280 別れ
お菓子を口いっぱいに放り込んでいたウィルだったが、突然目を白黒させ始めた。
「モゴッ! …み、みず…」
どうやら詰め込みすぎたようで、喉につかえたらしい。
僕は急いでウィルのカップに残っていたお茶を飲ませた。
ゴクゴクッと音を立ててお茶を飲んだウィルは、「ふぅーっ」と大きく息を吐いた。
「ああ、死ぬかと思った…」
そんなウィルの様子を見て、黒の女王がクスッと笑みを零し、オーウェン達も笑顔を見せている。
少ししんみりした空気が流れていたのが、ウィルのおかげで払拭されたようだ。
「宿まで送って行きましょう。…少し待っていて下さいね」
オーウェンは隣に座る黒の女王の頬に軽くキスをするとやおら立ち上がった。
仲が良いのはわかるけれど、独り身の僕には目の毒だから止めてほしい。
まぁ、唇にキスをするよりはマシかな?
オーウェンは僕とウィルの後ろに立つと足元に魔法陣を展開させた。
「それじゃ、これで…」
別れの挨拶を言い終わらないうちに、僕の視界からヴィンセント達の姿が消えた。
エレベーターに乗ったような浮遊感を覚えたと思った時には、既に宿屋の部屋の中にいた。
たった一晩いなかっただけなのに、妙に懐かしい感じがするのは何故だろう。
だけど、これからはウィルと二人だけなのに、こんな広い部屋は必要ないんじゃないかな?
そんな事を考えていると、オーウェンがパチンと指を鳴らした。
すると、広々とした部屋がみるみるうちに狭まってくる。
「え? なんで?」
ウィルと二人ポカンとしていると、オーウェンがニコッと微笑んだ。
「今までの部屋は元々私が魔法で広げていたものですからね。実際はこの広さだったのですよ。これならウィルと二
人で使うには十分でしょう」
なんと!
まさか、オーウェンが魔法で広くしていたとは思わなかった。
だけど、これだったら手頃な広さだと言えるかな。
「エドアルド君。改めてお詫びします。こんなに早くあなたとお別れしなければならなくなった事、本当に申し訳あ
りません」
オーウェンが僕に深々と頭を下げてくる。
エルフの頂点であるオーウェンにこんなふうに頭を下げられるなんて、ちょっといたたまれない。
「そんなに謝らなくて大丈夫ですよ。今までも十分良くしてもらっていたし…。それに何かあった時は迷わず呼び出しますからね」
そう告げるとオーウェンは口元を綻ばせコクリと頷いた。
「ええ。待ってますよ。それでは…」
それだけを告げるとオーウェンの姿は僕達の前から消え去った。
後には魔力の残滓がキラキラと輝いていた。




