末を操作しているのを見て、ため息をついた。
「……やってる最中かよ」
カタリナが笑ってごまかす。
「いやいやいや、これはね?
ちょっとした……その……暇つぶし?」
ロウは端末を覗き込む。
そこには、
“#エルノ公爵の税金泥棒”
“#公爵の裏金ルート”
“#公爵の豪邸が税金で草”
などのタグが並び、
投稿が秒単位で拡散されていた。
「……お前ら、これ……」
ミネが淡々と説明する。
「SNSの量子推薦AIを逆利用して、
公爵の悪行を拡散しているだけです」
「“だけ”じゃねぇよ!!
これ帝都まで届くレベルの炎上だぞ!!」
リルちゃんが嬉しそうに手を挙げる。
「届くよー!
だってQ-SECが“面白い投稿”に自動変換してるもん!」
「変換すんな!! つーか、Q-SECって何だよ。
いや、いいよ、別に説明してほしくて聞いたんじゃねえよ。
呆れてるだけだ!」
カタリナが肩をすくめる。
「まぁまぁ、ロウ。
公爵が悪いんだよ。
私ら、税金でカップラーメン食わされたんだよ?」
「理由が小せぇ!!」
モカが真面目な顔で言う。
「でも、あの税金は本当に異常だよ。
住民も困ってるし、誰かが声を上げなきゃ」
ロウは言葉に詰まった。
確かに、公爵の税金搾取は以前から噂になっていた。
だが、誰も逆らえない。
公爵領は強大で、公式マスコミも完全に掌握されている。
「……で?
お前らはその“誰か”になったわけか」
クラリスが静かに頷いた。
「はい。公爵の悪行は、社会的に裁かれるべきです。
そして――」
拳を握りしめる。
「私の読書計画を邪魔した罪、万死に値します」
「やっぱ理由そこかよ!!私怨じゃねーか!」
団員たちは笑いながら投稿を続ける。
投稿は次々と拡散され、トレンドは赤毛猫海賊団の“匿名アカウント”で埋め尽くされていく。
ロウは頭を抱えた。
「……また俺、巻き込まれてんだよなこれ」
モカが肩を叩く。
「大丈夫だよロウ。今回は暴力じゃないし」
「いや、情報戦のほうがタチ悪いわ!!」
カタリナが笑う。
「まぁまぁ、ロウ。
終わったら海でも行こうよ」
「行けるか!!公爵領で海なんか行けるか!!」
ミネが冷静に言う。
「ロウ様、落ち着いてください。
公爵はもうすぐ炎上で忙しくなります。
海どころではありません」
「そういう意味じゃねぇ!!
いや、違うんだよ。俺がここに来たのは。
情報を伝えに来たんだ」
「情報?」
モカが急に真面目な表情に変わる。
「あぁ、シルバーランス海賊団が、今回の件の犯人探しに躍起だ」
「ん?いや、訳わかんないけど?」
カタリナが不思議そうにする。
「わかんねーか?
シルバーランスは公爵の犬だったんだよ!
まぁ、疑ってたけどな。
あいつらは裏で繋がってる。
お前らは両方同時に喧嘩売ったんだよ」
「ん?別にいいじゃん」
「よくねぇ!」




