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『赤毛猫海賊団 カタリナの野望』 ~カタリナ様はワガママ貫き通すってよ~  作者: ひろの
第2章 カタリナ、ついでに内乱鎮めとく  ~ イケメン海賊団編 ~

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第57話 赤毛猫が制裁してやるぞっ!

リゾート惑星リャニューンの白い砂浜で、

赤毛猫海賊団の団員たちはコンビニで買ったカップラーメンをすするという、

なんとも哀愁漂う“リゾート飯”を終えていた。


海は美しい。

空は青い。

風は心地よい。


――だが、心は晴れない。


カタリナは砂浜に座り込み、

空になったカップを指でつつきながら、

ずっとブツブツと文句を言い続けていた。


「はぁ、腹立つなぁ……。

 公爵には痛い目に遭わさないと気が済まない」


その声には、普段の脳筋テンションとは違う、

“本気で怒っている”響きがあった。


モカが隣で腕を組み、ため息をつく。


「うん……なんて言うか、珍しくおねーちゃんと気が合った。

 私もムカついてる」


ミネは冷静に、しかし眉をひそめながら言う。


「ですが、どうします?

 伯爵を懲らしめるのとは話が違いますよ。

 公爵ともなると、規模も権力も桁違いです」


モカも頷いた。


「そうだなぁ……公爵クラスになると利権も資源も大きいし、

 運搬ルートも護衛がめちゃくちゃ強い。

 簡単に手を出せる相手じゃないよ」


カタリナは砂を蹴りながら言う。


「ほら、そこはモカが考えてよ。

 びしっ、ばしっ、ぼかっ、でやってしまえばいいじゃん」


モカは額に手を当てた。


「おねーちゃん、相変わらず語彙力ないよね……。

 資金源のメインは強固に守られてるし、

 比較的狙えそうな輸送船は、すぐシルバーランス海賊団が襲うんだよ。

 “どうやって情報得てんの?”ってくらい早くね。

 そのおこぼれじゃ、公爵に痛手なんて与えられない」


「でも黙ってるのも癪だし……

 嫌がらせ作戦でも決行するか」


カタリナがそう言った瞬間――


「団長、甘いですっ!!

 あんな極悪人、もっと痛い目に遭わせましょう!!」


鋭い声が割り込んだ。


カタリナ、モカ、ミネの三人が同時に振り向く。


挿絵(By みてみん)

そこには、

怒りで震えるストラタジェム号船長、

赤毛猫海賊団 戦略立案大臣――


クラリス・ヴァンデル

が静かに立っていた。


普段は冷静沈着で、

本と紅茶を愛する知的な参謀。


そのクラリスが、

頬を紅潮させ、拳を握りしめ、

怒りで震えている。


カタリナは思わず目を丸くした。


「おうわっ!びっくりした……クラリスか。

 珍しいね、お前がこんなに興奮してるのって」


クラリスは震える声で言った。


「……私……

 今月買う予定だった本が……

 税金で……全部……買えなくなったんです……!」


その瞬間、

砂浜にいた全員が静まり返った。


モカが恐る恐る呟く。


「……あ、これ本気で怒ってるやつだ」


ミネも淡々と補足する。


「クラリスの“読書計画”を妨害した罪……重いですね」


カタリナは面白そうに呟いた。


「公爵……終わったな」


クラリスはぎゅっと拳を握りしめ、

静かに宣言した。


「団長。

 公爵には――社会的に死んでいただきましょう!」


その目は、海賊のそれではなく、

戦略家の目だった。


・ ・ ・


普段は冷静沈着な彼女が、ここまで感情を露わにするのは珍しい。

カタリナは少し身を引きながら問いかけた。


「で、どんな案があるの?」


クラリスは胸に手を当て、深く息を吸い込むと、

まるで演説でも始めるかのように堂々と宣言した。


「私達は海賊です。

 だからこそ、暴力ではない方法で追い詰めるのです。

 それこそが、私達に疑いの目が届かない“嫌がらせの極致”!」


その迫力に、モカが思わず一歩後ずさる。


「た、例えば?」


クラリスは指を天に向け、誇らしげに言った。


「《オペレーション・エルノ公爵の悪行100連発》」


カタリナは瞬きを繰り返す。


「ん?よ、よくわからないけど?」


クラリスは淡々と、しかし怒りを隠さずに説明を続けた。


「公爵の税金搾取の証拠を集める。

 リゾート惑星の住民の声を匿名で拡散。

 公爵の裏金ルートを暴露。

 公爵の私設艦隊の不正運用を暴露。

 あればですが、公爵の愛人問題を暴露。

 公爵の“税金で建てた豪邸”の写真を晒す。

 公爵の“税金で買った高級ワイン”のリストを晒す。

 公爵の“税金で作った趣味の庭園”を晒す。

 公爵の“税金で買った宇宙ヨット”を晒す。

 公爵の“税金で買ったペット(高級生体)”を晒す。


――例えばこんなところです。これを100連発!」


そして、クラリスは指を突き出した。


「“SNS”で攻めます!」


ミネが目を丸くする。


「SNS!?」


クラリスは頷き、さらに続けた。


「私達全員がSNSアカウントを秘匿性高くして作ります。

 その辺りはリルさんやミネさんにお任せします。


 現在のSNSは量子推薦AIで動いています。

 ユーザの興味・関心を量子レベルで解析し、

 最も反応しそうな人に自動で届ける仕組みになっています。


 つまりアルゴリズムが“面白い”と判断した投稿は勝手に拡散されるのです」


その瞬間、リルが勢いよく割り込んできた。


「はいはーい!それおもしろーい!

