307 候補者決定の余波
交流会の翌日。
その男はいつものように登城すると、自分の勤める部署の執務室へと入った。
午前中の仕事を終えて昼食を取るために食堂に向かっていると、あちこちで王宮に勤める者や侍女などがヒソヒソと話をしているのを見かけた。
(何だ? 何かあったのか?)
話をしている者の中には、男の姿を目にした途端、更に声をひそめるような者もいた。
(…私に関係のある事なのか?)
足を止めて問いただそうかと思ったが、あまり目立つような行動はしたくなかった。
食堂で食事をしていても周りが気になって仕方がなかった。
食事をしている人のうち何人かはこちらに視線を寄越すように見えるのは気の所為だろうか?
もやもやした気持ちを抱えながら食事を終えると、そそくさと執務室に戻った。
自分の席に座って考えてみるが、何も思い当たるふしはない。
そのうちに部下達も食事を終えて戻ってきた。
「君、一体皆は何を噂しているんだ? 何か私に関係ある事なのか?」
男に問われた部下はビクッと身体を強張らせた。
「え? いや、あの…」
その部下は嘘をつくのが下手な事で有名だった。
だからこそ、男もその部下に質問したのだ。
部下はどう誤魔化そうかとキョロキョロしたが、誰も助けに入らなかった。
部下は諦めて男の質問に答える。
「実は…。エドワード王子が婚約者候補の令嬢を三人に絞ったという話が…」
部下の言葉に男は軽く眉を寄せた。
(三人の婚約者候補だと!? まさか、その中に私の娘も入っているのか? それとも…)
自分に向けられた視線がどちらの意味を持っていたのか判断が出来なかった。
「ほう? それで? どこのご令嬢が選ばれたのかわかっているのか?」
期待を込めて尋ねたが、返ってきた言葉は男を失望させるものだった。
「そ、それがその…。ベックリー侯爵家とコーニッシュ侯爵家とフォックス侯爵家のご令嬢だそうです」
部下の返事を聞いた途端、男は頭をガンと殴られたような衝撃を受けた。
男に向けられた視線は婚約者候補から外れた事への同情からだったのだ。
男は何とか平静を保ちながら部下に告げた。
「そうか。公爵家のご令嬢は選ばれなかったのか。まあ、ミカエラ嬢はエドワード王子のいとこに当たられるからな」
ようやくそれだけを絞り出すと、何気ないふりで執務へと戻った。
だが、男の心の中ははらわたが煮えくり返るような思いでいっぱいだった。
(何故だ! 何故私の娘が選ばれなかったのか!?)
おまけにエドアルドに付けたはずの監視からの報告も途絶えていた。
(まったく使えない奴だ。だが、今はエドワード王子の方が先決だ。何としても私の娘を婚約者にさせないと…。ここは一つ、誰かを排除するしかないな)
男はどうやって排除するべきかを思案するのだった。




