272 ジュリアスの変化
お茶を飲もうとカップに手を伸ばしたところで、向かいに座るジュリアスの手が目に入った。
ジュリアスもお茶を飲もうとカップの持ち手に手を掛けていたが、その指が徐々に変化していった。
滑らかな肌が少しずつ枯れたような肌になっていき、血管や筋が浮き出てきた。
そう、まるで老人のような手になっていったのだ。
驚いてジュリアスの顔を見ると、その顔も徐々に年を取っていき、青年から壮年、そして中年へと変化していった。
そんなジュリアスの変化には誰もが気づいた。
「ジュリアス!? どうしたのですか!?」
オーウェンが立ち上がり、斜め前に座るジュリアスの元に近寄った。
中年へと変化したジュリアスだったが、そこで変化は止まらず、更に老人へと姿を変える。
浦島太郎は玉手箱を開けて煙を浴びて一気に老人へと変化したが、それに比べてジュリアスの変化はなだらかなものだった。
だが、変化は一向に止まらず、どんどんとしわまみれの老人へと変わっていく。
ガシャン!
カップの持ち手に添えられたジュリアスの指がブルブルと震え、カップを取り落とした。
小さな妖精達が現れて、零れたお茶や倒れたカップをせっせと片付けていく。
「ち、父上…。…申し訳ありません。もう、青年の姿を保つ事が…難しくなってきました…」
先ほどまで背筋を伸ばして座っていたジュリアスだったが、今は背中が少し曲がったように前屈みになっている。
もしかして、これがジュリアスの本来の姿なのだろうか?
さっきまでの青年の姿はエルフの力を使って若く見せていたという事か?
「ジュリアス、まさか!?」
ジュリアスの隣に座るヴィンセントが、ジュリアスの手を取って背中に手を回した。
ジュリアスはヴィンセントに向かって力無く笑ってみせる。
「…ヴィーには…こんな姿を曝したくはありませんでした…。綺麗なままの姿だけを覚えていて欲しかったのに…」
うっと呻いてジュリアスは胸の辺りを苦しそうに押さえた。
「ジュリアス!」
ヴィンセントが慌ててジュリアスの身体を支える。
「…大丈夫です。…まだ、もう少しだけ生きる時間はありそうです…」
ジュリアスはエルフと人間の間に生まれたハーフエルフだと言っていた。
もしかしたら、エルフよりも寿命は短いのではなかろうか?
そして、もうじき寿命が尽きてしまうのではないだろうか?
いつもは空気の読めない発言をするウィルだが、何かを感じているのか先ほどからずっと黙ったままだ。
黒の女王はただ悲しそうな目でジュリアスを見つめている。
僕も何も出来ずにただ手をこまぬいてジュリアスの様子を見ているだけだった。




