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292 買い物

「ブリジット、行っちゃったね」


 ブリジットの姿が見えなくなると、ポツリとウィルが呟いた。


「…そうだね」


 ブリジットは『またどこかで会いましょう』と言ったけれど、必ず会えるという保証はない。


 今なら追いかければ間に合うかも…。


 そう思ったけれど、一度断られて怖気づいたのか足が動かなかった。


「あーあ、ブリジットともっと一緒にいたかったな」


 ウィルがものすごく残念そうに呟いた。


 まさか!?


 ウィルもブリジットの事を好きになったのか?


 こんな身近に恋のライバルがいるとは思わなかった。


「へえ? どうして?」


 僕は感情を押し殺してウィルに尋ねる。


「だってさ。あんなに美味しい料理を作ってくれるんだよ? 一緒にいたらもっともっと美味しい料理がお腹いっぱい食べられるじゃないか」


 …ああ。


 ウィルはどこまでいってもウィルだった。


「…はは。ソウダネ…」


 僕は乾いた返事を返すと、また次のゴブリンを探すために歩き出した。


 その後も数匹のゴブリンを倒して依頼書に書かれた数を達成した。


 森を出てから冒険者ギルドに寄って、依頼書と討伐したゴブリンの耳を差し出して報酬をもらった。


「さあ、これから買い物に行こうか」


「買い物? 一体何を買うんだ?」


 勢い込む僕にウイルが首をかしげた。


「そりゃ、調理器具と調味料に決まっているじゃないか。『市販のタレ』って言ってただろ? 今日のと同じタレも

きっと売っているよ。それに他のタレにももっと美味しいのがあるかもしれないよ」


「もっと美味しいタレ!? 行く行く! 早く見に行こうよ」


 ウイルがタッと走り出す。


「ウイルってば! そっちじゃないよ!」


 まるきり正反対の方向に走り出すウイルを大慌てで引き留めると、調理器具を売っているお店に向かった。


 これまでオーウェンとヴィンセントに任せっきりだったから、今度からは自分達で何もかもやらないといけないんだな。


 学院を卒業して、アーサーと冒険者になってから一人前のつもりだったけれど、実際はオーウェンとヴィンセントにおんぶにだっこ状態だった。


 オーウェンは『何かあれば呼んでくれ』とは言ったけれど、そうそう呼び出していいわけがない。


 前世だって自分で料理なんてしてこなかったしね。


 もっと自立しなくちゃ駄目だな。


 僕は新しく買ったフライパンをマジックバッグに仕舞うと、タレや調味料を売っている店へと向かった。


 ブリジットが使っていた調味料はすぐに見つかった。


 他にも気になるタレを何個か買うと、ようやく満足して宿屋に戻った。



 

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