296 母親との対話
ブリジットが自室に入ってくつろいでいると、扉がノックされて母親のアレクシアが顔を見せた。
「ブリジット、おかえりなさい。あら、少し日焼けした? 何だか肌の調子が悪いみたいね。後でマッサージをさせないと…」
「お母様、このくらい大した事はありません」
ブリジットが母親を止めようとしたが、却って逆効果だった。
「何を言っているの! 王宮のパーティーに呼ばれているのに! テューダー侯爵家の名にかけて無様な姿をお見せするわけにはいきません! よろしいわね? 明日はドレスの採寸があるのを忘れないでちょうだい」
「わかりました、お母様。戻ったばかりで疲れているので少し休ませてもらってもいいですか?」
これ以上母親のお小言を聞きたくなくてそう告げると、母親はあっさりと了承した。
「ああ、そうね。お肌のためには睡眠も必要ですからね。夕食までゆっくりと休みなさい」
母親は部屋にいたブリジットの侍女に何かを告げながら一緒に部屋を出ていった。
一人きりになったブリジットはようやく解放された気分になり、ドレスのままベッドにドサッと横になった。
(きっと、お母様は私がエドワード王子に見初められるのを期待しているんだわ)
ブリジットはそう考えて、ため息をつかざるをえなかった。
一番上の姉は十歳も年上の騎士と結婚させられた。
伯爵家の出身の男性騎士だが、実力を買われ既に副騎士団長を務めている。
二番目の姉もやはり剣の腕の立つ男性と婚約しているが、彼は子爵家の出身らしい。
だからこそ、ブリジットにはもっと爵位が上の男性と縁付いてもらいたいと思っているのだろう。
実のところ、アルドリッジ公爵家のブライアンは隣国の王女と婚約したが、エドワード王子とダウナー公爵家のクリフトンはまだ婚約者が決まっていない。
あわよくば、どちらかとブリジットが婚約してくれればと思っているに違いない。
だが、ブリジットには二人が自分を選ぶとは到底思えなかった。
王家と公爵家が、よりによって冒険者として活動しているような令嬢を嫁として迎える訳が無いと思っている。
そもそも、エドワード王子と結婚したら確実に次期王妃という立場になるのだ。
とてもじゃないが、自分にそんな大それた立場になれるとは思えなかった。
第一、周りの人間がそんな事を許すとは思えなかった。
(ああ、もう…。考えても仕方がないわ)
そんな考えを頭から追い払っていると、ブリジットはいつしか眠りについていた。




