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311 逮捕

 男はいつものように登城すると、自分の勤務する部署へと足を運んだ。


 そこには既に部下達が出勤していて、男の姿を見ると慌てて頭を下げてくる。


「「おはようございます」」


「ああ、おはよう」


 鷹揚に頭を下げて自分の机に腰を下ろすと、すかさず部下が書類を持ってやってくる。


「財務大臣、こちらの書類の確認をお願いします」


「わかった。そこに置いておけ」


 男が顎をしゃくって机の上を指すと、部下は書類をそこに置いて下がっていった。


 男はすぐには書類に目を通さず、他の事に時間を割いた。


 部下がチラチラとこちらを窺っているのを横目で見ながら、なおも知らん顔を貫く。


 しびれを切らした部下が立ち上がりかける頃を見計らって、ようやく書類に目を通すというのは幾度となく繰り返されてきた。


 部下達は不満を抱えながらも黙々と仕事を続けるしかなかった。


 男は仕事をしながらも、頭の中は別の事でいっぱいだった。


(そろそろ、エドワード王子のお茶会が始まる時間だな。あの女は上手いことやってくれるだろうか? まあ、万が一失敗してもこちらまでは辿れないようにしてあるからな)


 思わず口元を緩めそうになって慌ててグッと唇を噛み締める。


 幸い部下達は自分の仕事に没頭していて、こちらの方には注意を向けていなかったようだ。


 チラチラと時間を気にしながら仕事をしていたが、特に何事もなく時間は過ぎていく。


(まあ、お茶会が開かれているのはこことは違う棟だからな。ここまで騒ぎは聞こえないのだろう)


 そう思いながら尚も仕事をしていると、突然ノックも無しに扉が開かれ、ドヤドヤと武装した騎士達が部屋になだれ込んできた。


「ダグラス・ハーパー! エドワード王子毒殺未遂容疑で逮捕する!」


「!!」


 ダグラスは慌てて足元に隠して設置していた転移陣に魔力を流して逃走しようとした。


 だが、転移陣が光るより早くその身は騎士達によって転移陣から引き剥がされた。


「な、何だ! 私が一体何をしたと言うのだ!」


 両腕をそれぞれ騎士に拘束されたダグラスは、それを振りほどこうと必死に藻掻くが、鍛えられた騎士達はびくともしなかった。


 そんなダグラスの前に副騎士団長となったアンソニー・モーリスがずいと立ち塞がる。


「本日、エドワード王子のお茶会にて、侍女の一人がお茶に毒を混入しようとした。彼女はその場で拘束され、エドワード王子と令嬢達に被害はなかった。侍女を尋問したところ、『ダグラス・ハーパー侯爵に頼まれた』と自供したよ。何だ? そんな不思議そうな顔をして。ああ、そうか。君の名前を出そうとすると自害するように魔法をかけたのにって思っているんだろう。残念だったね。尋問の前に王宮魔導士が魔法を解除してくれたよ」


 アンソニーが無表情のまま告げると、ダグラスは忌々しそうな顔でアンソニーを睨みつける。


「さあ、これから洗いざらい吐いてもらうぞ。連れて行け!」


 ダグラスは後ろ手に拘束され、四方を騎士に囲まれて執務室から出ていった。


 アンソニーは一人残ると、部屋の中をグルリと見回して、一人の文官に声をかけた。


「君がここの文官の取りまとめ役かな?」


 一連の出来事に呆然としていた文官は、アンソニーに声をかけられ、慌てて立ち上がって姿勢を正す。


「は、はいっ!」


「後任の大臣が決まるまでは君がこの部署の責任者として対応してほしいそうだ」


「え? わ、私が…ですか?」


「ああ、頑張れよ」 


 アンソニーはその文官の肩をポンポンと叩くと、意気揚々と部屋を出ていった。


 後に残された文官達はポカンとしたままそれを見送るだけだった。




 

 

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