第54話 訓練してたらラスボス来ちゃったぞ!
赤毛猫海賊団は、対賊第24艦隊を丸ごと強奪した。
巡洋戦艦。
巡洋艦。
駆逐艦。
艦隊規模だけ見れば、もはや立派な大艦隊である。
だが――問題があった。
「うちら艦隊戦やったことないんだよね」
カタリナが普通に言った。
その通りだった。
赤毛猫海賊団は元々コルベット海賊団だ。
高速で動き回り、
敵の足を止め、
近づいて白兵戦。
それだけで勝ってきた。
なので現在……
赤毛猫海賊団は、艦隊運用の絶賛猛訓練中だった。
・ ・ ・
最初の数日。
カタリナはめちゃくちゃ楽しんでいた。
「うおぉぉぉ!!
艦隊動いてる!!
私の命令で動いてる!!」
弩級戦艦のブリッジ中央。
指揮席にふんぞり返りながら大興奮である。
モカが端末を操作しながら呆れる。
「子供か」
「あーはっはっは!
銀河一の大海賊、カタリナ様のお通りだ!
楽しい!!」
「銀河一なわけあるかい!
せいぜいご近所さんで一番強そうな……くらいだよ」
前方宙域では、
赤毛猫艦隊が不格好ながらも隊列を組み始めていた。
「右翼隊、右旋回します!」
「左翼隊、速度合わせます!」
「後衛隊ちょっと遅れてまーす!」
通信が飛び交う。
カタリナが身を乗り出した。
「おぉー!!
なんか艦隊っぽい!!」
「艦隊なんだよ」
ミネも淡々と報告する。
「多少上達しているようです。
初日に比べて悪くありません。
衝突事故も昨日より減りました」
「昨日は?」
「巡洋艦同士で軽くぶつかりました」
「軽くじゃねぇよ!!
危うく死者が出かけたわ!」
モカがツッコむ。
しかし赤毛猫団員たちは妙に順応が早かった。
元々、個々の技量は高い。
真面目だし、チーム行動にも慣れている。
数日後には。
「全艦、速度同期完了しましたー!」
「隊列誤差3%以内です!」
「主砲射線クリア!」
かなりそれっぽくなっていた。
カタリナが感動する。
「すごい!!
うちの子ら天才じゃん!!」
モカが肩をすくめる。
「だから言ったでしょ。
真面目なんだって」
「よーし!!
次は一斉砲撃訓練!!」
「ダメ」
「なんで」
「まずは航行訓練」
「えー」
・ ・ ・
さらに数日後。
「全艦、右へ回頭!」
赤毛猫艦隊が一斉に動く。
最初はバラバラだった艦列が、
かなり綺麗に揃い始めていた。
「おぉぉぉぉ!!」
カタリナがまた感動する。
「かっけぇぇぇ!!
見てモカ!!
映画みたい!!」
「まぁ、だいぶ形になってきたね」
「次は!?
次は何やるの!?」
「隊列維持」
「またぁ!?」
「艦隊戦はまずそこからなの!」
カタリナが椅子にだらっと崩れた。
「飽きた……」
「早いよ」
「主砲撃ちたい」
「ダメ」
「敵いないかなー」
「探すな」
ミネまで釘を刺す。
「カタリナ様は、
“新しい玩具を与えられた子供”
みたいになっています」
「失礼だな。
ちゃんと大人だよ」
「大人は“主砲撃ちたい!”って駄々こねません」
そんなやり取りをしていた時だった。
カタリナの視線が前方レーダーへ向く。
ぴたり。
そして。
ニヤリと笑った。
「……あいつらでいいや」
モカが嫌な予感で振り向く。
「は?」
カタリナが元気よく命令する。
「リルちゃん!
あいつらに主砲ぶっ放せ!」
リルちゃんも元気いっぱいだった。
「はいはーい!あいあいさー!」
モカの顔色が変わる。
「待て待て待て待て待てぇぇぇぇ!!」
――ズドォォォォォォォン!!
弩級戦艦エンジェルメッタメタ号の主砲が火を噴いた。
巨大なレーザーが宇宙を貫き、
遠方の艦影へ直撃する。
オペレーターが叫ぶ。
「命中!!
敵戦艦、シールド30%損耗!
敵艦、戦闘態勢へ移行!!」
モカが絶叫した。
「ちょっと待てぇぇ!!
勝手に撃つな!!
ていうかあいつら誰だよ!?」
カタリナがレーダーを眺める。
「んー?」
モニタに映し出された艦影をみて、少し考える。
「あ、あの旗。
シルバーランスじゃない?」
モカが固まった。
「……は?」
カタリナ、軽い。
「悪党だからオッケー!」
「オッケーじゃねぇぇぇ!!」
モカが机を叩く。
「ルキウスんとこじゃねーか!!
ラスボスだろうが!!」
ミネまでツッコむ。
「普通!!
“訓練中にラスボス撃つ”って発想になりません!!」
オペレーターが青ざめながら叫ぶ。
「敵艦隊、全艦武装展開!!
こちらへ加速中!!」
「当たり前です!!
