282 噂話
「エドアルド、ぼーっとしてどうしたんだ?」
ウィルに呼びかけられて僕はハッと我に返った。
ウィルは椅子に腰掛けて足をブラブラさせながら僕を見ている。
「いや、なんでもないよ」
そう笑ってみせるとウィルは「ふうん」と気のない返事をする。
わからない事をあれこれ考えても仕方がないな。
しばらくはウィルと二人、この街で冒険者として生活していこう。
そのためには冒険者ギルドに行って、受けられる依頼がないか見に行くか。
「ウィル、今から冒険者ギルドに行ってみようか? 何か僕達に出来る依頼があるかもしれないぞ」
「依頼?」
「そうだよ。もしかしたら美味しいお肉にありつけるかもしれないよ」
「美味しいお肉!? 行く行く!」
ウィルは椅子から飛び降りると、いそいそと部屋から出ようとする。
「ちょっと待って! まだ何の準備もしてないよ!」
僕は慌ててウィルを引き止めた。
まったく!
食べ物の事になったら見境がなくなるんだからな。
剣やマジックバッグを装着して準備を整えると、僕達は宿屋を後にした。
街は大勢の人が行き交い、活気に溢れている。
中には立ち話に興じているご婦人達の姿もあった。
その中のあるご婦人達の傍を通った時、『エドワード王子』という言葉が僕の耳に入った。
僕は思わず立ち止まり、店前の商品を見ているフリをして、ご婦人達の話に耳を傾けた。
「エドワード王子はもう学院を卒業されたんでしょう? そろそろどこかのご令嬢との婚約話が出てもおかしくないんじゃないかしら?」
僕よりも年上だが、ご婦人達の中では比較的若い女性が、年嵩の女性に話しかけている。
「今の国王陛下と王妃様も学院を卒業されてからのご婚約だったからねぇ。エドワード王子ももう間もなくじゃないかしら?」
それを受けて今度は別の女性が声を上げる。
「やっぱり宰相様のところのお嬢様かしら? 随分と綺麗な方だと聞いてるわ」
宰相のところ?
つまり、ブライアンの姉か妹って事か?
だが、それだといとこ同士の結婚になってしまうんじゃないのか?
そう懸念したのは、僕だけではなく年嵩の女性もだった。
「宰相様のところはエドワード王子とはいとこ同士になるから、結婚はさせないと思うけどね」
「確かにそうね。アルドリッジ公爵家から二代続けて王室に嫁いだら、ダウナー公爵家が黙ってないと思うわよ」
ダウナー公爵家?
確か、クリフトンの家だったっけ。
『黙ってない』という事は対立関係にあるのかな?
もっと詳しい話を聞きたかったが、彼女達の話は別の話題へと移っていった。
僕はそれ以上、留まる事を諦めて冒険者ギルドへと向かうのだった。




