291 別れ
振り返ってみたが、そこには誰もいなかった。
おかしいな?
僕の勘違いだったのだろうか?
「エドアルドさん、どうかした?」
ブリジットに話しかけられて僕は慌てて身体の向きを元に戻した。
「いや、何でもないよ」
ブリジットは僕を見て微笑むと、洗い終わったお皿やフライパンをマジックバッグにしまった。
僕も辺りをぐるりと見回したが、食事をする前とほぼ変わらないくらい元通りになっていた。
「ありがとう。素材をもらうばかりか、ご馳走になっちゃったわね」
「とんでもない。僕達こそ料理をしてもらって助かったよ。ありがとう」
二人でお礼を言い合って、ペコペコと頭を下げているうちにお互い顔を見合わせて笑った。
ブリジットの屈託のない笑顔になんとなく心を惹かれる。
ブリジットは一人で冒険者をしていると言ったけれど、今まで危険な事はなかったのだろうか?
このまま、別れるのがなんとなく惜しい気がするけれど、一緒に行こうと誘ってもいいだろうか?
それともブリジットにとって迷惑な話だろうか?
僕は心の中でぐるぐると自問自答するが、答えは出てこない。
そうこうしているうちにブリジットは「それじゃ…」と立ち去ろうとした。
嫌だ!
後悔なんてしたくない!
「待って!」
気づけば僕はブリジットの手を取っていた。
「…え?」
振り返ったブリジットの驚いた顔に僕は慌てて手を離した。
「ご、ごめん。ブリジットさんさえよければ、一緒に行かないかな、と思って…」
恥ずかしさで顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
体温が上昇しているせいで、眼鏡の下の部分が曇ってくる。
以前、エドワード王子の身代わりでアンジェリカ王女と会った時は、こんなふうにはならなかったのに、どうしてブリジット相手だと、こんなに心がざわざわとしてくるんだろう。
ブリジットはしばらく僕を見つめていたが、やがて深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。誰かと一緒にパーティーを組むのは私の一存では決められないの」
つまり、誰かの許可がいるという事だろうか?
その場合、許可を出すのはブリジットの両親だと思うのだけれど、やはりどこの馬の骨ともわからない男が娘と一緒にいる事を嫌うのだろうか?
どちらにしても断られた以上、諦めるしかない。
「いや、僕の方こそいきなり申し訳ない」
「いいのよ。誘ってくれて嬉しかったわ。じゃあ、またどこかで会えるといいわね」
そう言ってブリジットはバイバイと手を振って森の中へ消えていった。
僕はその姿が見えなくなるまでじっと見送るのだった。