撃たれたら怒ります!!」
ミネのツッコミが追いつかない。
モカがカタリナへ詰め寄る。
「どうすんの!?
まだ隊列訓練中なんだよ!?
主砲担当も慣れてないのに!!」
カタリナは気楽だった。
「いいじゃん」
椅子に座ったまま笑う。
「実戦の方が早く覚えるよ」
ミネが真顔で言う。
「カタリナ様の教育方針が一番怖いです」
その時。
空間が大きく歪んだ。
赤毛猫艦隊の前方。
ステルスコートが解除されて、ルキウス艦隊に巨大な黒い艦が、ゆっくりと姿を現す。
オペレーターの声が裏返った。
「識別コード確認!!
ルキウス旗艦 シルバーランス・ゼロ!!」
ミネが冷静に呟く。
「あ、何か隠れてました。
本命っぽいのが来ちゃいましたね。
というか、なぜかあちらも弩級戦艦持ってます」
少し考える。
「ただのイケメン海賊の分際で何者なんでしょうか?」
モカが叫ぶ。
「そこ気にしてる場合じゃねぇぇ!!
分際っていうな!うちらの方がよっぽど、弱小海賊の"分際"でだよ!
おねーちゃん!!
なんでラスボス呼び寄せてんの!!」
カタリナは首を傾げた。
「いや?
来たから撃っただけだよ?」
「順番逆ぅぅぅ!!
撃ったから来たんだよ!」
その瞬間。
通信回線へ強制割り込みが入った。
重く低い男の声。
『……何者だ、お前ら』
ブリッジの空気が変わる。
『俺たちが誰か知っていて撃ったのか?』
だが。
カタリナだけはいつも通りだった。
「あ、ルキウス?
やっほー」
モカが頭を抱える。
「軽い軽い軽い!!」
カタリナは続ける。
「ちょうどいいや。
この辺り、今は私の領地なの」
にやり。
「さっき“悪党税”作ったんだ。
悪党したいなら、有り金全部渡して?」
モカが叫ぶ。
「ちょうどよくねぇぇぇ!!」
ルキウスが沈黙する。
数秒。
そして――笑った。
『誰だ、お前は?
悪党税……?
ふざけているのか?』
カタリナは即答した。
「うん」
モカが崩れ落ちる。
「認めるなぁぁぁ!!」
カタリナはさらに続けた。
「領主に逆らうの?
じゃあ、やっつけるしかないなぁ」
笑う。
「本気で来ていいよ?」
「挑発すんなぁぁぁ!!」
ルキウスが静かに笑った。
『……面白い』
通信越しでも分かる。
明確な殺気だった。
『ならば――遊んでやろう』
モカが青ざめる。
「遊ばれたら死ぬわ!!」
リルちゃんが元気よく報告する。
「敵艦隊戦力解析完了!
うわぁ、めっちゃ強いよ!」
モカが即ツッコむ。
「“めっちゃ強い”って軽いな!!」
カタリナが立ち上がる。
「よし」
双剣を肩に担ぐ。
「じゃあ行くよ」
モカが絶叫した。
「行くよじゃねぇぇぇ!!
まだ訓練中なんだよ!!」
カタリナは平然としていた。
「実戦が一番の訓練だよ」
「だからその教育方針やめろって言ってんのぉぉぉ!!」
やっほー!銀河一の美貌と、十万年に一人のカリスマ性を兼ね備えたカタリナ団長だよ!
第54話、見てくれた?
せっかくカッコいい船をたくさん手に入れたのに、毎日まいにち右へ曲がったり左へ曲がったり……地味な航行訓練ばっかりで、私はすっかり退屈しちゃってたのよ。せっかくの弩級戦艦なんだから、やっぱりドカンとド派手に主砲を撃ちたいじゃない!
そしたら、なんという最高のタイミング!
レーダーにちょうどいい「悪党のマト」が映ったから、ご挨拶代わりに一発ぶっ放してあげたわ。モカが「勝手に撃つなー!」って耳元でうるさく騒いでたけど、私の戦術的直感はいつだって正しいんだから。
そしたらね、出てきたのよ。あのスカしたイケメン海賊、ルキウスの弩級戦艦がステルスを解除してさ!
ただの海賊の分際で、私とお揃いの弩級戦艦を持ってるなんて生意気よね。だから、私が新しく制定した「悪党税」を全額一括で今すぐ納めなさいって、ちゃーんと親切に教えてあげたわ。
ルキウスのやつ、通信越しに怒りで殺気をバリバリ飛ばしてきたけど、こっちだってワクワクが止まらないわ。
モカは「まだ訓練中なのにー!」って絶叫して崩れ落ちてたけど、私の教育方針はいつだって「実戦が一番の訓練」。実戦のほうが、みんな主砲の撃ち方も早く覚えるに決まってるじゃない!
さあ、ついにラスボスのお出ましよ!
十万年に一人の天才である私が、あのシルバーランスを「メッタメタ」にしてあげるから、次回の神がかった大活躍を、瞬きしないで見ててよね!




