312 執務室にて
エドワード王子は自分の執務室に戻ると「ふうっ」と大きく息を吐いた。
王宮内は現役の財務大臣の逮捕でまだ混乱を極めている。
財務大臣の取り調べや細かい調査は騎士団に任せて、エドワード王子は一旦引き上げてきた。
「無事に逮捕出来て良かったですね。まさか、大臣の執務室に逃走用の魔法陣が仕掛けてあるとは思いませんでした」
エドワード王子の向かい側に腰を下ろしながら、ブライアンはやれやれとばかりに首を振る。
「ハーパー侯爵家は魔法に長けていたからね。何かあると警戒して魔術士団長を同行させて正解だったよ。それもこれもアーサーが情報を寄こしてくれたおかげだな。ありがとう、アーサー」
エドワード王子に笑顔を向けられ、ソファーの片隅で小さくなっていたアーサーはブルブルと首を振る。
「とんでもありません。そもそも僕がエド、いえ、エドアルド様と別れる事になったのは、エドアルド様の命を狙っている人物がいたからです。その人物は僕達の目の前で自害しました。いえ、今思うと自害させられたと言った方がいいかもしれません。だから、今回の侍女もそうなるんじゃないかと進言したんです」
エドワード王子にエドアルドにそっくりな笑顔を向けられ、アーサーはほんの少し寂しさを覚える。
アーサーの弁明にエドワード王子は少しばかり苦笑を漏らす。
「無理にエドアルドに『様』を付けなくて大丈夫だよ。アーサーに『エドアルド様』なんて呼ばれたと知ったら後でエドアルドが悲しむぞ」
「あ、はい…」
エドワード王子はそう言ってくれたが、だからといってこの場で呼び捨てになど出来るはずがない。
アーサーは更に恐縮してますます身を縮こまらせるのだった。
「それにしても、ハーパー侯爵は自分の手駒には容赦なく自害させるように仕向けておきながら、自分自身にはそんな措置を取らずに逃走しようとするなんて、ふざけてますよね」
クリフトンが吐き捨てるようにハーパー侯爵をこき下ろす。
「上手く逃げおおせると思っていたんだろうね。素直に取り調べに応じなければ自白剤を使っても構わないと告げてあるからね。これでエドアルドを狙っていたのがハーパー侯爵だと判明したら、エドアルドも大手を振って王都に戻って来れるよ」
エドワード王子の口から『自白剤』という言葉を聞いて他の三人はブルリと身を震わせた。
『自白剤』を使われると場合によっては廃人同然になると言われている。
そんな危険な薬物を使ってでもハーパー侯爵の自白を引き出そうとするなんて、よほどエドワード王子は怒っているようだ。
それ相応の罪を犯したのだから当然だろうと、三人は互いに顔を見合わせて納得し合うのだった。