 私やるやるー!!


 ちょっと待ってね。構築するね」


ミネが慌てて止めようとする。


「え?今?」


「できたー!」


「はやいっ!」


リルは胸を張り、誇らしげに宣言した。


「Q-SECシステム!

 量子ソーシャル・エコーチェンバー!


 SNSは2~3個の星系単位でメインコンピュータが構築されていて、

 量子推薦AIが稼働してるの!


 それの一つに潜入して、量子推薦AIの“癖”を解析したよ!」


ミネは引きつった笑みを浮かべた。


「こわっ……」


リルはさらに続ける。


「どんな文章が拡散されやすいか、

 どんな画像が伸びるか、

 どんなタグが刺さるか、

 どんな時間帯が最適か――


 全部理解したよー!」


そして、リルはミネに向き直る。


「ミネー!」


「は、はい」


「3000人分の“匿名アカウント人格テンプレ”を作成してー。

 主婦風、学生風、会社員風、研究者風、観光客風、地元民風、

 元公爵関係者風、反公爵活動家風、インフルエンサー風、ただの猫好き風。


 色んなテンプレを考えて!

 リルちゃんはねぇ、赤毛猫のみんなの性格しかわからないから、

 そういうのは苦手!」


ミネは急にやる気の表情を示して頷いた。


「はい、やれます。

 それをランダムに組み合わせて投稿させるわけですね。

 ばれにくく、リアル。だからこそ拡散する」


クラリスは満足げに微笑んだ。


「さすがリルさん、ミネさん。

 そして最後は団員が手動で投稿するのです。

 思い思いに。隙間時間を使って。

 その“人らしさ”が残ることで、さらに自然になります。


 赤毛猫海賊団3000人を敵に回した報いですっ!」


カタリナはぽかんと口を開けた。


「な、なんだかわからないけど凄い!?」


クラリスはさらに説明を続ける。


「SNSのアルゴリズムは文章の波形――

 つまり文脈リズムや語彙の揺らぎを解析しています。


 リルさんのQ-SECがそれを逆利用し、

 投稿の波形をアルゴリズムが好む形に自動変換するのです。


 要は、どんな文章でも、どんな画像でも、どんなタグでも――

 バズりやすい!」


カタリナは拳を握りしめた。


「よし、やろう!」


モカも立ち上がる。


「じゃあ、ネタとなる悪事は私が収集するよ。

 これだけ悪事が揃ってれば、苦労しなくても山ほど揃うよ。

 任せて!」


クラリスは静かに笑った。


「ふっふっふ……

 投稿すれば即トレンド。

 画像を上げれば即拡散。

 公爵の悪行はすぐに近隣星系に伝わり、

 それが尾ひれをつけて帝都へ届く。


 私の本の恨み――

 晴らさずにおれようか!」


カタリナは小声で呟いた。


「……クラリスって怒らせない方がいいわね」

挿絵(By みてみん)

皆様、第56話をご覧いただきありがとうございます。

執事のミネです。


今回の作戦、いかがでしたでしょうか。

これまでカタリナ様やモカ様は「物理的な強奪」で悪を裁いてこられましたが、クラリスさんの提案した「SNSを用いた社会的抹殺」という手段は、ある意味で暴力以上にえげつない……いえ、戦略的で洗練された方法と言えます。


特に、リルさんの構築した「Q-SEC(量子ソーシャル・エコーチェンバー)」の性能には、私でさえ背筋が凍る思いがしました。

本来、SNSというのは個人の発信を媒介する平和なツールであるはずですが、それを「アルゴリズムの癖」まで完全に解析し、3,000人分の人格テンプレを用いて「バズ」を人工的に作り出すなんて。

公爵閣下は、明日起きたらご自身の愛車やペット、はたまた趣味の庭園に至るまで、全宇宙の住民に「税金の無駄遣い」として笑い者にされていることでしょう。


カタリナ様は「よく分からないけど凄い!」と仰っていましたが、私は横で震えておりましたよ。

あの時のクラリスさんの瞳の輝きと言ったら……「本の恨み」がこれほどまでに人を突き動かすのかと、読書家という人種を少し恐ろしく感じました。


一つ懸念があるとすれば、私たち赤毛猫海賊団が今後「SNSのバズらせ屋」として銀河で妙な噂にならないかということですが……まあ、エルノ公爵が破滅する姿を見られるのであれば、それも一興かもしれません。


さて、今回の「嫌がらせ作戦」がどれほどの効果を発揮するのか、そして公爵がどのような反応を見せるのか。団員一同、カップ麺を片手にモニターを監視する毎日が始まりそうです。


それでは、また次の作戦会議でお会いしましょう。

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